第56話 聖女の勘です!
「聖女様——本当に、行かせてよかったのですか?」
「え? だめだった?」
「駄目とは言いませんけど……何故、そこまでケロッとしてらっしゃるのですか、あなたは……? それが不思議でならないのです」
街を守る堅牢と佇む城壁上部。
聖女のセレナと、彼女を守護する騎士の女性エクレは——眼下のに望む朝焼けに彩り出す大地を見下ろしていた。
そして、2人の視線の先には、街道を進む1台の馬車。それは既に豆粒のように小さくなってしまっていたが、エクレは怪訝に、そしてセレナはニコニコと眺める。
——昨日——
『10年?』
『ええ。私が、あなたに要求するのはその間、人族を襲わないこと。そして戦争への不参加を表明してほしいんです。そうすれば、勇者は呼びませんし、2人を見逃しましょう。私は、魔王エアリエルと遭遇したのではなく、エリスさんって女の子と知り合っただけだと、今日の出来事として記憶に銘記しましょう』
とセレナは条件をエリスに語る。
『それは、あくまであなたの……個人的な条件?』
『う〜〜ん、と……そうですね? ですが……この期間、私は聖女としてエリスさんを悪いように扱うことはしません。そればかりか、できる限りの援助もしましょう』
『仮に、私が人族に襲われた場合は? 例えば盗賊、例えば勇者……』
『盗賊さんは悪者なのでブチのめして構いません。ただ、己の私欲のためだけに、罪なき民を手をかけるのは禁止です。それと勇者ですが……あの人に見つからないことを祈るとしか……私にできることはそこまでだと言っておきます。あの方は魔族が関与することには融通利かないですから』
『そう……』
『他に聞きたいことはありますか?』
『いいえ。これだけで結構よ』
『そうですか——この10年という期間は、あくまであなたの回復を見越した期間だと思ってください。その間は互いに不干渉です。ただあくまで聖女である私とその近辺でしか協力はできません。これで、いかがでしょう?』
と、言い切った。
先ほどまでは怯え、真っ青な顔だったセレナだが……魔王との交渉に余裕を持った表情で臨む。
ただ……パジャマ姿でなければ、
すると……
『分かったわ。それでいい』
「相手は魔王ですよ? 期限を設けてましたが……その間、本当に人族を手にかけないとは限りません。それに、どうやって確かめるのですか? 約束を守ってるなんて……」
と、事は無事に成立したかに思ったが……エクレはどうしても納得いかない。
交渉の相手は、魔族の中でも頂上の存在——魔王。
狡猾かつ残虐非道で恐ろしい生き物——人族は、かの存在に苦渋を飲まされ……人間を涼しい顔で殺してきた存在——風姫【エアリエル】。
だが……
セレナは、涼しい顔で、2人を旅路に送り出した。
当然発生する——疑問と不可解。
聖女様はナニを思って……
と……
分かるだろう。この気持ちを……
「え……?! エクレ、私を信用してくれたんじゃないの!!」
ただ……
これにセレナは、ハッ——とした表情を浮かべ、うるうると騎士であるエクレを見つめる。
「あの……もう、その手には乗りませんよ? あなたは何に気づいたのですか?」
だが、ジトォ〜〜とまとわりつく視線をエクレは返す。セレナのこの手は昨日と今日で2度目。そう、何度も答えてあげるエクレではなかった。
「ふふふ……あなたには敵いませんね」
だが、そんな女の子ムーブを、ふッ——と解く。そんなセレナは再び街の外へと視線を向けた。
さて、その視線は一体何をとらえているのだろうか?
「あくまで私の勘です」
「……勘?!」
「えぇ……聖女の勘……」
だが、セレナの答えは信じられないモノだった。まさか『勘』だと……誰がこの発言を予想できただろうか?
「正直、彼女が素直に私の言った事を聞いてくれるかは分かりません。もちろん、これを確認する術もありません」
「では、なぜそんなに自信満々に……」
「だから“勘”だと言ってるじゃないですか?」
「……馬鹿にしてます?」
「いえいえ、私は真面目ですよ?」
だが、セレナは以前とあっけらかんとしている。自分が荒唐無稽な発言をしているとわかるはずなのに……だが、それには彼女の思惑あってのことだった。
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