第1話 

 ここ数年閉店が続出したオワコン業界でジャグラーは最後のメシアかもしれない。


 4号機初代から一貫してジャグラーの主役はピエロ絵柄だがガールズのみ特殊だ。

ピンク帽のジャグリー。水色帽のジャグミーは口元に目立つ泣きボクロが艶っぽい。


 他ジャグラーより光量が強く美しいランプ色でガコッと響く告知音は衝撃すぎた。

合成確率はアイムと類似してもビッグ偏向でレギュラーを引けないとボロ負けする。


 それでもレギュラーボーナスがビッグを超えてくるようならば高設定域の挙動だ。



 五千ゲームを回した時点で130分の1以下の合成確率でないと設定面で厳しい。

それにレギュラーボーナスの設定差が極端でないために期待値の判断は難しくなる。



 それなりに詳しいオレやレージ先輩が朝一から完全攻略すれば手堅い機種だけど。

右翼の美少女三人に無理くり拘束されたっぽい元商社マンはいわゆる見た目チー牛。


 典型的すぎるオタ野郎で小説サイトに妄想をぶちまけるタイプのワナビーになる。

それでもライブハウス帰りに襲われた少女たちを救い人生逆回転して一発大当たり。


 上級階級のコネで小説家デビューさせてやると甘い囁きを断れる潔さは悪くない。

おかしなぐらい懐いた三人の親から婿に欲しいなんてマンガかラノベ主人公だよな。



「オレたち業界人として断りにくい筋のお願いされて究極こんなことに巻きこんだ。

Youtubeアーカイブが残るから報酬は発生する。撮影中なんて呼べばいい?」

 口元を寄せ小声で耳打ちするように伝えると一瞬だけビクッとして思案顔になる。


 美少女ハーレムをネタにしちゃえば自営の福祉事業所で客寄せ効果もあるはずだ。

「マジ話なら顔バレするのがヤバいんすよね。本名無関係のニックネームなら……」


「うえぁっBLとか禁止。あーしら大学生の成人だしオヤ許可ちゃんとあるしっ!」

 こっちをチラ見した茶髪ギャルが身体を半回転させておバカすぎる絶叫を放った。


 直球ネタに動揺するココの右に座る美少女たちが怪しむ類のバイセク嗜好はない。

おバカすぎる妄想の三人組は公立大医学部に現役合格した才女らしいから笑えるわ。

「いいじゃんいいじゃん美少女ハーレムくん。女好きだがそっちもヤっちゃうか?」



 カメラを振られ対応できずにキョドりまくるガリガリのっぽ君は情けない見た目。

「ハーレム不要だしBL興味ないしガリガリくんでいいしそこからのガリクソン?」



「ガリガリくん見たまんまじゃん……イケメンじゃねぇし地味っぽいからジミー?」

「あぁジミーなら納得できるっす。ノッポおたくのジミーで決めちゃってください」


 もちろんマジモンの芸人ジミーさんと違って一見すると地味だけど中身は優秀だ。

まさかだけど土曜夕方の人気アニメ……見た目子供。頭脳オトナの探偵主人公くん?



「ご覧の皆さんなら大喜び。本日ジャンバリに登録されたリリだけじゃないんだぜ。

北電子さんにお願いされてゲスト枠……パチスロ初心者ガールズ5人デビュー回?」


 わざとニヤニヤ口元を歪めながらリリ以外のカメラ目線五人を正面から指さした。



「ジロウさん。仕事面から顔だし不可なんだけど補佐のボクも紹介してくださいよ。

ご覧の皆さま初めましてジロウさん並みノッポのオタク……解説補佐役ジミーです」

 チラ見したスマホのコメント欄に『ハーレム野郎○ね』各種の罵声が飛び交った。


「おぅおぅおぅ・こいつオレとタメだけどパチ屋に入店経験ないチキンくんでさぁ。

福祉関係の自営業で殴り合い経験ないひょろくんでも何気にハーレム野郎だぜぇ?」


「ハーレムなんかありませんって。たまたま女子の悲鳴に反応しただけですからっ。

なんか美少女三人組に懐かれちゃっただけで。送迎サービス運転手みたいな感じ?」

 妙に下からすぎる態度が煽りっぽい発言にも感じられてコメント欄は罵詈雑言だ。


「まぁ落ちつけよ……覆面ライターとして有名なレージ先輩の知人繋がりなんだわ。

レージ先輩ヒカルちゃんと【ダンまち2】動画撮影中。そっちも視聴よろしくな!」



 これが業界ごと「春の珍事」としてXにトレンド入りした伝説的動画の始まりだ。


♯リリちゃんカムバック ♯リアルジャグラーガールズ ♯属性別美少女すぎる件


「冒頭から引っ張りすぎてアレなんだけど……それぞれが属性違う美少女じゃん?」

「ほんそれなんすよね……白髪赤目リリちゃん。ウサ耳ココちゃんは別格ですけど」


 仮称ジミーくんのノリツッコミにコメント欄をチラ見した画面が爆発的に流れる。

白髪ロリ赤目。ピンク髪ギャル。白黒ウサ耳。茶髪ギャル。ロリ金髪。黒髪清楚だ。



「皆さまご存知リリちゃん。ウサ耳ココちゃんとも日本人じゃなくて元ロシア国籍。

全員ハイティーンの日本在住だが便宜上……美少女扱いさせてもらうんでよろぴく」

 なんか一昔前のネットスラング的発言しちまったけど……ミソジニーだ許せよな。


「十八才乙のネタ……間違いじゃないんですけど皆さん美女って感じしないすよね」

「そうそうヘタするとローティーンにしか見えねぇロリっ子ちゃんが混じってんし」

 戸籍年齢は永依とココ十六歳。リリと三人娘はリアル成人の十八歳で間違いない。


「では四人目から自分が紹介しますねぇ……えっとぉ阿倍野と西成にあたる境界線。

ちっちゃい事務所経営お笑い芸人じゃないジミーを今後ともよろしくお願いします」

 もやしみたいに色白ガリガリの高坂明士くんだっけ? ジミーくんが頭を下げた。



「それぞれ事務所入りしてねぇが……成人して進学を機に大阪アベノで三人暮らし? 

現役JDの友達じゃなくてお供。ガードマンみたいなもんだから出番はあるよなぁ」


「そうなんすよ。母親お揃いで見張ってくれと懇願され今日いきなり引っ張られて。

茶髪ギャルがリサ。金髪ロリっ子マリア。黒髪赤眼鏡エリ……エヴァじゃないけど」


「「「イェーイ! リリちゃん推しの皆さんお疲れさま。あたしらも応援よろしく」」」

 三人同時に振り返るとカメラ目線で笑みを浮かべたダブルピース……サインはV。


 スマホを見ると爆発どころじゃない流れで拡散されていくコメント欄に驚愕する。


「なんかリリのズキューンよりすげぇ……えらいことになったがルール説明からだ。

今日は時間制限あるんでMAX二千ゲームで。純粋なペカり数による個人対決です」

「ふむ。あんまり詳しくないけど単純にボーナス回数の多い順番で優勝と準優勝?」



「そそそ。成立時は大半ガコッて感じに告知音が響くから間違えることもないしね。

ボーナス同数の場合だけビッグ多いほうが勝ちってことなら単純でいいんじゃね?」

「一枚単位の出玉勝負なんてコイン計数労力的にもヤバすぎるからバッチリっすよ」


「そーなんだわ。ショールームにコイン計数機置いてねぇし……目押しで変わるし。

あぁリリ……今から必殺ワザみたいなアレ禁止な。永依とココも同じくなしだぜ?」


 ネットにアピールしてチカラを分けてもらうとか禁断の果実みたいなやべぇアレ。

実際のところダンジョンで得た固有スキルらしいから全員もらえるもんでもないし。



 人類みんな平等のはずがないから上下は別にして能力の差ってヤツは個性になる。

マンガのコマ背景ならガーンなんて擬音がつくような表情でピンクと白髪が揺れた。


 見かけの良さなんて時代や環境………価値観が反転した瞬間から真逆に変化する。

逆の意味からジミーくんみたいに一見すると周囲に紛れるタイプは限りなく自由だ。


 それに……広島や博多と違う状況なんだ。リリ一人が悪目立ちするもんでもない。

勝負に直接関係ない裏事情は置いて……ここ大阪ミナミから新たなゲームが始まる。

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