第5話 水やり

 フロテール…それが彼女の、そして私がこれから暮らす新しい世界の名前らしい。あまりに雄大な自然を前に声を失っている私を、メルイア様はツリーハウスまで連れてってくれた。どうやら丘から見えたツリーハウスが彼女の家らしい。


 彼女はあらゆるものに興味津々な私を、どうにかこうにかツリーハウスまで引っ張っていった。遠目で見ていたし、周りの木々が巨大で気が付かなかったが、ツリーハウス自体もかなり巨大なものだった。使われている丸太は一切の歪みがない、その木々が生きた悠久の時間を感じさせる巨大なものばかりだ。また我を忘れて観察していると、私の暴走にもうすっかり慣れっこなメルイア様が笑いながら、


「それも後で紹介するわ。先にやるべきことをやっちゃいましょう。貴方の体の事とか、いろいろね。それに、私の事をまだあんまり知らないでしょう?そっちも話さないとね。」


 そういいながら、両開きのドアを開けて私をいざなった。


 中は、異世界系ラノベでよく見る西洋貴族風の家だろうか?巨大なエントランスと、螺旋階段が目に飛び込んできた。木材と石材でできていて、煌びやかさはそこまでないが、上品で落ち着いた雰囲気を醸し出している。飾られている鮮やかなバラのような花も知らないものだが、とてもきれいな花だった。


 そんなお家の中を、メルイア様に連れられて進んでゆく。絨毯の柔らかさに驚いていると、メルイア様が足を止めた。どうやら、目的地に着いたらしい。彼女の書斎のようだった。


 木と本の香りに鼻を鳴らしていると、地面から木が生えてきた。木はうねうねとうねりながら椅子の形になっていく。椅子ができたと思ったら座面と背もたれに綿花のようなものが咲き、クッションのようになっていた。促されて座ると、ちょうどいい反発が帰ってた。人を駄目にする座り心地に、知らず知らずの内に緊張していた体から力が抜ける。すっかり椅子に落ち着いたのを見計らって、メルイア様が口を開いた。


「さて。それじゃあ始めましょうか。とりあえず私たちに関することや今までの経緯とこれからの予定も含めて、ひと通り説明するわ。わからないこととか、聞きたいことがあったらいつでも言ってちょうだいね。」


 そこから、メルイア様の怒涛の説明タイムが始まった。



 いろいろ説明されて、聞いては補足されてを窓から差し込む光がオレンジに染まるまで繰り返して、ようやく一息ついた。ここに来たのは、太陽のようなものが丁度頭上くらいだったからたぶんずいぶん長い時間話していたんだと思う。


 とりあえず、今後必要になりそうな情報を箇条書きにしようと思う。

 


 ・メルイア様について。この世界の管理者なのは知っていたが、どうやら管理者は、神面なるモノをお持ちらしい。いわゆる権能とかそんなニュアンスでいいのだとか。メルイア様は、豊穣、光、生命、狩猟の4面を持ち、管理する世界にはこれらの要素が色濃く出てくるとかなんとか。豊穣の権能で緑が豊からしい。


 ちなみにセレネ様は、夜、星、死、慈愛の4面で二人ともかなり強力な管理者らしい。隣り合う世界の管理者は正反対の系統の力をいくつかもっていることが一般的らしく、光ー夜や生命-死がそれにあたるっぽい。



 ・世界について。世界は数万個あるらしく、今も続けているらしい。実るというのはどう言うことかというと、数多の世界は、大きな一本の木、〈母なる大樹〉から吊り下がった果実で、樹が成長するのに伴い、その数を増やしているのだとか。


 そしてその母なる大樹を管理しているのが、管理者かみさま達のお母さんらしい。そんな巨大な樹なら空を見上げたらそこかしこで枝や葉が見えそうなものだが、そんなものは見たことがない。そういうと、「そのうち見えるようになるわ。」と言われた。私に何かが足りていなくて、見えていないらしい。というか口ぶり的に、神族やよほど高位の生物でない限り見えないっぽい?ちなみに管理者たちのお母さんビックマザーの名前もノイズがかかってまったく聞き取れなかった。



 ・十数年前にメルイア様が地球にいた理由。なんでもメルイア様よりはるかに枝先、真新しい世界に生まれた新人管理者が権能の力におぼれて邪神としてその枝の世界を破壊しまくったらしい。母なる大樹の葉脈や道管(魔素や輪廻転生する魂の通り道)を逆流して、母なる大樹を征服しようとしていたんだとか。逆流していく過程で通った世界が、ついでに被害にあったのだ。そう言っていた。


 それを止めたのがメルイア様で、数万年前にこの世界に邪神が訪れた時、植物を操る豊穣の力で母なる大樹、、、長いのでこれからは世界樹って呼ぼうと思う。世界樹の道管ごと爆破したらしい。


 邪神は消滅したものの、億や兆ではきかない数の魂とおそろしいほどの魔素が消し飛んだ。当然、そこにあったエネルギーは本来この世界かじつに、そして滅んだ枝先の世界で使われるはずだったものだ。それを補給回路ごとすべて爆破したものだから、魂が世界樹を巡る正常な輪廻転生ができなくなり、同時に深刻な魔素不足に陥った。世界樹にくっついているだけで、システムから切り離され、完全に孤立したらしい。さらに、世界のすぐ近くで爆破することになったため、世界全体が深刻なダメージを負ってしまった。

 

 どうにか魂の輪転生用の道は繋げて、しっかりと廻るようにしたのだが、魔素の補給路が完全にイカれたらしい。強い魂の多いこの世界フロテールにとって魔素不足は死活問題だ。世界の修復にも魔素がいる。そこで、世界樹と新しく補給路をつなぐまでの繋ぎとして、被害にあっていないうえに魔素をそんなに使っていないセレネ様の世界から譲ってもらっていたそうだ。初めて会った日も、そのために訪れていたという。というか、その一回が最後で、つい最近ようやく補給路が治ったそうだ。これからゆっくりと世界を回復させていくらしい。



 ・最後に、私についてだ。私はこれから、フロテールに魂が馴染み次第転生する予定だ。行き先は、先に話したエネルギー爆破で最も被害を被った星らしい。もちろん、ある程度の生物がすんでいる星の中での話だ。そこで星の修復を手伝うのが愛し子兼眷属の役割だが、このお仕事は私が成長してからの話で、とりあえずは世界を楽しむのがメルイア様からの第一使命だ。


 私が転生する惑星は、エネルギー爆破…邪神災害とか言っていたので、そっちを使おうと思う。の影響で人類生存圏がかなり狭まり、中央の大陸一個分しかない状態になっている。周りの大陸は、災害で狂った地脈の影響で魔物が活性化して、魔物が1頭中央大陸に来るだけで街、下手すると国が滅ぶレベルに強力になっていると言う。さらに、不安定な地脈がいびつな形で力を溜めるせいで、千年後には星が割れてしまう可能性があるのだとか。人類の存続はともかく、せっかく発生した命ある星を失うのはどうにか防ぎたいんだって。


 だからその星に転生して崩壊を防ぎ、地脈とかを今の生き物が適応できる変化の範囲内で直していくのが私の仕事だ。生き方については、さっきの役割さえ全うするならどう生きてもいいらしい。


 そして転生先の種族は、魔法と植物、精霊と親和性が良いダークエルフのような種族に決まった。肌が黒くなったメルイア様みたいな身体的特徴をしているらしく、見目麗しい者が多いんだとか。どうもメルイア様を大元に作り出され、植物や果物を管理・調査・奉納する役割を担っていたが、災害以降役割を果たすのが困難になりそこからしばらくして役目そのものが失伝してしまったんだとか。丁度いいからその役割を果たすこともついでの任務になった。メルイア様はついででいいと言っていたが、あんなにさみしそうに話されたら全力でやるしかない。ただの捧げものだって、滅多に地上へ行けないと言うメルイア様からしたら数少ない楽しみだったのだろうから。



 とりあえずはこんなところだろうか。


 メルイア様との会話を思い返していると、扉をノックする音が聞こえた。メルイア様が許可を出すと、ティーセットの乗った台車を押しながら一人のメイドさんが入ってきた。薄緑の肌に蔦が絡み、体や蔦のところどころに美しい花が咲いている。身長も高いし、とんでもない美人だ。それに、彼女の体に咲く小さな花からだろうか?華やかなベリー系の香りがする。


「その子はドライアドのベル。彼女たちドライアドは長い時間を生きた樹から生まれるの。ここでメイドをしてる子のひとりね。」


「ドライアドのベルです。こちらでは、メイド長のようなものをやっています。よろしくお願いします。」


 出された紅茶を飲みながらベルさんとも少し話したが、まじめで明るい人という感じだった。どうやら彼女たちはほかの種族の方々と一緒に畑や森の管理もしているらしい。ほかにいるのがどんな種族かは、会ってからのお楽しみにされた。やたら観察されていたが、なぜなんだろうか。それに、私の眷属としての仕事を話すと、すごい期待感に満ちた目で見られた。謎だ。


 その後ベルさんが部屋から出ていってから、しばらくメルイア様と会話して今日はお開きになった。メルイア様にも仕事があるし、私もいろいろあった疲れが出たのか眠くなってしまった。明日はいろいろ案内してもらう約束をして、とんでもなく豪華なお風呂を借りてそのまま寝た。


 翌日からは、あっという間だった。メルイア様達と一緒に領域を歩き回って、彼女の眷属に挨拶をして、その方達からこの世界やこの領域の事を教えてもらって。そのあと魔法とか、弓術、短剣術とかを教わった。その中で、植物を操る魔法も教わった。やったね!まぁ、今はまだ魂がこの世界に馴染めてないから魔法とかファンタジーなパワーは一切使えないんだけどね!


 まぁ、先生がメルイア様だったり、ドラゴンだとか、トレントだとか、精霊だとか、ばかデカい狼だったりしたけど、今更そんなの些細なことだろう。こっちも元居た世界の事とか話してみたりして、日が暮れたらウッドハウスでメルイア様とご飯を食べて、お風呂に入って寝て。とても楽しい時間を過ごした。 


 だが、楽しい時間はすぐに終わるものだ。一月ほどだろうか?過ごした頃、ついにその時が来た。そう、私の魂が転生できるレベルまでこの世界に馴染んだのだ。さみしいが、一時お別れの時間だ。





※あとがき


 こんにちは。説明回、あまりに読みにくかったので修正加筆してたらだいぶ時間が空いてしまいました。すみません。まだまだ読みにくいと思うので、試行錯誤を繰り返しながら自分のスタイルを作っていきます。


 さて、投稿頻度になりますが、今後は月、水、木曜日のいずれかに最低1話、余裕があれば2話投稿します。週1~2話更新ですね。たまに後ろにずれるかもですが、週1ラインは守っていこうと思います。そんな感じで、これからもよろしくお願いします。


作品の評価など、作者の励みになりますのでよろしくお願いします。

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