第47話 さようなら
「魔法の国で火山が噴火したそうだ」
強固な守りだが流石に天災には敵わなかった。現在魔法の国の民は国を離れ避難中。被害はほぼ無いが落ち着くまでは避難を継続、各国が支援を行う。魔人戦争後そういった動きはスムーズにできるようになった。各国が力を合わせた戦った賜物だな。そんな中、魔法の国のトップ達を失脚させようとする動きもあるようだ。ただ、いたずらに情報を出すだけでは敵対されこんな状態でも魔法魔法の国に立てこもられ戦争になる可能性がある。犠牲者はできるだけ出したくない、慎重に事を進めたいと語るルーラーさん。せめてもう一手、魔法国を追い込むネタがあればと頭を悩ます。
「街を壊してしまえばどうですか」
「……いい案だ」
サシャの案がそのまま国中を駆け抜け魔法の国を破壊する案が採用される。内容としては火山により街が壊滅しましたといったことにしたい。
「無理だ。国の中央にそびえ立つ人智の結晶の塔がある限り、奴らの心は折れないだろう」
その昔、魔法の国の人達が様々な技術、金属、レアスキルを用いて作った塔。何人にも、神でさえも破壊はできないと魔法の国の人達は豪語するという。現在は皆避難中、一応やるだけやって破壊が不可能なら他の手を考えようか。まずは誰もいないか魔法の国を調べることに。俺達もこっそり魔法の国に向かう。
「街に残っている人間は0人です」
「ご苦労様」
こうして俺達は魔法の国の中に入る。現在は噴火はおさまっている。人っ子一人いない街、まっすぐ人智の塔を目指す。塔に到着、壁をコツンと手の甲で叩く。金属のような質感、それでいてゴムのように衝撃を吸収する感じがした。特殊な加工が施されているな。
「懐かしいな、悪い思い出しかないが」
ここで様々な悲劇が起こったという。魔王にとっては見たくもない塔だろう。明らかに顔色が悪い。大丈夫だと肩を叩き、彼女を後方へ下がらせる。
「悲しみをばらまく人智の結晶なんていらない。俺が破壊してやる」
顔を振り諦めたかのように小声で無理だと言う魔王。魔法ウインドブレイドを斜めに角度をつけて放つ。きれいに一直線に斬れ、塔が転がり落ちる。
「人智の結晶が!?」
驚く魔王。正直斬れないんじゃないかと内心ドキドキしていた。きれいにカットできた塔、中身が丸見えだ。次に付与術フルで塔の上部を殴る。攻撃した場所は蒸発、思っていたより簡単に破壊できそうだ、意外と脆いね、人智の塔! 転がっていた塔を破壊し尽くし、残るは地に生えた人智の塔、地下もあるという。
「仕上げといくか」
アイススピアを発射、塔の内部を突き刺す。穴が掘れたところでシャインエクスプロージョンを放ち爆破して破壊。ロックブレイクを使い念入りに内部をすりつぶす。とどめにグラビティマニューバーで重力をかけ、塔を押しつぶす。こうして塔の破壊に成功。
「ふっ、まさか破壊してしまうとはな」
魔王の体が光りだす。恨みの元とも言える人智の塔を破壊しこの世に執着する理由はなくなったと話す魔王。彼女は今死者の世界へ旅立とうとしている。
「パインには今までありがとうと伝えておいてくれ。それから」
俺に近づく魔王、頬に口づけをして俺を抱きしめる。
「短い間だったが楽しかったぞハジメ」
「それならよかった」
(私の名は――)
耳元で名前を告げる。彼女のぬくもりを感じる、今まで生きてきた証。
(小娘共、頬ですましてやったぞ。それからエル、意中の人を手に入れたいのならば時には強引にいくのも手だ)
俺から離れると、彼女が放つ光はいっそう強くなった。
「さようなら」
(ああ、さようなら――)
彼女が微笑むと光が粒子となり空に飛び上がっていった。光が抜けエルがその場に倒れ込む。駆け寄る俺達。
「私は大丈夫です。ですが魔王さんは……」
彼女は無事、しかし魔王の気配は体の中からなくなったと話すエル。魔王のスキルは残った。問題なく全ての魔法を使用可能、これは彼女の置き土産かな。空を見上げ彼女に感謝する。
「街の破壊を始めよう」
街を豪快に破壊していく。砦や魔族本国、人智の塔を破壊してきた俺だ、もう手慣れたもの。
「きゃっ!」
爆風でスカートが捲れ上がるエル。今日はかなり際どい服装している。彼女は派手好きだったようだ。控えめなエルとは着ていく服はいつももめたという。今日は彼女の意を汲んだのだろう。
「派手に街を破壊することで彼女の鎮魂としよう。空から見ていてくれ」
スキルを使い魔法の国を更地にする。国に戻りルーラーさんに報告、国が動き出す。拠点と心の拠り所を失った魔法の国を牛耳る者達はあっけなくスキャンダルに飲み込まれる。トドメとばかりにレアスキルを調べていたという情報も流れ出しオーバーキル。最終的に牢獄送りの結末だった。
「パインはこれからどうするんだ」
「活動は続けるさ。彼女がいなくなっても彼女の意思は生き続けるんだ」
虐げられるものはいなくなるわけじゃない。人類がいる限りどうしても生まれ続ける。そしてそんな彼らを助ける組織がある。そのきっかけが魔王。これは彼女が生きていると言っても過言ではないかもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます