第47話 微妙な雰囲気を打開せよ


 女性がお礼を告げて去ると、私達はゆっくりベンチに腰を掛けた。


「せっかく美味しいものを買いましたから、食べましょう」


 袋を覗きながら気丈に振る舞うギデオン様だが、少し無理をしているように見えた。


(睨まれているように見えるっていうのは、ギデオン様が一番気にしている部分だったはず)


 同じような誤解をしてしまったという経験がある上で本人から事情を聞いたからこそ、感じるものがあった。ギデオン様の様子を見る限り、純粋に楽しめているようには見えなくなっていた。


(これは……今度は私がフォローする番だ)


 そう思った瞬間、すぐに行動した。下を見るギデオン様に対して少し顔を近付けた。彼の瞳が見えるように動くと、覗き込む形になった。バッチリと目が合ったところで、私はじっと見続けた。


「ギデオン様の瞳は魅力的ですね」


「……私の目が、ですか?」


「はい。遠くからでも相手を怯ませることができるというのは、簡単にできることではないですから。今回は意図しなかった行動ですけど、今後誰かを助ける時に使うことができるのはある種武器ですよね」


 以前誤解を解かれた時には、怖がられることは悪いことではないということは伝えた。あの時は純粋にそう思っていたし、舐められないのは羨ましいと思っていた。その気持ちに代わりはないのだが、今はそこに素敵だという感覚が浮かび上がっている。


 それをどうにか言語化したいと思いながら、ギデオン様の瞳をいつになく真剣に見つめる。


「魅惑的な眼差しとか、可愛らしい瞳みたいな言葉を耳にしたことがありますが、ギデオン様の瞳も同じように言い表せると思うんです」


「えっ」


「例えば、気迫に満ちた眼差しとか。洗練された瞳とか。今私が即席で作った表現なので、少し変な言葉かもしれませんが」


 もっといい言葉がないかとギデオン様を観察すれば、恥ずかしそうに目を逸らされてしまった。


「あ、ありがとうございます」


 沈んだ気持ちが元に戻ったかはわからないが、頬がほんのり赤く染まる姿を見ると、先程よりは気分がマシになったのではないかと思えた。


「……すみません、気を遣わせてしまって」


 次はどう言葉をかけようと考えている間に、ギデオン様から申し訳なさそうな声が漏れた。


「気にしないよう努めたのですが、顔に出ていましたよね。……以前もアンジェリカ嬢に助言をいただいたのに、同じことを繰り返してしまって申し訳ないです」


 鋭い眼差しに関して何度も落ち込んで申し訳ない、そう謝罪しているように聞こえた私は即座に否定した。


「ギデオン様は何も悪いことはされてませんよ。ですので謝罪は不要かと。長年気にしていたことを、すぐに意識しなくなるというのは難しい話ですから」


 首を横に振ってから、私はそのままもう一度ギデオン様の瞳をじっと見つめた。


「私はギデオン様の瞳が好きなので。ギデオン様が気にしてしまったり、嫌になってしまったりする度、私が魅力を伝えます」


「‼」


 強く言い切ると、ギデオン様の瞳は大きく見開かれた。ほんのりと染まった頬は、より濃く赤く色付き始めた。このまま頑張れば微妙に暗くなっていた雰囲気をどうにかできると踏んだ。


「だから大丈夫です。気になったらいつでも言ってください」


 本心であることを伝えるために、真剣な眼差しで見つめた後、満面の笑みを浮かべた。


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