第60話 逆転

「遅きに失しましたが、代々受け継いだ皇室の真の役目、果たさせて頂きます」

 

 理子は、三六◯度外界を見渡せるコックピットから眼下の敵を見た。

 それは、小さな目の集合体にも、蝿の大群のようにも見えた。

 いずれにせよ、敵としてわかりやすくて助かる。

 

 一方で相対している、都庁が変型したと思われる巨大な人型兵器にこそ驚いた。

 先程から声を聞く限り、若い女性が操縦しているようだ。


 いつの間にこの国は、このような兵器を建造していたのだろうか?


 だが、真実を知るのは戦いが終わってからでもよい。

 今はとにかく、彼女と共闘し異敵を倒すのみ。

 最初こそ、思念伝達による船の操縦に苦戦したが、もうコツはつかめた。

 隣には、離陸時から変わらず侍従の鈴木が座っていた。

 船は巨大な形状からは考えられないほど高速で飛行していたが、理子も鈴木もパイロットスーツなどに身を包む必要はなかった。コックピット内は、温度も気圧もさらに重力までも一定しており、地上と変らず快適だった。シートベルトすらなかったが、体は空気の膜のようなもので覆われたかのようにふんわりとだが、安定していた。


「理子様、飛行と同様、この船の兵器は念じて頂ければ発射できる仕組みとなっております」


「具体的には?」


「敵を見て、狙いを定め、『撃て』と念じるのみです」


「わかりました」


 理子は、すぐさま攻撃を開始した。

 

 ――敵を見る。狙いを定める。そして、撃て!


 心の中で念じ、最後の「撃て!」は言葉にもした。

 次の瞬間、先程、敵が発した閃光と同等かそれ以上の太さの白光が「船」から放たれた!


 直後、敵の塊の中央に、大きな風穴が開いた。


 スゴい。日向は思った。そして、頼もしい援軍の登場に涙が溢れそうになった。


「どなたか存じませんが、ここまでよく持ちこたえてくれましたね。感謝いたします」


 理子は、日向にそう声をかけた。

 見れば、左肩の大砲キャノンは大破し、全身の装甲のあちこちにも損傷が見て取れた。

 理子が到着するまで、激しい戦いを耐え抜いてきたことは容易に想像できた。


 日向も、理子の言葉に今一度、奮起した。

 左肩の痛みに耐えながら、再び立ち上がる。

 そうしている間にも敵は再び集合し、理子が先程開けた大きな穴も埋まりつつあった。


「もしまだ戦えるのなら、力を合わせましょう」理子が再び声をかけた。


「はい!」日向もはっきり答えた。


 ふたり同時に、前方の敵に狙いを定める。


 ――撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て!

 ――敵を見る。狙いを定める。そして、撃て!


 日向と理子が同時に放った攻撃は、一直線に敵を射抜いた!

 そして双方の攻撃がなんらかの相乗効果をもたらしたのか、かつてない損害を敵に与えた。


 集結していた敵のおよそ三分の一が、いっきに消滅した。


「理子様、今のような連携攻撃は有効と思われます」


 鈴木が冷静に告げると、理子がうなずく。


「もう一度、いけますか?」と理子は問うた。


「はい!」日向は答えた。


 直後、再びふたりは息を合わせた攻撃を放った。


 ――撃て! 撃て! 撃て! 撃て! 撃て!

 ――敵を見る。狙いを定める。そして、撃て!


 その攻撃は、先程と同等の大きな損害を敵に与えた!

 残る敵は、当初の約三分の一。あと一度、同時攻撃を行えば殲滅できそうにも思えた。


 もはや、形勢は逆転した。


 同じ頃、立川でも大きな歓声が上がっていた。

 理子は旋回し、再び都庁と並び立つと再び問うた。


「今一度、力を貸して頂けますか?」


 日向は力強く返した。


「もちろんです!」


 三度の同時攻撃は、敵中央に再度的確にヒットした!

 全機殲滅とまではいかなかったが、残り十機にも満たなかった。

 残った敵機は再び集合することなく、むしろ離散し、一様に急激に高度を上昇し始めた。


 その様は、退に見えた。


「敵機、離散し高度上昇! 全機、新宿から離れていきます!」


「やった!」「撤退するぞ!」「勝った!」


 戦勝気分が会議室を包んだ。

 気の早い代田は、大岩に握手を求めた。

 が、大岩の表情が険しくなったので、途端に手を引っ込めた。


 大岩の視線の先を見て、代田の表情も凍った。

 衝撃的な映像が、モニターに映し出されていたからだ。


 ――!


 敵機が上昇していった方角から「巨大な漆黒の球体」が姿を現していた。

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