精霊学院で給食を!

桜野

第1話 プロローグ

 その日、王立精霊学院の大講堂では厳粛な雰囲気の中、式典が執り行われていた。

 静謐な空気が漂うゴシック様式の講堂内には、四十名ほどの少年少女達が備え付けの椅子の前に起立し、一様に姿勢を正している。齢十六に差しかかろうとしている彼ら彼女らのあどけなさの残る顔つきには、ある種の緊張感が張り付けられていた。

「——次に、担任教官の挨拶に移る!」

 式典の進行役、初老の男性教官のよく通る声に栗色髪の少年、ニコル・エルドナートは、周囲のあちこちへ向けていた視線を慌てて前方に戻し固定した。

 精霊学院はその名の通り、四大精霊の力を基礎とする精霊魔法を学び、王国魔法士を育成するための王立機関である。三年制の学院を無事卒業することができれば、王立の魔法研究機関や中央魔法兵団などの大口の就職先への雇用が約束される。何より、王国魔法士としての位を手にすることができれば、その者の将来は明るい光に照らされた道筋となる。

 そんな将来の安定のために打算的な目論見を持って入学する者もいれば、単純に精霊魔法そのものに魅入られ魔法の追究を志して入学する者もいる。ニコルは後者だった。

(ついに、ついに――!)

 やったー! と今も思わず叫び出したい衝動に駆られる。夢にまで見た精霊学院。憧れの学び舎に、生活をともにするライバル達……。

(担任の教官はどんな人だろ?)

 好奇心は尽きない。精霊学院では入学時に定められた一人の教官が、三年間を通してその学年の生徒達を担任する決まりになっていた。

 これからの三年間、自分はどんな王国魔法士に師事することになるのか、ニコルの興味は最高潮に達していた。

 ——と。

「はじめまして」

 壇上に現れたのは、白を基調とした魔法衣に身を包んだ、黒縁眼鏡をかけた年若い女性だった。漆黒——と表現するのに相応しい艶のある黒髪が、片側で三つ編みに結われている。

(あ、あんな若い先生が……)

 もちろん、実際の年齢はわかるはずもなかったが、それでも自分と十も離れてはいないだろうとなんとなくニコルは思った。

 顔つきは凛々しく、どこか冷めた雰囲気を纏っているその女性教官は、不意に口元に不敵な笑みを浮かべた。

「ようこそ、精霊学院へ。私が君達の担任となる一級魔法士——マリアベル・マレットだ」

 その瞬間、ニコルは胸に稲妻が走るような衝撃を感じた。

 教官の声は静かなる自信と、迫力に満ちていた。同時に、新入生一同に向けられた視線は、猛禽類のそれを彷彿とさせる獰猛さを湛えていた。

「諸君に一言だけ、前もって伝えておきたいことがある」

 ニコルは無意識に息を飲む。

 一体、何を告げられるんだろう? 得も言われぬ焦燥感が胃の辺りから込み上げてくる。

 そして、女性教官——マリアベルは、厳かに口を開いた。


「給食を舐めるな」

 

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