こんくらいしか出来ませんのでねぇ。
2球の変化球で空振りを奪い、さらに緩いボールを見せてからきっちりインコースいっぱいへ。
バットを折るほどに詰まらせたサードゴロ。これをヒックスがポロリした。急いで拾い直して1塁に送るも、ワンバウンド送球。
アンドリュースがカバー出来ればアウトのタイミングだったが、掬い上げたミットからボールがこぼれてしまった。
「シャーロット、またエラー!!2アウト1、3塁になりました。スタンドからはブーイングです」
「集中を切らしてはいけませんよね。まだ2回攻撃するチャンスがありますから、3点差ならまだ分かりません!」
「1度間を取りまして、ピッチングコーチが内野陣を締め直します!バッターは5番のガルシア」
内野陣は一部あたふたしていましたが、こういう時に修羅場をくぐり抜けまくっているセットアッパーという存在は頼りになりますわね。
ピッチングのリズムを崩すことなく、ボールをコーナーに集めてしっかり自分のボールを投げ続けていた。
2ー2というカウントにして得意のナックルカーブで泳がせることに成功した。
高々と打ち上げた打球を前進してきたバーンズがキャッチして3アウト。
なんとかホームランだけの失点でこの回を終わりにすることが出来た。
チェンジになってベンチに戻ると……。
しーん。
いつは賑やかなチームがまさにお通夜状態。
「みんな、どうした!?おっぱい、おっぱい!揉んでけ、揉んでけ!!」
と、日本語で言っても、笑うのは俺のお付き2人だけだった。
この3点差というのは非常に重たい状況。しかもマウンドにはロサンゼルスの最強リリーバーが来ますから。
諦めてしまっているわけではないが、このままでは逆転出来ないと、プレッシャーに勝機を見出だせなくなっているという状況になってしまっていた。
そんな沈下したチームの士気を再び戦えるものにするためには、先頭バッターである俺がなんとかするしかない。
俺はフル装備になった状態でグラウンドに出たところでベンチの全員を注目させた。横にクロちゃんを立たせて。
「みんな、これはただの試合じゃねえ。ワールドシリーズ最後の試合なんだ。俺たちとロサンゼルス。2つのチームだけが今のメジャーリーグの全てなんだ。
俺がヒットを打ったら腹の中に引っ込んじまった情熱を叩き起こしてくれるかい。俺がアウトになってしまったらその時は全員で諦めよう。俺たちにはワールドチャンピオンの資格がなかったということだ」
俺はそう言い残して、打席に向かい、ライト線ギリギリに会心のテキサスヒットを放ったのだった。
「新井が打ちました!少し詰まりましたが、面白いところに飛んでいる!これは新井ゾーンだ!ライト線フェアー!!まだまだ諦めるわけにはいかない!!8回裏、先頭の新井が出ました!!」
「よしよしよし!ナイスバッティング、すごい技術だ!!」
「マウンド上は今年メジャー最多となる58ホールドポイントを挙げたジェンキンスの、97マイルのインコースシンカーを打ち返していきました!日本が誇る右打ち名人の技がまた炸裂!」
いやー、言ってみるもんですねえ。正直チームメイトに言ったさっきの言葉は、自分に言い聞かせているようなものでして。
得点は平柳君の先頭バッターホームランだけで、そっからはちっとも打てる気配がないのに、相手には確実にチャンスをものにされているという感じでしたから。
まだ3点差。ここから最低でも、ヒットをもう2、3本は重ねないと相手も慌ててはくれない状況ですから、バーンズの役割というのが非常に大きい。
彼も真ん中から膝元に沈むシンカーを打ち返す。コンパクト且つ、力強いスイング。左中間をライナーで割ったと思ったのだが……。
「センターのウォーディンだ!!またスーパープレーだ!今度はバーンズの打球をまた鮮やかなダイビングキャッチで防ぎました!!!信じられません。この試合、3回目か!」
打った瞬間に大歓声が上がり、俺は一気に長駆生還するつもりだったけど、ウォーディンの瞬発力のあるダイビングを見て、思わず足を止めてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます