第31話 三種の神器
気づくと、理子は鈴木と対面し座っていた。
先程の鈴木との対面から、今に至るまで記憶は曖昧だった。
足元がふらつき職員に支えてもらった、気がする。
寄り添うように支えられたまま、ここまで連れてきてもらった、気がする。
時間にすれば数分程度だろうが、よく思い出せなかった。
まさに心ここにあらずという状態で、言葉もそして涙もでなかった。
あんな知らせを聞いた後だというのに、悲しみの感情すら浮かばないのだ。
理子にとって、先程の知らせはそれほど現実離れし、実感を伴わないものだった。
それでも、まずは現状の理解に努めよう。
理子はそう思うと、視線を動かし今の状況を客観的に観察した。
そこは、御用邸の応接間にあたる部屋だった。
横長のソファが大きなテーブルを挟んでふたつ配されている。それぞれの中央に、理子と鈴木が腰掛けていた。
テーブルには、鈴木たちが抱えてきた黒い箱が置かれていた。立方体のものが大小ひとつずつ。細長い直方体のものがひとつ。いずれもよく見ると、黒革張りの箱で留め具や持ち運び用なのかベルトのようなものも付いていた。
「これは……」
心の声がもれ、ついそのまま口にしてしまった。
「三種の神器でございます」
鈴木が静かに答えた。そして、こう付け加えた。
「宮中で最後に、陛下に託されました」
三種の神器。
古来より天皇家に代々受け継がれた秘宝にして、皇室の正統たる帝の証。
本来、皇居の奥深くで守られるべきこの神器がここにある。
そのことが、事の重大さを物語っていた。
「皇居ならびに赤坂御所は炎に包まれ、いずれも全焼しました。いや、全焼などという生易しいものではありません。爆破の被害は著しく、ほとんどの人間が火に飲まれました。生存者は皇居では、我々含め四名。赤坂御所では、一人の生存者もなかったと聞いております」
あまりの凄惨さに、理子は身震いした。
「そのことを鑑みても、一連のこの凶行は意図して狙われたものと推察されます」
「意図して、狙われた?」
理子は、思わず聞き返した。
やはりこの爆破はテロで、両陛下や両親や兄弟は意図して狙われたのか、と。
うなずく鈴木に、理子はさらに尋ねた。
「では、誰にというのも、わかっているのでしょうか?」
鈴木は返答する前に、周囲を確認し目で合図した。
室内にいた職員がみな退室していく。鈴木が人払いをしたようだ。
理子の鼓動は速まった。この凶行がいったい誰によるものなのか、鈴木は知っているのか。
おそらく、それは機密にちがいない。だから、こうして人払いまでしたのだ。
室内にふたりきりになると、鈴木は切り出した。
「少し長い話になりますが、よろしいでしょうか?」
もちろん、理子はうなずいた。
しかし、続いて鈴木の口から出た言葉は、理子の想像も及ばないものだった。
「皇居や赤坂御所を、そして東京を、この国を、攻撃したのは、異星文明と思われます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます