第26話 『料理』

 オフェーリアは都で生まれ、都で育った。その後サクラメント侯爵家との婚約が決まり、そのまま侯爵家に嫁いだ(オフェーリアが年少だったためまだ結婚式をあげていなかった。もちろん婚前交渉もなし)正真正銘の箱入り娘である。

 そんな彼女が貴金属の価値など詳しいわけがない。


「フェリア様、貴方様がお暮らしになっていた都ではそうかもしれませんが、ヒトの世界では白金は希少金属です。

 どうか慎重に販売なさるようにお願いします」


「そうなの……駄目ねぇ。

 やっぱりしばらくはこの町で勉強した方が良さそうね」


 ジルにとってはもちろん嬉しいことなのだが、同時に頭を抱えることも多くなりそうだ。



「話は変わりますが、フェリア様は冒険者ギルドに興味はございませんか?」


「冒険者ギルド?」


 オフェーリアのイメージでは、冒険者ギルドとは荒くれ者の集まりという認識なのだが。


「はい、これからの事を考えると、所属だけでもしておいた方が良いと思います」


「そうね。それも一理あるわね。

 わかったわ。

 今度行ってみます」


 ここで今すぐと言わないところがオフェーリアらしい。

 結局この日、護符を幾つか卸して森に帰っていった。

 後日、ジルが知己の冒険者にオフェーリアの言った森の事を聞くと顔色を変えて詰め寄られてしまった。

 どうやらそこは上級冒険者でも入るのを躊躇する魔境のようだ。

 なのでそのあと誤魔化すのに苦労したことは言うまでもない。



 森に戻ったオフェーリアは昨夜より少し森側に家を出し、しばらくここに腰を据えることにする。

 それと結界石を使った蜘蛛用の罠も仕掛け済みで、後は翌日成果を確かめるだけだ。

 オフェーリアはまず、煮込み料理ビーフシチューの仕込みを始めた。


 まずは少し大きめの一口大に切り分けたミナコス高原牛(高級牛肉)のすね肉を赤ワインにつけ込み、魔導冷蔵庫で約3時間寝かせる。

 その間にじゃがいもとにんじんの皮を剥き、適当な大きさに切るとまるで業務用のような寸胴鍋を取り出した。

 そう、オフェーリアは大量のビーフシチューを作ろうとしている。


 オフェーリアの育った館のシェフは色々な料理を教えてくれた。

 特製のデミグラスソースもそのひとつで、これをオフェーリアは都から出る前に大量に作成していた。

 今回も赤ワインを含んだ煮汁にそれを合わせて、とても美味しく出来上がった。

 とろとろに柔らかいすね肉とホクホクのじゃがいも、甘いにんじん。

 これに黒パンを合わせたものがオフェーリアの夕食になる。


「でもたまにひとりでの食事が寂しくなるわね」

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