第5話 逃走と洞窟
「ラージベア・・・・」
以前レックスさんが討伐したラージベアとは大きさが桁違いに大きいから別の種類かとおもったが特徴は以前見たラージベアと酷似していた。
ただ以前の個体とは違い体の大きさは2倍以上あり、至るところに禍々しい模様がある。
ラージベアを見ているだけで全身血の気が引き、意識が遠のく感覚がする。
なんでこんなところに、なんで気づかなかったのだろう。絶望と焦りが思考を奪い何をしたらいいのか分からなくなる。
冷静に考えたらあり得たのだ、少年の怪我の傷口からラージベア以外にあり得ないしあの怪我で森の北から森の南まで逃げられる訳がない。少年は南側で襲われここまで逃げてきていたのだ。
これだけ近い距離、しかももう捕捉されている以上隠れてやり過ごすことなんでできない。
もう・・・・
突然手を握られて暗い思考に光が届く、握っていたのは当然先ほど助けた少年でそれは緋色の瞳をこちらに向けて叫ぶ
「逃げるぞ!!!走れ!!!!」
少年の声、手のぬくもり、握られた痛みさまざまな外的要因で思考がパチッと音を立てて鮮明になっていく。
少年に引っ張られながらも走っていく。
GRUroooooo!!
ラージベアも目の前のわたしたちが獲物と認識しており、逃げるわたしたちを咆哮と同時に追いかけてくる。
「ひっ・・・」
「うしろを振り向くな!足を動かすことに集中しろ!じゃないと追いつかれるぞ!!クソっあの魔獣めしつこい・・・!!」
少年はわたしを叱咤し、走る足を止めることはなく魔獣に手の平を向けるとブツブツと小さな声でつぶやき始めた。
--呪文?あの子魔法が使えるの!?
魔法自体は珍しいものではないが、皆が皆使えるわけではなく魔力を保有している人のみが行使することができるもので、ルルの村でも使える人は師匠も併せて2、3人ほどである。
わたしも魔法を習おうと師匠にお願いしたことがあるのだが、どうしようもない理由で魔法を習うことができなかった。
詠唱がおわったのか、かすかな光を放ち少年の手の平に風が集まっていき、こぶし大の風の塊が形成されていった。
「エアショット!!」
少年が放った風の塊は魔獣の顔に当たったりはじけたものの、魔獣は煩わしそうに顔を振ってみせただけで、特に効果はなさそうであった。
「そんな・・・。」
「この図体だからな、わかりきっていたといえ速度を落とすことすらできないのかよ。腹が立つな・・・。」
少年も消耗した体に魔法を使ったためか、わたしを引く力はどんどんと弱まっていき逃げる速度も落ちていく。
「もう少しだ・・・もう少しで洞窟がある・・・。あの図体ならあの洞窟は通れない。」
息を荒げながら少年が言うと、その通り先には小さな洞窟が見えてきていた。
洞窟というか岩の狭間に近いがあの中に入れば確かにこの魔獣が諦めるまで籠城することができるかもしれない。
ただ問題は距離、このままではギリギリ追いつかれる。
魔獣の速度はわたしたちの速度よりも速く、遠くに見えていたその巨躯はその姿を視界に納めきれないほどに接近していた。
---師匠からもらった爆薬!!
手を考えていたわたしの頭は師匠に貰った爆薬の存在をようやく思い出すことができた。爆薬なら魔獣を倒すまでは行かないが先ほどの魔法より威力はあるため足止めになるかもしれない。
急いで鞄の中から出そうと視線を落としたとき、足下が宙に浮き上がったのを見た。
簡単な話だ、この極限状態で尚且つ手を引かれている状態で走っていたわたしの足は不意に意識をそらしたときに、その制御をしくじり足がもつれたのだ。
そのまま少年をまきこんで、転倒してしまう。
「きゃっ」「うわっ」
吹き飛んだ体に衝撃が走り視界が暴れ回る。
暴れる視界が収まり体中に痛みが遅れて駆け巡る。すぐに立ち上がり走り出さなければなければならないのに痛みで思うように立ち上がることができない。
力を振り絞り体を起き上がらせることはできたが。
このままじゃ・・・・
「おい、目を閉じて体をこっちに向けろそして歯を食いしばれ・・・!」
耳元に囁かれ、背後から腹部に人肌の熱と手の締め付けを感じた。
すぐに声の主の胸に顔を押しつけ言われた通り目を閉じグッと口を紡ぐ
「エアショットっ!!!」
声とともに目の前に風圧と衝撃が同時に背中に当り、浮遊感が遅れてやってくる。
そして
地面に激突をしたのか再び全身に衝撃と痛みがはしりそのまま地面を転げていく、嗚咽が漏れ意識が遠のいていく。
それでも彼はわたしを離さず、守ろうとしてくれていた。
薬師見習い少女のお使いの旅~回復魔法がある世界で薬を運ぶ~ 庵屋 @kikuruaruku
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