第5話 邪悪な守護者

※ このエピソードには暴力的な描写が含まれておりますので、苦手な方や不快に感じる方は、ご注意ください。


 理人が豹変し、自らの内側に宿る善なる母ゼナ・ガーディアン*のが不安定に陥った。彼の手に握られる両手杖ツインピークスタッフから発せられる邪悪なはアルヴィンと名乗り、理人を支配しようと命令を下す。


『どうやら緊急事態のようだし、貴様理人傍観ぼうかんでもしておけ。』


 自ら乗り移るを理人に宣言すると同時に、アルヴィンは両手杖ツインピークスタッフを強く握り、攻撃の構えを見せる赤髪のAI自律型兵士ヴァンロードりんとした眼差まなざしを向けた。そして、両手杖ツインピークスタッフを超高速で右回りに回転させ、圧倒的な風圧を生み出し、赤髪のヴァンロードの片腕をあっさりと切断した。腕が地面に落ちる音はずっしりと重く、その場の空気が一瞬、凍りつくような静寂が広がった。


 黒髪のヴァンロードは即座に反応し、AIglassアイグラスからは、緊急を告げる鋭い警告音が鳴り響き、その刺激的な電子音が周囲に不安と警戒の空気を撒き散らした。アルヴィンはその驚きに乗じて、すぐに次なる攻撃へと移行した。


 空気を切り裂くような音を立てて、黒髪のヴァンロードの左手から発射されたプラズマ弾が、まるで光の矢のようにアルヴィンに向かって飛んで来る。その弾丸は激しい閃光を放ちながら、ほとんど目にも止まらぬ速さで進行してきたが、間髪を入れず、アルヴィンは両手杖ツインピークスタッフを左に高速回転ハイパー・スピンさせて弾き飛ばした。

 

「ラビ、油断するな!」


 と、黒髪のヴァンロードが力強く叫ぶ。その声は戦場の喧騒けんそうを断ち切り、警戒心を強調した。赤髪のヴァンロードのラビは戦闘の熱気に満ちた声でいきどおりをあらわにした。


「くそっ‼︎ なんてざまだ!タリム、LINXリンクス**の反応がない!BEARTRIXベアトリクス***のデータベースを共有してくれ。」


 ラビの右腕はすでに戦いの中で失われていたが、生き残った左腕の手の指先プラグを、黒髪のヴァンロードのタリムの耳孔ソケットに慎重に装着し、二人の間でデータが流れるのを確認した。


「それにしても…『あんたたちも人間なんだろ?だったら戦う必要はない。話し合うこともできるはずだ。』と30分前に迫っていた人間がなせる技とは思えんな…」


 タリムが静かながらも鋭い口調で言い放つと、ラビは警戒心をより一層強め、虎視眈々こしたんたんとアルヴィンを睨みつけながらも、次なる戦略を静かに練っていた。


 一方、ミヤビは変貌へんぼうした理人に対し、深い嫌悪感を抱いた。


「お前は一体誰なんだ?」


 理人を憑代よりしろとする邪悪な守護者、アルヴィンは冷たい声で答えた。



『我が名はアルヴィン。一つの星に留まり、利益を貪りつづける者たちに裁きを下す使だ。』




(注釈)

*善なる母ゼナ・ガーディアン: その正体は、理人の母であるあん(『幽愁のモラトリアム』に登場)


**LINX: ラビのメンターAI。戦場での状況をリアルタイムで分析し、冷静かつ計算高い戦略的な指示を提供する。プライドが高いラビにとっては、戦闘での勝利を確実にするための重要なサポート役である。


** BEARTRIX: タリムのメンターAI。タリムの冷静で俯瞰ふかん的な視点をサポートし、戦況の把握や戦略の提案を行う。掴みどころがなく何を考えているか分からないタリムに合わせて、柔軟かつ予測不可能な戦術を提供し、戦闘の流れをコントロールする。

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