第8話
「セレナ・グリフィス。共に学院長室へ来ていただけますか?」
「わ、私ですか?」
私は精一杯子供っぽさを出して返事をしたが、それを見たシャノンは苦笑いを浮かべて先に教室へ戻った。
「あなたと言葉を交わすのは、確か入学式以来かしらね」
「そうですね……生徒会長」
「その呼び方はやめてください。生徒会長はあくまで肩書きですから」
「すみません。フィリス……先輩」
私は二人の後ろを歩き、学院長室へ入った。
フィリス・トルーマン。かつて私が背中を任せたリディア・トルーマンの子孫だろう。
リディアの魔力波動と似たものを持つ彼女に、私は懐かしさを覚えていた。
学院長であるオーガスタス・ヘイウッドが威厳のある髭を撫でながら口を開いた。
「先程、王宮騎士から報告を受けている。君が賊を始末したそうだな」
私はまずい事をしたのかと思い、口篭って目を逸らした。が、フィリスはその様子を見て笑みを浮かべながら「別に、君を責めようという訳ではないよ」と言い、私は安堵の溜息を吐いていた。
「そうです。姫殿下をお助けする為に学院の規約を破り、攻撃魔法を行使しました」
「うむ、なるほど。だが、命を奪ったのは何故かな」
「そ、それは……」
「君はしばしば、魔法の研究に精を出していましたね。例えば、自分で開発した魔法を試したいという好奇心からでは?」
フィリスは冷たい視線で私をそう言い正すが、私は動じずに真っ直ぐフィリスを見つめ、鼻で軽く笑った。
「お二人が何を問い正したいのか、私にはわかりません。が、何か罪に問いたいのであればご自由に」
「先程も生徒会長が言ったであろう。責めるつもりはないと……ただ、報告を求めているのだ」
学院長がそう言うと、フィリスは溜息を吐いた。
「全く、学院長は言葉足らずが趣味なところがありますから。要するに、今回は何事も不問に処するが、内容の報告は欲しい、ということです」
「なるほど。では、質問に対して誠実にお答えすることにします。まずあれは、基本的な自分の運動能力を高める魔法です。そして、敵の持っていた短剣に魔力の刃を纏わせて刃渡りも延伸させてからは単純な剣技ですよ」
「剣技? あなた、そんな経験あったんですか?」
「まあ、昔に多少は」
私はそうはぐらかすと、怪しむフィリスに対して目を逸らした。
学院長は椅子に腰掛けシケモクを咥えていた。
「賊から姫様を救い出したのは確かな功績だ。だが、学院の生徒である前提を踏まえれば一発退学ものだな」
学院長がそう言うと、フィリスは眉間に皺を寄せながら溜息を吐き「だから処分はなしという話でしょ」と呆れていた。
「しかし……セレナ君と言ったかね。君、雰囲気変わったのではないか?」
「雰囲気、ですか?」
「一応、学院長だからね。生徒のことは把握してるつもりだ。以前と今、雰囲気が違うと思うのだが、何かあったかね」
「記憶が戻った……というか、自分が何者かというのがわかったというか……」
「記憶ですか。その記憶とは、失っていたものなのですか?」
フィリスは私にそう訊ねた。
私は包み隠さず、前世の記憶ということを真面目な顔で伝えると、二人はぽかんとした様子で、凡そ信じてはいない様子だった。
「前世……ですか。前世では魔法を扱っていたのですか?」
「まあ一応、魔法は使ってたみたいです」
私はそう言うと、完全に二人から目を逸らした。
「丁度いい機会かもしれませんね。こういうのはどうでしょう。模擬戦をして、私に勝てれば退学は無しというのは」
「フィリス君、それはあまりにも酷ではないか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!さっき、処分は無しって言ってませんでしたか?」
「そこの裁量はこちらに一任されてますから。ですよね、学院長?」
フィリスがそう訊ねると、学院長は頷いていた。
それを見て私は戸惑うと、フィリスは軽く笑い「私に勝てばいいだけじゃない」と簡単に言ってくれた。
「確か、あなたは学年ランク二位でしたね。トップはアイリス様ですか……もしかして、気を使っておられるのではないですか? 学院に入れたきっかけをくれた方でもありますし」
「さあどうでしょうか……単純に力の差かもしれませんし……」
「はぐらかすのですね。なら尚更、学院トップの私と、全力で勝負をしてみませんか?」
私は少し悩んだ後、承諾し模擬戦場へ向かった。
なぜか聞き耳を立てていた誰かが、話を広めたらしく、模擬戦場の観客席はすでに埋め尽くされていた。
学院最強の生徒会長と、アイリスに認められた存在である私。学院内でも知られた存在である二人が戦うことがまず珍しい。
「それでは、合図をお願いします」
フィリスがそう言うと、その役を担ってる生徒会副会長が光の玉を投げた。その玉が弾けると始まりの合図。先に仕掛けたのはフィリスの方だった。
得意の体術を仕掛けてきたが、私はそれをいとも簡単に防ぐ。
「今のを受けるとは……やるわね」
「まあ……」
私は攻撃を仕掛けようとしたが、加減をしなければと小さい魔力玉で攻撃を仕掛けた。
「舐めているんですか? こんな物で、私を負かせると?」
「あ……いや、加減がちょっと」
私はもう一度やり直すと、フィリス丁度いいくらいの魔力玉をぶつけた。
「なるほど……でも、これも加減してますよね?」
「気付くんですね。流石です」
「あなたの全力、見てみたいものですね」
「いいんですか? 死んじゃいますよ」
私は魔力を纏い始め、その大きさでわからせようとした。同じくフィリスも魔力を纏い始めた。
可視化されたそれを見て観客は騒ぎ始める。
バチバチと音を立てながら魔力がぶつかり合う。それはまるでがっぷり四つのようにひしめき合い、膠着していた。
「流石はトルーマン、と言ったところですね」
「家柄で実力は決まりませんよ!」
いや、私にはわかる。やはりフィリスの魔力波長はあの頃の当主であるリディアの波長と似ている。
さらに力を込めた私の魔力が、あっさりとフィリスのものを上回ると、フィリスはそれを受け流してやり過ごした。
「魔力量だけで勝敗は決まりはしませんよ」
「技量って言いたいんですか?」
そう言われた私は、今は失われた魔法を発動してみせた。そうそれは、かつて私が得意としていた決め技と言ってもいいくらいの魔法だ。
「この魔法……あなたは……」
「今は失われし究極魔法です。安心してください、殺しはしません」
私が凄むとフィリスは少し慄いたが、それでも身構えていた。
炎とも氷ともいえないエネルギー体を、私はフィリスにぶつけると、初めはなんとか防御魔法で持ち堪えたが、それも虚しく防御魔法が破られるとそのエネルギーをもろに受け、フィリスはその場に倒れ込んだ。
「そ、そこまで!」
審判を務める副会長が号令を出し、保健班がフィリスに駆け寄るが負傷の具合に狼狽えていたので、私はその人垣を押し退けてフィリスを治療した。
「流石に加減はしましたよ。これ以上は命を奪うことになりますからね」
「普通なら治しきれない程のダメージを負わせておいて、よく言いますね」
「これも込みで言いましたから」
「そうですか……」
フィリスは意味深な表情を浮かべて、模擬戦場を出て行った。
「セレナ!」
シャノンがそう言ってアイリスと二人で駆け寄ってくると、嬉しそうに肩を組んできた。
「びっくりしたぞ最後のやつ。なんて魔法なんだ?」
「私のオリジナルです。久しぶりだったので成功してよかったです」
アイリスはなぜかシャノンの影に隠れ、私から距離を取っていた。私はそれを不思議に思い、アイリスを捕まえようとするが、逃げられてしまった。
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