第5話 プロローグさん⑤

 ガタッ


 中は、いたって普通。

 シンプルな家具内装。

 別にモノを売るワケじゃないから、そんなにスペースはいらないか。

 

 玄関、靴を脱ぐところ。

 その先には、真っ白なテーブルを挟んで、子どもと、見覚えのある女の人。


「──待っていたよ。キミが例の、父さんが雇ったガードマンだね」


 この子、絵で見たのとそっくりだ。

 青っぽい黒髪に、同じ色のクリっとした瞳。

 うわぁ、実物だ。

 

 この子が……


「僕の探偵事務所へようこそ。そのまま話すのもアレだから、とりあえずこっちに座ってよ」

「あっ、うん」


 いけない。

 あんまり絵とそっくりだったからつい見入ってた。

 お仕事なんだから切り替えないと。


 オホンッ 

 座らせてもらうよ。


「まずは自己紹介からだね。僕はここ探偵事務所の所長、メイル=アドレウスだ。よろしく。で、こっちは助手のローズ」


 ロザリアさんだ。

 ほらっ、始めに面接した時のあのメイドさん。

 綺麗で物静かそうな、サボってた。

 

「先日はどうも。メイル様のお世話を任されています、使用人のロザリアです。私のことは適当にロザリアとでもお呼びください」


 うん、わかったよ。

 ロザリアさん。

 

「ローズ、前に行ったはずだよ。今のキミはお世話係じゃなくて僕の助手。ちゃんと守ってよ」

「いいえ、使い分けが面倒なのでお断りさせてもらいます」


 キリッ


 メガネをクイッてした。


「はあ……っと、ごめん」


 そちらもどうぞって、ジャスチャーしてる


「えっと、私はミチル。ミチル=アフレンコだよ。今日からキミのガードマンとして一緒にいることになってるからよろしくね」


 フフンッ


「あっ! あとそれと……今日からその、お世話になります……」

 

 衣食住な意味で色々、ボソッ

 これから一緒に暮らすワケだし。


 こんなのでいいかな?

 いいよね。


「ミチルか、僕のもう一人の助手……うん」


 あっ、一応私も助手なんだ。


「ではミチル様、このところ色々あってさぞ多忙でしたことでしょう。せっかくですし紅茶をご用意します」


 ……へっ?

 

「待ってローズ、まさかと思うけど、キミが入れるの?」

「当然です。それがなにか?」


 メガネ、クイッ

 

「いや、それはまたの機会に……」

「メイル様、私の入れる紅茶に何かご不満でも?」


 むっ、何やら不穏。


「不満だけならまだマシさ」

「今のメイル様の発言、見過ごせません。紳士を目指す者として恥ずべき失言です。帰ったら旦那様に即ご報告いたします」

「えぇ、またすぐそうやって父さんに……」

「当座です、それが私の仕事ですから。それに前回ミチル様はとても美味しいとおしゃっていました」


 へっ? 私?

 そんなこと言ったかな?


「えっ、もしかしてミチル……ローズの出した紅茶を飲んだの? あの紅茶を?」

「う、うん……」

「へ、へえ……全部?」


 苦労したよ。

 あの苦味を思い出すだけで……うっ

 

「それはすごいね、尊敬するよ」

「どういう意味です?」

「そのままの意味だよ……いいよ。紅茶は僕がやるからキミはじっとしてて。いい?」

「……不服です」


 メイルくんが1人奥に入っていった。

 不機嫌な使用人を残して。

 


 そして、


 紅茶が、コトッ


「そっか、それは申し訳ないことをしたね。知っての通りローズはお茶を入れるのが苦手なんだ」

「いえ、そのようなことは決して。旦那様からいつも美味しいとお誉め言葉を頂いていて」

「それは父さんがハッキリものを言えないからだよ。ったく、これだから父さんはローズに甘いんだ」


 前に出された紅茶を、一口。

 うん、それなり。


 コトッ


「それで、私はキミのガードマンをすることになってるワケだけど、実際には何を──」 

「コホンッ、助手」

「……助手って一体何をすればいいのかな?」


 その助手だかなんだか知らないけど、この子が無茶しないように、危険から守るのが私のお仕事。

 でも一応本人からも聞いておいた方がいいよね。

 確認のために。


「そうだね。ミチル、キミにやって貰いたいことって言うのは、簡単に言えば僕のサポートだ」

「サポート?」

「そう、依頼内容の記録。張り込みや聞き込み、尾行といった情報収集。溜まった資料の管理……ああ、それと調査書の作成やその他雑務。他にもやることは山ほどあって──」


 クイッ

 

「メイル様の護衛をお願いします。この年頃の子どもと言うのは、何かと好奇心が旺盛。特にメイル様はその傾向が強いようで」

「ちょっ、ローズ⁉︎」

「ええ、困ったモノです。そんなヤンチャな子どもが勝手なことをなさらないよう、ミチル様には歯止めをかけて頂きたいのです」


 ふむふむ。


「なに言ってくれてるのさ、それじゃ僕がまるで──」

「ブレーキ役か、なるほど……」

「ちょっと、ミチルまでなに──」


 子守りかな?


「はい。頭は少々冴えるようですが、所詮はまだ12の子ども。大人が見張っておくに越したことはないでしょう」


 クイッ


「もちろん私も見ての通り、か弱いただの使用人。いざという時には戦闘、そう言った心構えもしておいてください」

 

 うん、大体は前に聞いた通りだよ。


「分かったよ! この私にドーンッとお任せを!」


 フフンッ♪


 私は頼りになるお姉さんだもん。

 何といってもBランクだし。

 うん、全くスキがない構成かな。

 

 それに子どもの相手をするのは嫌いじゃない。

 お世話だってお手の物だよ。

 もうクルクルクルって。

 

「はあ……まあ確かにローズの言うように、依頼内容によっては戦闘が発生するかもしれない。そういう時の戦える人間がいないのは困りモノだ」

「はい、そういう意味でもメイル様はまだまだ未熟ですから」

「はあ、まあそうだけど。そういうキミは、か弱わい使用人には見えないけどね」

「さあ? なんのことです?」

「別に」


 フフッ。

 今の2人の会話、仲のいい姉弟みたいで面白いかも。


「ん、なに? 僕の顔に何かついてる?」

「ううん、なんでもないよ。フフッ」

「そう? ならいいけど……はあ」


 メイルくん、あからさまにガッカリしてる。

 こんなはずじゃないのに~って感じかな?


 ……って、あれ?

 たしか話では結構人見知りな子って聞いてたけど、案外そうでもないような。


 こうやって話してみると思ってた印象と全然違う。

 普通に年相応の可愛い男の子だよ。


「やることはまあわかったよ。じゃあさっそくなんだけど、今から──」

「と、その前に」


 ん?


「僕はまだキミを正式な助手として認めたワケじゃない」

「へっ……?」


 なにかな?

 この子、今なんて?


「キミを助手とは認めないって言ったんだ」

「えっ、それって……」


 どーゆーこと?

 ここに来て? おかしいな。

 たしかに今日は初見さんだけど、ちゃんとキミのパパから許可を……

 

「僕の助手は優秀な人材にしか務まらないからね。ミチル、キミが相応しいかどうか、今から審査させてもらうよ」

「えぇ……なにそれ」


 そんなさも得意げな顔をされても……

 あの私、もうキミのパパと契約しちゃったんだけど……

 お引っ越し完了しちゃったんだけど……


「ロザリアさん、あの……これってもしダメだったらどうなるのかな?」


 冗談だよね?


「ミチル様、頑張ってください。こうなったメイル様は言うことを聞きません」

「えぇ……」

 


 そんな、聞いてないよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る