第7話
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それは『自分には無理』というものだった。
月末に石田の更に上の上司に退職願いを出そうと決めると
少し心が軽くなり、石田の放った言葉をもう一度思い返してみた。
確か『旅館で、男を部屋に入れたりするんだ?』とか言ってたよね。
旅館って出張の時の?
百子はハッとした。
日比野くんのこと?
石田さんに見られてた?
どうして質問された時に思い出せなかったのだろう。
気が付いていれば自分は日比野くんが遊びに来たことを正直に
答えただろうに。
自分の反応の鈍さに泣けてくる。
もう今更だ。
だって私は嘘つき女って石田さんの中ではそう認定されているから。
ガクリと項垂れる百子だった。
そして、いつもぽわわんっとほのぼのオーラを纏っている秋野百子の
様子がおかしくここのところふさぎ込んでおり、負のオーラ全開なことは黒田女子はじめ、同じ課の課員たちも気にするほどだった。
……なので、張本人の石田も気付いていた。
自分ではいうほど冷たく問いかけたつもりはなかったのだが、あれからの秋野の落ち込みっぷりを見るにつけ、言い過ぎただろうかとの反省も
芽生えた。
あきらかに秋野に避けられている。
……ということで石田のほうも、秋野に対して何か対策を講じなければと考えていた。
しかし、よもや彼女が会社を辞めようとまで決心しているとは
夢にも考えておらず、翌、月初めに出社して彼女から上司の鈴木に
退職願いが出されていることを知り非常に驚いた。
理由は『体調不良』とされていた。
あんなに毎日忙しく煩雑な仕事にも前向きに向き合い、物静かではあるが黒田とは気が合うようで楽しく朗らかに勤務していたのに。
年の離れた女子ふたりがなごみ系で営業での疲れだって男どもはいつも
癒されて、この一年いい感じに課は纏まっていたのだ。
女性同士が上手くいかず、いがみ合ったりとかがあるとどうしても
その課は荒ぶ。
黒田は年齢的に……そして秋野は若いが浮ついたところがなく、
男子社員との恋愛のいざこざもなく、うちの課は平穏無事に纏まって
いたのだ。
それを壊したのは自分なのか。
改めて自責の念に駆られ、頭を掻きむしり苦悩する石田なのだった。
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