第123話《おまけ》再会 ⑵

「改めまして、新入生と保護者の皆様が素晴らしい三年間を過ごせますよう、心からお祈り申し上げて私からの挨拶とさせていただきます」


 入学式が終わると、大勢の人が雪崩なだれるように体育館の外へ向かう。両親と校門の前で写真を撮る同い年の人たちを羨ましいと横目で通り過ぎた。


 私の両親はもちろん私の入学式になんて来ない。


 この学校はどこにいても息苦しい。私はここに居るはずではなかった。姉と同じ学校に合格し、その学校で父と母が横にいて入学式を迎える予定だった。どんなに後悔しても現状は変わらない。


 ここからまたやり直そう。

 お父さんとお母さんにすごい子だと認められたい。姉のように褒められたい。


「ふぅ……」

 

 深呼吸をしてこの学校で三年間頑張ることを決意して学校の外へ向かった。


 校門に向かう途中に大きな桜の木があり、吸い込まれるように近づく。綺麗だと写真を撮る人たちが多い中、私もその桜を見上げた。


 ピンク色で綺麗に咲き乱れる花びらが舞う中、桜の木の一端に小さなつぼみがあった。その蕾はまだ咲きそうにない。周りに遅れをとって浮いてしまっている。しかし、いつか花開くために今を精一杯生きているように見えた。


 私もこの高校で蕾のままだったとしても三年間頑張れば、この桜のように綺麗に花開くことができるだろうか。今の自分と置き換えてしまい、変な感情移入をしてしまった。


 このは私よりも先に咲いてしまうだろう。私もいつか咲いてみせるから三年後も私のことを見ていて欲しい。

 

 そんな私らしくないことを願いながら、たくさん綺麗に咲く桜の花びらが舞う中で、私はその蕾をカメラに収めた。


 カシャ


 やたら視線を感じると思い視線を感じる先へ目を向けると、この場に馴染まないくらいの綺麗な女の人が私を見ていた。髪の毛は少し明るく、整った顔、整った制服、整った体つき。


 そんな絵に描いたような人が私の方を見ていた。いや、きっとこの綺麗な桜を見ているのだろう――。そう思いたかったが、たしかに私はその綺麗な人と目が合うのだ。

 

 たくさんの人がいる中で、その人は綺麗すぎて浮いてしまっている。先程の蕾と同じように、この世界に馴染めていない。


 ここまで見つめられると、逆に目が離せなくなってしまい動けなくなっていた。

 

 声をかけてみようか?

 なんて声をかけるの?


 きっと今日のこの時間にいるのなら同じ一年生だろう。


 こんにちは?

 はじめまして?

 これからよろしくお願いします?


 いや、どうせ三年間の学校生活が終われば関わりもなくなるその人に話しかける意味もない。ただ、何故かその時は声をかけてみたいと思った。私はその場を離れたあとも、その人を忘れることはできなかった。

 

 そうだ。


 私は舞に教えてもらう前から遠藤さんに再会していた。



 


 カシャ


 目の前の美人さんは花の咲いていない桜をカメラに収めている。


 なんで……?


「遠藤さん何撮ってたの?」

「桜の蕾の写真」

 

 入学式の日に私も似たような写真を撮った。なんて答えを期待していたのか自分でも分かっていないが、気になってしまった。

 

「なんで?」

「綺麗だなって」

 

 その言葉を聞いた瞬間、心臓がドクドクと音を立て始める。別に、のことを言われたわけじゃない。ただ、入学式の日にみたいだと思った蕾を褒められた気がして心が嬉しくなってしまう。

 


「それより、滝沢、入学式の日にあの桜の下で桜の写真撮ってたでしょ?」

 

 私の心臓は先程よりもスピードを上げて体中に響き渡る。あの日、遠藤さんは私を見てくれていたんだ……。


 あの日、なんで私を見ていたのかと聞きたい。ただそんなことを素直に聞ける勇気が私には無かった。

 

「――覚えてない」


 いつもの自分に戻ってしまうことをここまで残念に思うのは初めてかもしれない。


「そっか……。その日、私はここで滝沢のこと見つけたんだ〜」

 

 遠藤さんは嬉しそうに話している。

 

 私もあの日、遠藤さんのこと見つけたよ。

 

 そんなことが素直に言える日が来るのだろうか。素直に遠藤さんに言葉を伝えられる日を想像したら少しだけ心がくすぐったくなった。


 カシャ


 

「いい写真撮れちゃった」

 

 舞がまた勝手に行動して、私たちのことをばかにしている。ただ、後でスマホに送られてきた写真見て少しだけ舞に感謝した。

 


 遠藤さんの綺麗な笑顔と私の不格好な笑顔が写った写真を誰に見られている訳でもないのに布団にもぐって、こっそりとお気に入りに追加した。

 

 


 

 

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