第35話 団体戦の仲間探し
季節は学園の学期末テストの時期。
事前に教えてもらった内容によると、試験は対人戦闘試験、対魔物戦闘試験、団体戦試験、歴史の筆記試験と魔学の筆記試験の全五科目となる。
いずれも内申点に大きく影響する内容らしい。
試験自体にはさほど不安がなかったのだが、問題は――
「はぁ……。団体戦、あと二人かぁ」
最大三人で臨む必要があり、私のほかに二名のメンバーを捕まえる必要がある。
二人で臨んでもいいらしいのだが、一対三や二対三よりも三対三の方が勝率が高いなんて言うまでもないことだ。
た、たぶんメイリスさんは加わってくれるよね。
あとそれにレベルカさんとサイオンさんも。
なんなら最近はグレドさんやニアさんとも普通に話せるようになってきたから彼らに声をかけても良い。
よし、これだけで五人も候補がいる。
きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、背を丸めながら学園へと登校した。
すると、教室に入るのと同時に三人の人物から声をかけられることとなった。
「ミュリナさん、団体戦を一緒にやろうよ」
「ミュリナ、こいつとじゃなくてあたしと一緒に団体戦やって」
「ミュリナさん、団体戦でわたくしのグループに入れてあげなくもないですわよ」
と、サイオンさんとメイリスさんとニアさんから同時に声をかけられるのだった。
「え、あ、えっと――」
想定外の事態に困惑してしまう。
「僕としては、メイリスやそこの家柄しか見えてない人とは組みたくないな」
「あら、気が合いまして。わたくしもあなたなんかとは組みたくありませんわ」
「あたしとしても、できればこの悪漢や悪女とは組みたくないんだけど」
えぇ……。
さすがにみんな自分勝手すぎでしょ。
けど、彼らの誘い自体は断りたくないわけで。
こういうときってどうすればいいんだろうと迷っていると、サイオンさんが一番困る提案をしてきた。
「よし、そしたらミュリナさんに誰がいいか決めてもらおう。ミュリナさん、誰がいい?」
えええ!?
ここで私に振るの!?
これ誰を選んでも絶対あとくされが残るやつじゃん!
三人ともが私を期待の眼差しで見つめてくる。
メンバー集めには苦労しなさそうだが、これはこれで困ったことになってしまった。
「うぅぅぅ。え、えっと、その……あぅぅ」
「ちょっと! ミュリナが困ってるじゃないのよ!」
「毎回君が彼女を縛っているからだろう? リベルティア領にたまたま来たからっていい気になるな。ミュリナさんにだって選ぶ権利はある」
「あの手この手でミュリナを強奪しに来ようとするあんたらに言われたくないわ!」
「あら、心外でしてよ。わたくしはミュリナさんを心から応援しようと考えておりましてよ」
「「嘘つけ!」」
「人を嘘つき呼ばわりしないで下さります?」
「さあミュリナさん誰にするんだい?」
「ミュリナ、あたしでしょ?」
「ミュリナさん、わたくしを選んでくださいな」
さあさあと選択を迫る彼らに私は目が回ってしまい。
団体戦のことよりも、この場から逃げたいと思ってしまう。
そんな私に魔が差したのであろう。
ちょうどそばを通りかかった男性の裾を掴んで叫んでしまった。
「わ、わたしっ! この人と団体戦は出るつもりなのでっ!」
「「「え?」」」
「ああ゛ん?」
なんと掴んだ裾は、よりにもよってグレドさんのものであった。
当然彼は私に強い睨みを返してくる。
「ひぃぃぃぃ!」
「あんだちっこいの。俺に用か?」
「ち、ちっこいのじゃなくてミュリナですっ! それに私が小さいんじゃなくてグレドさんがおっきいんですっ!」
「どっちでもいいわ! 団体戦って何の話だ!?」
「え゛! そそそ、それは、えっと、その……」
グレドさんは状況を一瞥して、あたふたとする私にため息をつきながら、何が起きていたかを察する。
「……はぁ。ミュリナ、俺はお前となんかとはぜってぇチームを組まねぇ」
「え?」
「お前なんかの力はぜってぇ頼んねぇ。ぶっ倒してやるから覚悟しておけ!」
「あ、あぅ」
普通に断られた……。
プチショックを受ける私を横目に、グレドさんはメイリスさんたちの方へと視線をやる。
「お前ら、もしミュリナが魔王だったら立ち向かえんのかよ。よってたかって情けねぇ野郎どもだな!」
それだけ述べて、彼は行ってしまうのだった。
……。
え? なんでいきなり私が魔王って話になるの?!
バレてんの!!?
私がわなわなしていると、三者はお互い気に食わないという顔を浮かべながらグレドさんを見送る。
そのあと最初に口を開いたのはニアさんだった。
「ミュリナさん、ごめんなさい。やはりこの話はなかったことにしてくださいな。わたくしはわたくしの力で団体戦に臨みますので」
「ふっ、仕方がないな。ミュリナさん、僕はいつでも待ってるからね」
「むぅ、ミュリナ、あたしも興味があるなら声かけて。あなたのこと、大切だと思ってるから」
そう言って、他三人も解散してしまうのだった。
「え? あー……。えっと……」
残された私は一人ポカンとしてしまう。
……。
団体戦、結局組む相手が誰もいないじゃん……。
*
はーあ。
結局一人で受けることになるのかぁ……。
みんなと仲良くなれたと思ったのに、やっぱり私って子馬鹿にされてただけなのかも……。
涙が出てきたところで背後から声がかかる。
「ミュリナさん」
「あ、あぅ、レ、レベルカさん!?」
「どうしたの? 目にゴミでも入った?」
大急ぎで涙を振り払う。
「あ、そ、そうなの。ちょっといっぱい入っちゃって……。その、レベルカさん。だ、団体戦とかって、やっぱりサイオンさんと……ですよね……」
「いえ、サイオン様はどうも別の方と組まれるみたいで、もしよかったら私と組まない?」
その瞬間、私の心に光が差していく。
レベルカさんが彼と組まないなんてことあるのだろうか。
彼女は何をするのもサイオンさんに付き従っていた。
もしかして、私のことを気遣ってくれている!?
「いいんですか?!」
思わず彼女を両手で握ってしまった。
「わっ、え、ええ。そ、そのために来ましたし」
「うわぁぁぁ。ありがとうございます! 何か私、みんなから距離を取られちゃったみたいで……。レベルカさんの事、ちょっと好きになっちゃったかもですっ!」
「え゛!? あ……そ、そう。それは私としても嬉しい限りだわ」
若干引かれいる気もするが、そんなことはどうでもいい。
団体戦は上限こそ三人だが、二人でも受けること自体は可能となる。
「そしたら、もう一人を探そっか」
「はいっ!」
私は張り切って仲間探しに勤しむのだった。
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