そう、やはり初球なんです。

ガキッ!!



「真上に上がった!!キャッチャーフライ!!ファーストベンチ前!ロンギーが突っ込む!取りました!捕っています!ナイスファイトでピッチャーを助けます!」



カンッ!!



「打ち取った!しかし微妙な当たりになった!セカンドの前!ザムがベアハンド!!アウトになりました!おおっと!勢い余って1回転2回転!!3アウトです!


ザムも好プレー!キースランドに抱き起こされながらベンチに向かっていきます!大事な9回の守り、3連続ファインプレーで最後にしたい、裏の攻撃に入っていきます!」




「外野陣には負けてられないからな!」



ベンチでそう叫んだのは、今のところ何もしていないサードのヒックスであった。


試合前、いつもと同じようにお気に入りのドローンの整備を欠かさなかった彼のあえてなひと声もしくは悲痛な叫び。


それにより、シャーロットのメンバーはまたワハハ!と盛り上がり、ひとつになった気がした。



だから自然2イニング目に入った相手の守護神に対する恐怖というものが薄れた気がしたのだ。



カンッ!



「打って、バットの根っこですが!?セカンドの上を………越えましたー!!先頭バッター、出塁!ロングフォレストがやりました!アダムスからしぶとくライト前ヒットを放ち、ノーアウト1塁!そして、代走が出ます!」




ロンギーの打球が芝生の上に弾むと、ヘルメットを被って待機していたマクドナルドをヘッドコーチがグラウンドへ解き放った。



ガッツポーズするロンギーとハグした後に、ベースに着き、走塁用の革手のテープをしっかりと止め直す。



代わりにベンチへ帰って来た大家族の大黒柱であるヒゲ男が俺に言う。



「決めろよ、ヒットマシーン!」



そう告げると打席に入る準備をする俺のおケツを叩いた。



なあに。俺が出るまでもなく、平柳君が決めてくれるさ。と、言っている間に、ロンギーはベンチ裏に向かい、水道でバシャバシャと顔を洗っていた。



「スティール!!」



アダムスの唯一と言っていい弱点は、クイックの緩さである。



といいましても、メジャーのピッチャーの中でも、ちょうど平均くらいというレベルではあるが。



球威とか変化球のキレとかコントロールやフィールディングもいいですから、それを挙げるしかないレベル。



そこに挑んでいったのは、マクドナルド。今シーズンはオールラウンドに守れる男。


且つ、最終盤では代走の切り札という立ち位置ですのでね。


出番は限られてしまっていますが、走塁面に置いては、平柳君やザム君を凌ぐ技術の高さがある。



チームでも数少ないグリーンライトが許されているその男がスタートを切る。



幸運だったのは、ロサンゼルスはレギュラーキャッチャーが交代していたこと。代わりのキャッチャーも激ウマだが、ワールドシリーズ初プレイ。



100点満点の送球とはならなかった。





「セイーフ!!」



「イエス!!」



とはいえ、まあまあ際どいタイミングだった。ヘッドスライディングでセーフをもぎ取ったマクドナルドが、何度もベースを叩く。



1点取ればサヨナラ。ノーアウト2塁、9番バッター。こうなればメジャーでもバントするシチュエーションだ。



セーフティ気味でも面白いが、ザムは最初から構えた。そう簡単にやらせないと、インハイに100マイルが来る。顔を背けるようにしながらも、しっかり残したバットにボールが当たった。



ゴンッ!!



鈍い音がしてサード側に転がる。一瞬ピッチャーのアダムスが捕りにいったがさすがに無理。



サードのパーシブが前に出て捕球。すぐさま1塁に送り、バント成功となった。



スタンドのファンからザム君に向かって大拍手。チームメイト達にも称えられながらザム君が笑顔で俺のおケツをわざわざ叩いてからベンチに飛び込んでいった。



1アウト3塁。



平柳君が打席に入ると、ロサンゼルス守備陣はもちろん前進守備。



内野も外野も。



キャッチャーはとにかく低めに、低めにーとジェスチャーしながら、初球にインハイを投げさせるというイヤな奴。



しかもハーフスイングを取られてしまった。



2球目は真ん中低めの落ちるボール。ちょうどベース板で弾むいいところだったが、平柳君はなんとかこれを見極めた。




3球目。真ん中から膝元に入って来るスライダー。待ってましたとばかりに、平柳が思い切り、引っ張りに掛かる。



カキィ!!



快音響き、打球這う。



しかしそのボールを飛び付いたセカンドのパーカーのグラブに入ってしまった。



立ち上がってバックホームする。



突っ込んだマクドナルドがホームまで5メートルほどのところで止まった。



マスクを外したキャッチャーがボールを右手で握りながら追いかける。



マクドナルドはその様子を伺いつつ、半身の体勢になってゆっくりと下がっていく。

ボールがサードに送られると、ちょっとスピードを上げてホーム方向へ走りながら、平柳君に回って来いと腕を振った。



平柳君はそれを信じて一気に2塁も回って来る。



足の速さを生かして粘るマクドナルド。平柳君が3塁まで到達するのを確認すると、最後はホーム方向にチャレンジしてタッチアウトとなった。



なるほど、2アウト3塁ですか。



わたくし次第ですか。



すれ違い際、左おケツをぷるんと撫でられた俺が打席に向かうとシャーロットのお客さんの多くが立ち上がっていた。


俺の登場曲に合わせて手拍子が鳴る。


自然と高まる集中力のおかげで、ピッチャーまでの空間が非常に澄みきって見えた。


そんな中での初球。真ん中高めの100マイルにバットをぶつけにいったが差し込まれ気味になった。




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