第19話 謝罪、そして、やっぱり罰ゲーム!?
その後、陸が交番に任意同行されると、ようやくことの重大性に気付いた美咲は、両親の電話番号を陸に教えた。
電話先で美咲の両親から事情を聞かされた警官は、陸と美咲を解放した。陸は渋る美咲を連れて、タクシーはトラウマになったのか、今度は電車に乗り駅から徒歩で、中央駅のホテルのカフェレストランまで行った。そして、陸はカフェレストランに着くなり、美咲の頭を下げさせながら、自らの頭も深々と下げて
「知らなかったとは言え、見合いの時間に美咲とデートをしていた俺も美咲と同罪です! さぞ不愉快な思いをされたと思います。今回のことは、美咲共々本当にすみませんでした!」
と見合い相手・日向健太とその両親に真摯に謝った。
日向隆も真由美も、美咲だけでなく関係のない陸まで謝ると、どうしたものかわからなかったのか、それ以上怒りをぶつけてくることはしてこなかった。
……健太はいつものようにボーッとしていたが。
もう、この見合いに未練がないと思われる日向家の人達は謝罪を受けると早々に見合い会場から立ち去った。すると、陸は今度は浩二と恵子の方を向き
「『陸お兄ちゃん』と呼ぶ癖を直すためとは言え、罰ゲームの結果、娘さんに奇行をさせてしまいました。妹共々本当にすみませんでした!」
と謝罪した。
恵子は、彼なりの誠意を見せた陸のことを少し感心した。高校生と聞いていたので、いろいろな意味で不安だったが、意外としっかりしている――というより美咲よりも大人のように感じた。
謝罪を受けた浩二は何か言いたかったみたいだが、恵子がそれを制すると
「もう良いわ。あなたも警察に捕まって大変な思いをさせてしまったようね。見合いの話は少々強引すぎた面もあるので、私たちも反省しています――それで
「ハイ」
「そのこと、左右加さんのご両親は知っているのかしら?」
「ハイ、知っています。今、母に電話しますね」
と言うと、陸はスマホを取り出し母親に連絡を取った。
――恵子は陸からスマホを渡されると、陸の母親・幸子と話し合った。美咲との交際を認知していることがわかると、今後お互いに連絡を取り合っていくことで一致した。
そして陸は
「これからも法に触れない清い交際を約束しますので、どうか美咲さんとのお付き合いを認めて下さい」と頭を下げた。しかし、浩二は
「いや、やはり未成年と付きあうのは、こちらにリスクがありすぎる。私は認め……」と言っている最中に、恵子が割りこみ
「そう言いますけど、お父さん。また見合いの場を設けたりしても、どうせ美咲はまたすっぽかしますよ。それに交際を認めなくても、美咲は勝手に左右加さんと付きあいますよ。それなら、交際を認めてあげて、こちらの監視下においた方が良くなくて?」と言った。
「母さんは、また美咲を甘やか……」と浩二が言いかけると、恵子はキッと浩二の眼を見ながら
恵子は改めて陸の方に向き直すと
「それでは、美咲それに左右加さんも親に心配をかけさせない、誠実なお付き合いをしなさいね」と二人の交際を認めた。
陸はほっとした表情に、美咲はこぼれるような笑みを浮かべて喜んだ。
それを見て、恵子は自分の判断が間違っていなかったことを悟った。
雲から太陽が顔を出したのか、カフェレストランの窓には暖かい陽の光が差し込み、陸と美咲を祝福するかのように照らしていた。
――ところで、美咲の親と別れて見合い会場からの帰りかけの千葉中央駅前。
美咲はふと思い出した。
「そう言えば、陸、まだ罰ゲームしていないんじゃない?」
「えっ」
すっかり忘れていたのか、驚いた陸は裏返った声を出して
「いや、もういいじゃん――美咲の両親に交際も認めてもらったことだしさ……」
と苦笑いをしながら言った。
「いいや、やる。というか、やってもらう!」
「……どうしてもやらなきゃ駄目?」
「駄目!!」と美咲は即答した。陸は
「道ばたでパフォーマンスするときは警察に届け出が必要なの!」と抵抗したが、美咲は
「だったら私の罰ゲームは何だったの? もう議論している余地はない! 私と付きあいたければ、ラップする運命なんだから!」と全く譲る気はなかった!
陸は「はぁ~」とため息をつくと、スマホを取り出しLINEのアイコンをタップした。そして、その文面を見ながら、いきなりラップをし始めた。それに伴って美咲が口でパーカッションを始める。
「ヨッ、ヨッ、ヨッ、俺は童貞、人生これからの道程、歩み続けるよ美咲と一緒に!」
♪ズンズンチャッ、ズンズンチャッ♪
「俺の夢は主婦系男子、仕事ぶりをマジで監視、それでも尽くすよ愛のために、命よりも大事な美咲のために!」
♪ズンズンチャッ、ズンズンチャッ♪
……そうこうしているうちに、もの珍しさからか、陸らの周りに人だかりができた。すると、警ら中の警官が陸らに近づいてきて
「ちょっと、ちょっと君たちそこで何をやっているの!」と職務質問されそうになった。
陸は
「やばい、逃げるぞ、美咲」と言うと美咲の腕を引っぱった。
美咲は、今度は素直に陸に引っぱられるがままに一緒に逃げた。そして、陸に聞いた。
「やっぱり『陸お兄ちゃん』って呼んでいい?」
陸は即座に
「TPOに応じてな!」と叫んだ。
どう見ても15、16才にしか見えない30過ぎのおばさんが、TPOを弁えず、なぜか俺のことを「お兄ちゃん!」と呼んでくるのだが……。
了
どう見ても15、16才にしか見えない30過ぎのおばさんがなぜか俺のことを「お兄ちゃん!」と呼んでくるのだが 阿部祐士 @Yuuzi-abe
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