第2話 イベント(ナイトメア)の始まり
「こ、ここは……?」
目が覚めた場所はたくさんの人がいる草原。ぱっと見かなりの数がいる。
『やあやあやあ。ようこそこの世界へ』
そこには純白のスーツを着た男がこちらに向けて一礼していた。
『簡潔に説明すると、君たちはボクが作ったこの異世界に囚われてしまったんだ。君たちというのは、このゲームをプレイしている全世界の3億人ということだ。ここから抜け出すには、ボクを倒すしかない。さて、君たちにはボクを倒せるかな?』
それだけ言い残して男は消えていった。
……は?
え、てことはここ日本じゃないんだよな?ジャパニーズじゃないんだよな?
まじかよ、何してくれてんだよ。てか、こんなん漫画のお話じゃん。
「ちょっと!私たちをここから出しなさいよ!」
「そうだそうだ!」
そうしてその人だかりの群衆がだんだんと大きくなっていく。
その群衆が100を超えたあたりで、誰かが1人死んだようだ。
「きゃー!」
きっと人混みに押されて圧死したのだろう。
その悲鳴は次々と共鳴していくが、ふいに死んだ人間が生き返る。
「この世界に本当の死は存在しない。だってゲームだから」
俺の横に立っていた青紙の男が独り言つ。
確かにゲームなら、死は存在しないだろう。
しかし、それならゲームはとても簡単なのでは……?
次次と辺りの人間が仲間を組んだり組まなかったりして、ここから離れていく。
「なああんた、俺と一緒に組まないか?」
この一瞬の洞察力、この男きっと相当な手練れだろう。
俺は男と組もうと手を差し出した。
『ああ、いいぜ。俺の名前は……本名のほうがいいか?』
「……好きなほうで」
『ゴホン、俺の名前はツルギ。名前の通り、インエネでは剣士をやっていた。よろしく』
俺もすかさず自己紹介を入れる。
「俺の名前はリョウタ。魔術師をやっていた。よろしく」
「ああ、よろしく」
俺とツルギは堅い握手を交わし、「はじまりの町」に向かって歩き出した。
● ○ ● ○ ● ○
「まずは装備集めからだな」
もとより俺はこのゲームをかなりやりこんでいたので、装備の心配はないだろうと思っていたが、どうやらこの世界に着いた時点でゲーム内の身ぐるみは全部剥がされるらしい。
「ツルギは手持ちどんくらいある?」
『銀貨が3枚と銅貨が10枚だ』
「俺と同じだ」
きっとこの世界に着いたころ、みんな同じ金を持ってこの世界にやってきているのではと俺とツルギは考えた。
『ならこの手持ちのカネをいかに有効活用するか……だな』
俺はツルギの言うことに首を縦に振る。
俺たちが今いる場所は「はじまりの町」だが、基本何でもそろっている。
武器に鎧に、宿屋に食べ物。おまけに日雇いの仕事まである。
「俺は装備を整えて、いち早くダンジョンに向かうべきだと考えるぜツルギ」
『そうか?ここでしばらくカネ稼いでてもいいと思うけどな』
あいつを倒すなら少しでも、1秒でも急がないといけない。
俺たちが考えているこの瞬間にも、はじまりの町を出て、次のエリアに行っているやつらだっている。
『仮に急いだところで、結局行き詰ったら意味がないだろ』
「確かに……」
急いだところで行き詰ったら意味がない。
ツルギの言っていることはごもっともだ。
『いいか?リョウタ、頭を使え。例えば「何も持ってない状態で今から3日以内にできるだけ遠いところに行ってください」って言われたらどうする?』
「そりゃ急いで走るだけだろ」
『甘いな』
「は?……」
唐突な話に俺は純粋に返しただけなのにそんなことを言われるとは思ってなかった。
『俺だったら、1日で原付の免許取りに行って残りの2日楽するけどな』
「な!?」
確かに、原付だったらずっと走るよりよっぽど楽じゃないか。
残りの2日、1日分の遅れなんて余裕で取り戻せる。
『な?だから急いで行くよりもここで装備を整えるべきだと俺は思うぜ』
「わかった」
俺たちの記念すべき異世界生活1日目は日雇いの職探しから始まった。
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