第86話 男神の憂鬱

 ところで、男神はいないのか。


 ゼロス    男神 太陽神 太陽の運行を司る

 エナリオス  男神 大地と海の神 別名大亀様

 バルカン   男神 鍛冶の神

 マールス   男神 闘いの神

 ヘルメス   男神 商売の神

 ピオス    神男 知恵・医学の神


 以上の通り、天界には6柱の男神がいる。厳密には、エナリオス(大亀様)は地上を支えているので、天界にいるわけではない。



 創造主ゼロス。この世界を創造したとされる。

 太陽を司る。本当の姿はドラゴンである。


 こう紹介すると、偉大な神に見える。地上の教会では厳格で真面目な神々の神、とされている。


 しかし、世界を創造したわけではない。そういう設定にしたのだ。太陽を司るとはいうものの、その力をもっていない。人の姿でいることが長く、ドラゴンへの戻り方を忘れた。



 ゼロスは別名エロスともいう。

 非常にわがまま。自分勝手。傲慢。女好き。

 絵に書いた駄目神。


 女と言えば、手当たりしだいに手を出す。

 何しろ、天界にいる6柱の女神のうち、

  母 性 ジュノー

  家 庭 ウェスタ

  豊 穣 テスモポロス

  狩 猟 アルテミス

  愛と美 アプロス


 以上5柱が、ゼロスと関係を持ったのだ。

 一時期は女神同士で嫉妬まみれの抗争がおきた。



 しかし、女神は覚醒した。

 この事態は誰のせいなのか。

 女神たちは手を結んだ。


 ゼロスはかつては愛人だった女神たちから生気をぬきとられることになった。怒りの逆襲だ。生気をすっかり抜き取られたゼロスは、今や歩くのもしんどいような枯れ果てた老人でしかない。



 他の多情な男神たちもだ。男神(大亀様除く)たちはゼロスを見習い、すべての女神を追いかけていた。マリアが天界から地上に逃げてきたのも、これが理由であった。


 こちらも、鬱陶しがられた女神たちにより、生気をすっかり抜かれていた。


 あるものは、手紙を置いて失踪した。

「僕を探さないで」

 これはヘルメスである。


 あるものは、文字通り枯れ木となって天上界の隅っこで朽ち果てていた。これはピオスとマルス。神は死んだリはしないが、復活には長い年月がかかる。


 バルカンは酒びたりの毎日を送っていた。手が震えて、鍛冶ができない。ああ、これはもとからだった。単にアル中なだけである。


 まともなのは、大亀様(エナリオス)だけであった。こういう事態になっても、世界になんらの影響が現れないのが、実に悲しい。



 ゼロスがロレンツォを呼び止めた。

 ここからはロレンツォ視点。


「なあ、ロレンツォとやら。ワシはゼロスというものじゃ」


「おや、初めまして、ゼロス様。なんでございますか」


「畏まらなくてもよい。頼みたいことがあるのじゃ」


 ゼロス様は脚をガクガクと震わせ、杖にしがみつきながら僕にお願いごとをする。


「ワシら男神の惨状は存じておるか。女神に生気を抜き取られて、歩くのもままならんのじゃ。男神5柱が危機に瀕しておる。ロレンツォに頼みたいのは、この紙に書いてあるものを集めてほしいのじゃ。復活ドリンクのレシピじゃ」


 自業自得っていったら、怒られるよね。


「復活の薬というものがある。その材料をとってきてほしいのじゃ」


「材料ですか?」


「うむ。それは次の3つじゃ。世界樹の葉、大鮫魚、エーテル」


「と言われても……」


「難しいのは承知しておる。だが、頼めるのがロレンツォしかおらん」


 そこまで言われると流石に断れない。主神だからね。でも、どこへ探しに行けばいいのやら。まるで見当がつかない。



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