第58話 大人のクリスマス
最近バイトばかりして真夜に家で会えていない。
なんでそんなにバイトしているかと言うと、真夜と住めなくなるのが嫌なことはもちろんあるのだが、真夜に買いたいクリスマスプレゼントがあるからだ。
生活費以外も稼がなければいけないとなるとなかなか厳しい。
静かにドアを開ける。
「ただいまぁ……」
聞こえるか聞こえないかの声で中に入ると部屋から真夜が出てきた。
「またこんな時間?いい加減体壊すよ?お金は別に後からでいいって言ってるじゃん。だから、少しバイト減らしなよ」
帰ってきてそうそう怒られてしまう。
「あはは、ありがとう。でも、働きたいんだ」
「体壊したら元も子もない」
「そうですよね」
反省した素振りを見せてお風呂にそのまま向かおうとすると「明日の約束覚えてるよね?」と不安そうに告げられる。
「うん……」
私はそれだけ返してお風呂に向かった。
明日は朝から真夜とデートだ。
いや勝手に私がデートだと思っているだけだが、この日のために頑張って来たと言っても過言では無い。
そのために今は少しでも寝ようと急いでお風呂に入り、休むことにした。
***
次の日、朝からいろいろ回った。
昼ごはんはおしゃれなカフェに行って、午後は雑貨屋なんかを回っていた。
真夜は意外とぬいぐるみ屋さんで足を止めてあれが可愛いこれがかわいいという。
見た目とは全然違うギャップにやられる。
かわいい。
今日の夜にちゃんと想いを伝える。
そう決めている。
緊張し過ぎてなかなか心臓が痛い。
夜は家でクリスマス会をすることになってる。チキンやピザやケーキを買って帰った。
「光莉、今日楽しかったありがとう」
真夜は私の前ではかなり自然体で笑うようになったと思う。
「こちらこそ。私も楽しかったよ」
「光莉にしては今日大人しかったから、あんまり楽しくないのかと思った」
言えない……これから言うことに緊張してデート集中できなかったなんて言えない。
乾杯した。
真夜は成人しているのでお酒を少し飲んでいる。お酒はよく飲んでいるが全然酔わないタイプらしい。
全て食べ終わって片付けをするときに真夜に声かける。
「真夜、あっち向いて目つぶってて」
「えー何するのえっち」
「ちがっ……いいから早く向いてよ」
真夜は私を怪しい目で見てくる。
「早くあっち向いて」
真夜は大人しく向いてくれた。
後ろから抱きつくように真夜にくっつく。
「やっぱりそういうことするの?」
「違うから、大人しくしてよ」
そいう言うと真夜の首にネックレスを付けることが出来た。
ネックレスに気がついたのか真夜がこっちを見る。
「クリスマスプレゼント。真夜に似合うだろうなと思って……」
ここからが本題だ。
今日、真夜に告白する。
付き合って欲しいと。
心臓がとくとくうるさくて、私のことを足止めする。
深呼吸すると真夜が立ち上がって私に近づいてくる。私より高いところにある真夜の顔見ると真剣な顔をしていた。
私に抱きつくように真夜が覆い被さる。
私は状況がわけも分からず、頭の中にひよこが飛んでいた。
真夜とは極力近付かないようにしていた。
私が変なことをしてしまいそうだったから。
夜も一人で寝ると私が言って、お互いばらばらに寝るようになったから、真夜に触れるのが久しぶりすぎて体が熱い。
そういうことは控えて欲しい。
勘違いしそうになる。
首の当たりがくすぐったい……。
真夜が離れる。
えっ——。
私の首には真夜と色違いのネックレスが着いている。
私が真夜に選んだのは真夜の誕生石が少しだけ入っているサファイアのネックレスだ。
綺麗な青が真夜にピッタリだと思って買った。
そして、私の首についているのがエメラルドが入ったネックレスだった。
「ごめんね、光莉がこれ買ってるの見てお揃いにしたくて私もこれ買った」
「なんで?」
私が真夜にネックレスを買ったからって、なぜおそろいにする必要があるのか。
考えていると真夜との距離が近くなる。
「光莉、好きだよ。私の彼女になって欲しい」
自分の耳を疑いたくなった。
その言葉はずっと私が欲しかった言葉で、これから一生言って貰えないかもしれない言葉だ。
真夜の顔を見ると少し頬を赤らめて微笑んでいる。
夢でも見ているのだろうか。
「真夜が、私のことを?」
「うん。だめかな」
だめなんてない。
ただ、頭が追いついていない。
「私も真夜のことが好きだよ。でも、友達じゃなくて恋人がするような事したいと思ってるんだよ?」
「うん、私もだよ」
あっさり返されて、余計頭が混乱する。
ただ、体は勝手に動いていた。
真夜に寄りかかるように背伸びして真夜の唇にキスする。
真夜も優しくそれに応えてくれる。
肩を押すと床に倒れ込んだ。
「光莉にだったらそいうことされてもいいと思ってるよ」
頭の水分が全て蒸発した気分になった。
これ以上は良くない。
心の準備をしていない。
「今日は……また日を改めてもいいですか……」
真夜は私がこう言うことを分かってたみたいに納得して、うんとだけ言った。
体を起こして私の横に座る。
「意気地無し」
そういって耳を噛まれた。
噛まれた耳が熱い。
その熱に溶かされてしまう氷のように私の心は流されそうになる。
恥ずかしくてお風呂に駆け込んだら、後ろから微笑む笑い声が聞こえた。
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