第64話 測定不能
駆は、苛立っていた。
なぜ日向をすぐに撤退させないのか、と。
巨大な敵は、もう都庁に向かって動きはじめた。
もはや、日向に戦う術はないのは明らかだ。
だが、戦いの指揮を執る大人たちは沈黙したままだ。
おそらく、放心しているのだ。
だったら、自分が日向を開放してやるしかない。
もはや、死を待つのみの戦いから、今すぐ。
駆は声の限り叫ぼうとした。
『早く撤退させろ!』の一言を。
しかし、駆が叫ぼうとした刹那、都庁が動いた。
左右の肩を抱くように、膝を付いていた姿勢から立ち上がった。
だから、駆は言葉を変えて叫んだ。
「逃げろ――! 日向――!」
その叫びは、都庁のコックピットにも響いた。
美空のインカムが、オンになったままだったためだった。
その叫びを聞いた日向は、逆に決意を強くした。
いつだって支えてくれた。今も、必死で自分を守ろうとしてくれている。
馬鹿みたいにやさしい彼を、私のヒーローを――
――助けたい。
直後、都庁は信じられない動きを見せた。
「MGOが浮上してる? なぜ?」
美空が驚愕し、つぶやいた。
都庁はその場からゆっくりと重力に逆らい、浮遊し始めていた。
MGOFのスタッフたちにも、明らかな動揺が走る。
なぜなら、そもそも兵器としての都庁の設計に、飛行性能は存在しなかったからだ。
仮に飛行性能があったとしても、巨大な質量を持ち上げる推力は? それを実現するエネルギーは? さらにはそのエネルギーの補給は? すべてが謎だった。
しかし、現実として都庁は両椀を広げ、空へと上昇を続けている。
「適合率100%からさらに上昇! 110%、120%、130%! さらに上昇‼」
「ありえない! どういうこと?」
「わかりません!」
職員との短いやり取りの後、美空は日向に問うた。
「どうなってるの? そっちの状況を教えて!」
日向の返事はない。
が、駆には都庁の動きにより日向の意図が漠然と読める気がした。
都庁は、ゆっくり浮上し巨大な敵にまっすぐ近づいている。しかも、加速しながら。日向は、きっと恐ろしいことを考えている。
「日向、ダメだ!」再び駆は叫んだ!
理子の船と同じように、敵に体当たりしようとしているのではないかと思ったからだ。
しかし、都庁は止まらずに上昇を続ける。敵も都庁をめがけゆっくりと下降し続ける。
「敵との距離、一◯◯◯メートルを切りました!」
MGOFのスタッフが叫んだと同時、敵の攻撃が放たれた。
白い閃光が一直線に都庁に迫る!
が、なんと都庁はその攻撃を鏡のように跳ね返した‼
会議室にどよめきが起こる。
よく見れば、都庁は全体に白光し始めていた。まるで白い光の膜に覆われているかのように。
それは新たな糧を得て、都庁がもう一次元上位の存在に進化を遂げたようにも見えた。
「適合率さらに上昇! 170%、180%、190%! 測定不能!」
「いったい……何が起こっているの?」
美空の言葉は、会議室にいるすべての人間の思いを代弁していた。
大岩も、天馬も、代田も、モニターを食い入るように見つめていた。
「敵との距離、五◯◯メートル!」
モニター越しには、都庁と敵との距離はごくわずかに見える。
都庁が近づくほど、敵の巨大さが際立って感じられた。
「敵との距離、三◯◯、二◯◯……接触します!」
その瞬間、駆は瞳を強く閉じた。
絶対に見たくない惨劇が、映し出されると思ったからだ。
しかし、少し経っても叫びや悲鳴の類は聞こえてこなかった。
もし駆の予想した悲劇が現実となっていたら、この静けさはありえない。
画面の向こうで、いったい何が?
覚悟を決めると、駆はゆっくり瞼を開いた。
モニターは、信じがたいものを映し出していた。
――都庁が強大な敵を、空へと押し返している。
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