第62話 責務
――が、またしても敵は消えた!
今度は、どこ?
苛立つ理子をあざ笑うかのように、再び背後から衝撃が襲った!
またしても、敵に背後を取られ攻撃を受けたようだった。
また、地面が近づく! コックピットの黄色い点滅も始まる! 必死で機首を上げる。
さらに先程より大きく旋回し、敵から距離を取ろうと試みる。
が、敵はそんな理子の動きを見越していたかのように、後方にピタリと追いすがる。
ならばと、理子はその場で強引に縦旋回を試みる。
が、敵の巨大な黒い球体は、その威容からは想像もつかないほどの機敏さで理子の船と同様に縦旋回し追って来る。逃げても、どこまでも背後に追いすがる巨大な影。
これでは、なかなか攻撃を仕掛けられない。
それどころか、相手にとって「格好の的」ではないか?
その嫌な予感は的中する。
――‼
またしても、背後から衝撃が襲った。
先程にも増して、その威力は甚大だった。
コックピット内には、先程より速い黄色の明滅が始まる。
振り返れば、船の後方部の状態はほぼ大破に近かった。
飛んでいるのが不思議なほどに。
まもなく船は完全に推力を失い、おそらく墜落するだろう。
鈴木が噛みしめるように言った。
「理子様、もはや――」
その言葉を遮るように理子が言った。
「――いえ、あきらめません!」
決然とした響きに、鈴木は理子の横顔を思わず見た。
その表情には、ある「覚悟」が読み取れた。
死への覚悟だ。
「千六百年近く、皇室に託された真の役目。陛下、そして父、兄弟亡き今、私にはその役目を全うする責務があります。この国を異敵から守るという責務が」
「理子様……」
鈴木は思った。
あるいは、彼女はあえて死に急いでいるのかもしれない。
昨日、彼女は愛すべきすべてを失った。
たとえ皇室と言えども、いや皇室だからこそ、家族の絆は深い。
その悲しみも癒えぬなか、彼女はいきなり戦いに駆り出された。
皇室唯一の生き残りとして、その役目を果たすために。
生き残ったとしても彼女はひとりぼっちで、新たな重責を担わなければならないだろう。
だから、あえてこの戦いの果ての死を望んでいるのかもしれない。
しかし、それでも自分はこの若い殿下のお気持ちに寄り添おうと覚悟を決めた。
理不尽に背負わされた責務を、命を賭してまで全うしようとしていらっしゃるのだから。
その御心に寄り添うことは、侍従として誉れ以外のなにものでもない。
「あなたを巻き込んでしまうこと、大変申し訳なく思います」
理子の声は、少し震えていた。
対する鈴木は、首を振る。
「長きに渡り先の陛下に、そしてほんの短い間でしたが最後に理子様にお仕えで
きたこと、この上ない幸せでございました」
鈴木がそう言って一礼すると、理子の瞳から一筋の光るものがこぼれた。
「では」
「はい」
ふたりの最後の会話はごく簡潔だったが、多くの想いを含有していた。
直後、船は急停止。すぐさま、猛スピードで後進を始めた。
巨大な敵の球体と理子の船との距離が一気に縮む。
――数秒後、船は巨大な敵と激突、眩い光とともに爆ぜた。
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