第二十四幕『ただのはなし-tooth fairy-』
エレベーターに独りで乗っていると、何か気配と言うか視線を感じた。
夜にベッドで眠っていると、部屋のどこかに何かが
他に誰も居ないのに気配がする、他に誰も居ないのに視線を感じる、他に誰も居ないのに
そんな何者かの存在を確かに感じていると、不意に肩に何かが落ちて来た。
「何だ、このドロッとした物……? よだれか?」
(確実に何かが上に居る!)
そう思い、上を見上げると、そこにはエレベーターの天井は無く、天井があるべき位置に巨大な開いた口があり、
「うおおっ!?」
エレベーターの天井に開いた大口は、その舌で俺を絡めとり、持ち上げ、そのまま俺の視界は暗くなり、どことも分からぬ
「オラァ!」
俺は推定エレベーターの歯茎を
閉鎖空間はこの世の物とは思えぬ
「オラァ!!」
俺は人喰いエレベーターの歯茎を散々踏みつくした後、前歯と思しき場所に
「人を喰った様なマネしやがって、全く……」
しかし、俺はエレベーター内に異常の
一つは、エレベーターの床に巨大な歯が落ちている事。
なるほど、人一人を丸呑みにするバケモノの歯なだけあってデカい。こんなデカい歯で
そして、もう一つ。その巨大な歯を物欲しそうに、珍しそうにおずおずとした様子でした様子で見ている子供の様なずんぐりした小人の様なモノが居た。
「おい、お前は何者だ? いつからこのエレベーターに?」
何者かは俺に言われると、ハッとした様な仕草で振り返った。その姿は
「いや、すごい歯ですね。この歯、わたくしが
ソイツは目をキラキラさせ、
「俺の質問に答えろ! お前は何で、いつからエレベーターに居た?」
「やや、これは申し訳ない」
ソイツは俺に詰問されると、バツが悪そうに恥ずかしそうに照れた。
「わたくし、いわゆる歯の妖精って奴です。ご存知ですよね? 歯の妖精」
「知らん」
「歯の妖精をを知らないいいい!?
自称歯の妖精とやらは心底
「とにかく、わたくし達は抜けた歯を買い取ってる業者みたいなもんです。しかしこんな大きな歯を見たのは初めて、チョービックリ。これ、あなたの所有物?」
「まあ、そんなところだ」
人喰いエレベーターの被害と欠損並びにその所有権の所在及びその
「わー、やったー! こんな立派な歯が貰えるなんて
歯の妖精とやらは着ていた服の内ポケットに、自分の体と同じ程の大きさの人喰いエレベーターの歯を、
「それじゃあこれ、歯の対価です。またすごい歯が抜けたら買い取りに来るからねー」
そう言うと、歯の妖精は俺にズシリと重い何かを握らせた。
握った手をほどくと、そこには歯の妖精が描かれた金貨があり、
「なあ、これって本物の金貨か……?」
俺が金貨の重さに驚きながらも顔を上げると、そこには人喰いエレベーターの歯は勿論、歯の妖精も居なくなっていた。
* * *
結論から言うと、
質屋が言うには本物の金貨で、値段も相応、現在の相場では数十万は下らなく、
「すげえ……デカいとは言え、歯一本が数十万! これなら新しく大型のテレビを買って、それからいつものレストランで良い物食って、あとは
しかしそんな事より、今は入浴がしたい。
あの人喰いエレベーターに舐められたりよだれを垂らされたりしたのは上着だけだったが、上着を脱ぎ捨てても気分が悪いまま。
「そろそろ風呂が湧いた筈。あー気分が悪い、とっととお湯に浸かりてえ」
服を脱ぎ、風呂場に入ると水面に何かが浮いていた。
多くの人間が実物を見た事を無くとも、その
俺は慌てず
「何で湯舟にサメが居るんだよ! ふざけんじゃねーぞ、この軟骨野郎が! サメだったらどんな突拍子の無い事をしても許されると思ってんじゃねーぞ! 軟骨魚類如きが人間様に盾突いてんじゃねえ! 魚類は魚類らしく魚を食って生きろっつてんだよ、なんで真っ当に魚らしく生きる事が出来ねえんだよ、このクッソタレはよおおぉぉぉ!!」
サメの鼻を即席のハンマーで打ちつけ、打ちつけ、そして打ちつけ、湯舟が真っ赤に染まり、サメが仰向けに浮いたのを確認し、もう一度サメの顔面を殴った。
サメは完全に
「この牙、ひょっとして売れるのでは? おい、歯の妖精居るか?」
「呼びました?」
俺が口に出すまでもなく、先程と同じく先の時と同じように歯の妖精はいつの間にか風呂場に居た。
「おお、助かる! 見ろよこのサメ、すごい
俺は自分でも分かるほどに喜色を出し、歯の妖精に
しかし、歯の妖精の顔色は暗く、そしてとても残念そうだった。
「申し訳ないのですが、あなたは本当に歯の妖精をご存知ないのね……わたくし共が取引するのは乳歯だけ、サメには乳歯も永久歯も無いんですよー」
「は?」
俺は歯の妖精とサメの死体を交互に見比べた。
映画に出て来るクリーチャーの様に、何重にも細かい剣呑な牙が生えていて、パッと見て百本以上の歯がある様に見える。コイツは、それら全てが取引に値しないと言っているのだ!
「それでは、コレにてドロン!」
早期超えたと思うと、歯の妖精は現れた時同様、あっという間に姿が見えなくなっていた。
「畜生、これじゃ骨折り損のくたびれ
俺は全裸で叫び、俺の叫び声は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます