やっぱりコレ、コンピュータだよ。

 蓮桂樹へ向かう道中。

 曇花がこちらの背を指さす。


「背中に葉が付いているぞ」

「そうか。すまないが取ってくれないか?」


 彼の方へ振り向くと、数百年山に引きこもっていた仙人は眉間にしわを寄せた。


「ほれ、年頃の女子おなご易易やすやすと男に触らせるな」


「私の師匠は相手が男だろうが、女だろうが敵対した者は容赦なく殴っていたぞ」


「そういう話をしている訳では……我は長き時を山中で過ごし俗世には疎いが、貴様も我とは別の意味で世間知らずなようだ」


 「どういう意味だ?」と問いかけようとしたが、先ほどルイーズが油を注いだ火を再び発火させる訳にはいかないので、仕方なく自力で桃色の葉を落とす。


 それにしても見た事が無い植物だ。

 この山にいると、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような感覚に陥る。

 

 そういえばタンファの住処でも違和感を感じた。古風な家具ばかり並んでいたせいであろうか?



 いや、違う。



――円卓の周りには私達全員が座れる程数多くの椅子があった。

 椅子以外の家具もタンファ一人が使うには多すぎる。

 更に、チラりと見えた奥の部屋にはベッドがいくつも並んでいた。椅子の数より多い。


 そんな事を考えていると蓮桂樹の根元へ辿り着いた。


 圧巻と呼ぶべき風景に、思わず息を飲む。


 うっすらと輝く宝石の表面には、びっしりと文字が刻まれている。

 じっくり観察してみれば全ての文字は零か一で構成されていた。

 そして光り輝く宝石が束となり、木の形を織り成している。


「これが蓮桂樹か……」


 隣を見てみれば常時無表情であるシドが珍しく目を輝かせていた。


「因子による魔術法則を応用した演算モジュール……確かにこれなら天文学的数字のデータも……」


 ちょっと何を言っているのか分からないが、要は今目の前にあるものは『すっごい何か』であるということだろう。




 私も観察するべく蓮桂樹へ近寄ろうとすると、光り輝く宝石の隙間から何やら飛来してきた。



 見覚えのある形状。


 金色に染まり輝く、その姿。

 

 針に似たフォルム。



――間違いなく、宇宙船に乗った私達を襲撃したあの弾丸だ。


 応戦するべく鞘に手を伸ばすと、潔いサラン少年が、私より先に弾丸の方へ走り寄った。


 サランが両手を構えると虹色の障壁が生成される。光の因子プライドによる権能だ。


「皆様、お怪我はありませんか?」


 破壊を得意とする雷の因子イーラとは対照的にサランが取り込んでいる光の因子プライドは守備に向いている。


「そこに居るのは誰だ?」


 脅すような声音に変化したタンファの叫び声に反応するように、攻撃が止む。

 そして蓮桂樹の根元から人影が見えた。

 女性の人影だ。


 雲花と同じ金色の簪。牡丹の花が描かれた着物はティエン・シャンの伝統衣装に似ているが、仙人特有の羽や尖った耳は無い。

 則ち人間だ。


 女性の姿を見た雲花が、ボソッと独り言を呟く。


「師匠……」


「彼女は雲花さんの師匠なのか?」




「はい。師匠の雲月です」






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