やつら、ちんちんデカいくせにすぐ緊張しよるからよ。

「ポストシーズンは、ボストンとの初戦に勝ち、ニューヨークとの第1戦は援護がありませんでしたが、リーグチャンピオンを決める試合では7回零封でした。この時期に来ても疲れを見せずに安定していますので楽しみですよ。


ロサンゼルス打線のポイントは1、2、4番です。ここに打たせてしまうと一気にチームが乗ってきますから、慎重な攻めが必要になりますね」






いよいよ試合が始まる。オープニングピッチとして、シャーロット出身のハリウッド女優様が現れ、アウトローへ完璧な投球を見せた。



「新井さん、あと1つですよ!優勝したら、また餃子パーティーですね!」



「また餃子かよ。ステーキが食いたいよ、ステーキをよ!それかスシ!」



ステーキなら、あそこの店が美味いぜ!と、バーンズに教えられながら2人におケツを押されて、俺はグラウンドに飛び出した。



いつものように、グラブいっぱいにサインボールやらお人形やらをパンパンに詰め込んで、ブルーのユニフォームや帽子を被ったロサンゼルスファンの幼女を探していく。



そんなんしている間に、先発のウェブもマウンドに上がって、投球練習を始めていた。



シャーロットファンは体験したことのない、ワールドシリーズの舞台。その緊張を少しでもなんとかしたいという気持ちから、まだ最初の守りなのに、スタンドからの手拍子が鳴り止まなかった。




「さあ、ワールドシリーズ第1戦。今年のメジャーリーグのファイナルが始まります。チームの命運を託されましたウェブ。心なしかいつもより緊張した面持ちでありまして、これから第1球というところです。


ロサンゼルス、1番バッターのウォーディンが打席に入りました。打率3割4分1厘。イーストアメリカンリーグの最多安打、首位打者のタイトルを獲得しました、アメリカ代表です。大原さん、やっぱりこのバッターですね、注意が必要なのは」



「ええ。今年のロサンゼルスの打線を牽引してきたのは、やはりこのバッターですからね。特に6月辺りまでは新井を上回る打率を記録していたくらいでしたからね」



雰囲気のある右バッターが打席に入る。真っ黒なリストバンドを両腕に巻いて、バットを構えた。



初球。



低めに構えていたロンギーのバットが上に跳ね上がる。



ツーシームが高めに抜け、2球目もインサイドに外れた。2ボールでさらにまた同じ球種は難しい。3球目は外へのスライダー。



いいところに決まったように見えたがボール判定。



1球真ん中低めでストライクが取れたが、次のツーシームも外れていきなりフォアボールを与えてしまったのだった。




2番はショートのムーア。



40本のホームランを放った強打者である。



そのバッターに対しても、微妙にずれたコントロール。また3ボールになってしまった。






3ボールになっても、おいそれと甘いところでストライクを取れるような雰囲気じゃないのはひしひしと感じていますから、ロンギーの構えはアウトコース低めであった。



しかし、ピッチャー心理としてはどうしてもそこから甘いところにコントロールしてしまう。



もはや真ん中高めだった。



カアァンッ!!



バッターは待っていましたのフルスイング。


打球は真上に上がった。


その場でマスクを外し、上を見上げたロンギーが走り出す。


若干風に流された打球を追って3塁ベンチ方面。


ちょうどネクストの輪っかがある辺りで足を止め。


ポロン。





落とした。




スタンドからは悲鳴にも似たどよめき。バッターとしてはラッキーな打ち直しとなり、今度こそアウトローギリギリだったが、上手く打ち返された。



それでもセンターの右。右中間の真ん中だったが、いいポジショニングをしていたバーンズがランニングキャッチの体勢。





……ポロン。



落とした。ナチュラルに。



すぐさま拾って2塁に送球するも、ウォーディンが滑り込んでセーフ。センターのバーンズにエラーが記録されてしまった。



3番アルサンディ。1ー1からの3球目を詰まらせてセカンド正面のダブルプレーコース。



ザム君が素早く打球をグラブに収めたところで………。



ポロン。





当て捕りして少しでも早く平柳君にボールを渡したかったところで、こぼれた。さらにそれを空中で掴もうとした右手でさらに弾き、どこにも送球出来ず。



またエラーで満塁になってしまった。



「んー、どうしましたか。ダブルプレーを焦ったのか、セカンドのザムがこの打球を処理出来ませんでした」



「緩い打球でしたから、ダブルプレーになったかは微妙でしたけど、とりあえず何処でもいいからアウトを1つ取ってあげないといけないですよねえ」



「ノーアウト満塁となりまして、打席には4番のマーチン、指名打者です。非常に勝負強いバッター。ロングフォレストはインサイドに構える。……引っ張っていった!レフトへ痛烈な打球!!」



俺に向かって、パワフルな4番バッターが放った打球が飛んでくる。



これは無理か。無理せずにワンバウンド処理もやむ無しかと思いましたけど、低い打球がグイーンと伸びてきまして………。



ズザサーッ!



バシッ!!



ドンピシャダイビングも発動してしまい、グラブに打球が収まってしまったのだ。



そして、軽やかに立ち上がりながらの中で、3塁ランナーがホームへスタートを切ったのが見えた。



ナメるなよ!



俺はそんな意地を張り、2塁へと投げたのだった。

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