第4話 プロローグさん④

 ガチャッ


「ただいま~」


 やっと部屋についたよ。

 はあ、疲れた。


 鍵をカチッと、ランプをボッ


 ヌギヌギ……バッ!


 ポフッ!


「う~ん! 会いたかったよベッドさ~ん!」

 

 遅くなってごめんよ~。

 どこで食べるか悩んでたら、つい時間が掛かっちゃって。

 ごめんね、私がいなくて寂しかったよね。

 

 大丈夫だよ。

 他のところに行ってたとかそんなんじゃないから。

 ホントだよ。

 だから心配しないでほしいな。

 だってベッドさんは~、私を癒してくれる唯一の存在だから。


 コロコロ~♪ コロコロ~♪

 

 コロコロのま──


 ──ドンッ!


 ピタッ


 ごめんベッドさん。

 その、いきなりでアレなんだけど……

 自分でもどう言ったらいいのか分からないけど……

 

 その、私……ううん。

 私たち、今夜でお別れなんだ。


 えっ?

 

 実は私ね、新しいお仕事が決まっちゃって。

 ずっと探した。

 知ってたよね。

 それがやっと決まったんだ。

 

 衣食住付きの超好待遇。

 加えてお給料もこれまでの約5倍。

 すごいよね、こんな待遇って中々ないと思う。

 もう色々ビックリで頭が追い付かないよ。

 

 ごめん、また一人で舞い上がっちゃった。

 

 それで私、受けようと思うんだ。

 うん、その申し出。

 

 ……あっ、別に今の生活に不満があるってワケじゃないよ。

 ベッドさんはフカフカで居心地いいし。

 いつもヘトヘトで帰ってくる私を優しく包み込んでくれる。

 

 愚痴だって黙ってちゃんと聞いてくれるし。

 大切にしてくれてるってのはいっぱい伝わるよ。

 毎晩私は幸せだなって、ホントにそう思う


 でもね、ほらっ。

 愛好家な私としては、やっぱりそれだけだと満足できなくて。


 うーんとね、なんて言えばいいのかな?

 素材の味は良いって言うか。

 こういうので良いんだよ感と言うか。

 それだけだとね、初めはいいんだけど、やっぱりだんだん物足りなくなってくるんだよ。

 

 本音を言うと、もっと広々としたところで寝たいんだよね。

 初めはサイズ的にちょうど良かったんだけど、最近妙に狭く感じちゃって。


 飛んだら軋む音がすごいし、思いっきり手足も伸ばせない。

 舞だって十分にできなくなってる。

 そろそろ限界かなって、私思ってたんだ。

 

 だからベッドさんには悪いんだけど、明日ここを出て行くことにしたよ。

 いきなりでごめんね。


 大丈夫だよ。

 ベッドさんは良いベッドさんだもん。

 しばらくすれば、私なんかよりずっと良い人が使ってくれる。

 私のことは早く忘れて、新しい入居者に優しくしてあげてほしいな。


 だから泣かないでほしいな。


 ──ドンッ!


 あっ、よく壁を叩くお隣さん。

 今日も元気だね。

 

 バイバイ。

 結局最後まで顔を合わせることはなかったけど元気でね。

 あと他の入居者に迷惑かけないようにね。


 さてと、明日からさっそくお引越し。

 荷物はそんなにないんだけど、手続きとか難しいことが色々ある。


 今まで面倒なことは全部ミホちゃんがやってくれてたから。

 はあ、忙しくなるよ~。


 んじゃ、明日も早いから今日はもう寝るよ


 ランプの灯を、フッ


 ZZZの時間、ゴロン

 

 おやすみ~







 ──それから、移住の準備やら何やらが色々あって、あっという間に2日が過ぎた。

 ワープしたよ。


 それで、


 スゥー

 

 いま私は、ある建物の前にいる。

 二回建てのこじんまりとした、でも周りと比べて比較的綺麗な建物。

 おそらくまだ立ったばかりであろう外観。

 

 周りには知らない植物が飾ってあるけど、お花屋さんかな?

 一見さん何をやってるお店なのか、はたまたお店であるのかすらも分からない。

 

 だけど話では、


 ゴクッ……

 

 今日からここが私の新しい職場、とのこと

 

 初出勤だよ!


 それで、


 【メイル探偵事務所】

 

 名前に関しては何も突っ込まないよ。

 この中に私のガード対象、雇い主メッセさんのお子さんがいる。


「う~ん……」


 初見さん、どういう感じ行こうかな。

 明るいお姉さんでいく?

 それとも知的な感じの方がいいかな?

 私メガネかけてるし。


 それか……あっ、ついこの前まで冒険者だったから、思い切って強者の風格を漂わせてみるか。

 

 えっと、確か話では人付き合いが苦手って聞いたから、初見さん慎重に行った方がいいよね。

 いきなり仲良くなろうとするのは禁物かな

 

 12歳。

 あっちからしたら知らないお姉さんだもん


 怪しい人だと思われてないようにしないと。

 初めは警戒されるだろうから、ちょっとずつ距離を縮めていくのが大事かな。

 

 あっ、でもあんまり下出に出ると甘く見られちゃうかも。

 貴族とはいえ、年下の子どもに舐められるのはちょっと。


 どうしよう、う~ん……


「……うん。そうだよね」


 無限にある未来を予想してもキリがない。

 きっとなるようなるよ。

 立往生してても進まないから、入るよ。


 いざ!


 チリン、チリン


「ごめんくださ~い……」


 

 ──運命ってホントにあるのかな。

 ほらっ、良く本や芝居で見るようなロマンチックなアレ。


 正直、今でもよく分からない。

 難しいことは苦手だし。

 

 だけど少なくともこの時の私は、これが私にとっての……

 


 ……ううん。

 色んな意味での、運命の出会いになるなんて思いもしなかった。

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