第9話 ディープステート
講堂。それは僕らの入った日本家屋の東側にある離れのことだった。
「ユダヤ資本と結び付いた日本政府の言いなりになっても良いんですか!?」
講堂は天井が高く、天窓がついており、そこから日光の明かりが僕らを照らす。100人くらいが集まれるスペースとなっており、いつもはここで音楽の演奏を楽しむような場所のようだった。だからか、今僕らの前で演説をしている人の声が幻想的に響いているように聞こえた。
「戦後日本は、連合国から支配を受けました。その独立を果たしたかに思えましたが未だに連合国からの支配を受け続けております!その証拠に日本政府は外国人ばかりを優遇しているではありませんか!」
駅前で演説を行っていた男性だ。男性は頭に銀色のアルミホイルを頭に乗せていた。ぶどうの葉のようなアルミホイルの冠。なんでも、そのアルミホイルは電波による攻撃を防ぐ効果があるらしい。
「連合国は決して表に現れてきません。しかし確実にいるんです!人々は連合国の存在を知りません!DS、ディープステートと言う言葉に拒否反応を示し、思考停止に陥っているんです!それすらディープステートの作戦であると気付けていないんです!我々のことをバカにする人達もたくさんいるでしょう!そういう人達は戦う人を間違えているんです!そんな人達に攻撃され、疲弊してしまうこともあると思います。僕自身、何度も攻撃を受けています。しかし!皆さん、ここにいる皆さんがいてくれる!僕はそれだけで再び立ち上がれるんです!そして皆さんもここにいる仲間に支えられ、支えているじゃぁないですか!みんなの為の、日本人の日本人の為の、日本人による政党なんです!立ち上がれ日本の党!皆さん、何度も倒れたって立ち上がって行こうじゃないですか!!」
「ディープステートって何ですか?」
舞奈さんは潤んだ目にハンカチを当ててから僕に言った。
「日本だけじゃなくて世界を支配している悪人達の組織ですよ」
「え……」
「日本は第二次世界大戦で連合国と戦った際に、占領されたベトナムやインドネシアの独立を手助けしていたんですけど、朝日さんも知っての通り、その戦いに敗れてしまったんです。そしてその連合国の支配を日本は今でも受けています。その連合国のことをディープステートと呼んでいます」
「そ、そうなんですか?」
衝撃の事実だった。
今まで日本は第二次世界大戦を敗戦し、そこから復興して高度経済成長という躍進を迎えた。父さんや母さんがその世代であった。しかし1991年にそのバブルも弾けて日本は不況の道へと進んだ。僕が理解しているのはその程度であった。
舞奈さんは続けて僕に教えてくれる。
「日本はGHQの支配を受けていましたが、その後勤勉に働き世界に誇る経済成長を迎えたのですが、それを面白く思わなかった
「なるほど……」
すると、代表の
「コンビニの食料を見てください。添加物に保存料、そのどれもが毒なんです!アイスに入っている原料なんてプラスチックですよ?子供がそれを食べたらどうするんですか?これは我々を徐々に蝕み、苦しませる為のDSの計画なんです!そんな毒を、家を出て数歩
僕は舞奈さんに訊いた。
「え、そうなんですか?」
舞奈さんは深刻そうな顔をして頷く。
「日本政府は日本人を排斥しようとしているんです!年間、日本人の子供の出生率がどんどん低下しています!それは政府がDSの計画、日本人減少計画を実行しているからなんです!日本の土地もどんどん外国人に買われています!あの伊勢神宮の目と鼻の先の土地も中国人の物になっているんですよ!?どうして政府はそれを容認しているんですか?そして娯楽も奪われているんです!在日韓国人やお遊戯会としか言えないようなアイドル達によるオタク文化、それは我々の誇る文化を破壊しようという工作なんです。現在はk-popによって日本の音楽は死滅しようとしています!」
僕は思った。なるほど、今まで僕がそれに嵌まり、現在ではどうしてこんな音楽が世に蔓延っているのかその原因がわかった気がした。酒田さんは演説を、真実を語る。
「労働力ですら外国人を使おうとしているんです!*外国人技能実習生は完全に移民ですよ!政府は移民じゃないと言い張っておりますが、日本人の労働を奪っているじゃありませんか?」
すると代表の酒田さんが舞奈さんに目を合わせるのがわかった。僕は舞奈さんを見ると彼女は頷いた。
そして酒田さんは言った。
「今日ここに、今まさに搾取され、苦しんでいる若者が来ているんです!さぁ、朝日さん、どうぞこちらに来てください」
──え……どうして僕の名前を?
僕はどうして良いかわからず、舞奈さんと目を合わせた。
舞奈さんはうん、と頷いて、僕に前へ行くように手を差し出す。僕はふらふらと立ち上がり、ゆっくりと酒田さんの方へと歩いた。
*外国人技能実習制度は2023年11月30日に廃止され、現在では育成就労制度として名称とその内容が変更されております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます