第39話 黒命流のおもてなし/あとがき

 家に帰ると、後ろから申し訳なさそうな顔をする黒子がついてきていた。


「黒子、いつからついてきていたんだ?」

「……龍仁様が機関を出て、工房へ向かっている頃からです」

 その言葉に俺より隣にいた雪乃が驚く。

 

「!もしかして全部見られていたのでしょうか?」

「……申し訳ありません」

「ごめんなさいね、紫乃さん。私の指示だから黒子を責めないであげてね」

「母さん……」

「あなたが青砥の娘と大事を起こしそうになってすぐだったからね。これくらいはさせてもらうわ」

 それを言われると何も言えなかった。


「まあ、玄関で話し込むこともないわ。さあどうぞ紫乃さんいえ、雪乃さん?」

「っ!は、はいっ!お邪魔します!」


 昨日は出払っていた使用人たちが勢ぞろいで迎えてくれる。

「おかえりなさいませ!」

 

 ……なんだこれ。

 こんなに勢ぞろいして迎えられたことなんて、今まで一度もなかったのに。

 両側に並ぶ使用人たちの一番奥で花凛が待っていた。


「二人ともおかえり」


 来客用に作られたと思われる、普段は全く使われていない宴会場のような部屋のテーブルの一つに見たこともないくらい豪勢な料理が並んでいた。

「黒命流の最高のおもてなしよ。さあいただきましょう」

 母さんに言われても、まるで自分の家ではないようなこの空間に俺は違和感が止まらなかった。

 だが花凛を見ると、すんなりと受け入れている。


 まあ、でも悪いことじゃないし、いいか。


 食事の席では雪乃の眼と雪乃が視てしまった俺のアストラル体に記録された魔法についての話になっていた。


「そう、雪乃ちゃんに魔眼が……ねえ。それにアストラル体の記録を読み取る力なんて」

 母さんが困った顔をしている。

 それもそのはず、いきなり俺が赤の魔法を使えることがばれてしまったのだから。

「あの、私……誰にも言いません!」

「ええ、そこは疑ってないのよ?でも、問題はその魔眼の力」


 その通りだ。

 アストラル体を読み取る魔眼が存在する。それ自体が問題なのだ。

 確かに雪乃は固有魔法の性質上、ほかの魔法使い以上にアストラル体に関わりが深いことが関係していないとは言い切れないが……。

 俺や花凛、母さんの魔眼の種類が似ているように、雪乃の魔眼に似た能力を持つ魔眼の所有者がいたっておかしくないのだ。


「早急にアストラル体の記録を隠す何かが必要だ。魔法でも……魔具でも」

「そうね。……唯香ちゃんに相談かしら」

 花凛が露骨にいやそうな顔をする。

「ほら、花凛。そんな顔しないの。お兄ちゃんと結婚するんでしょ?」

「そうでした!唯香さんなんていくらでも来い!ですね」

「……あの、唯香さんとは?どなたなのでしょうか?」

「ああ、そっちは知らないのだったわね」


 唯香さん、鑑唯香かがみ ゆいかという女性は魔具の研究においてでも大きな成果を上げている人物である。

 彼女が普段かけているメガネがまさにその成果であり、魔獣の種類を識別する鑑定ファイリングという魔法を使えるようになっている。

 色々な動物が混ざって異形の獣と化しており、その特徴が分かり辛く苦戦を強いられることが多々ある魔獣との戦いだったが、この魔具の開発によって魔獣との戦闘がかなり楽になったと言われている。

 実際に未開域開発特殊部隊に入隊してからその力は大いに役立っていた。

 この前の顔が肉食哺乳類で翼まで生えた魔獣だって、唯香さんが蛇型と言っていた通り、熱感知で俺たちの居場所を把握していた。


 ただこの魔具は複製には成功していない。

 つまり唯香さんは魔具に関しての第一人者、魔法界において最重要人物の扱いでもあるのだ。

 母さんがそんな唯香さんに相談が必要と考えるほどの事態……。

 

 ……。

 

「なるほど。つまり唯香さんは私たちのライバルということですね?花凛ちゃん!」

「そういうことだよ!雪乃ちゃん!」

「なるほどねえ、これは花凛と仲良くなるわけね……」


 俺が考え事をしているうちに何だか女性陣は盛り上がっている。


 エレンのこともある。

 近いうちに唯香さんとは話しておいた方がよさそうだ。

 俺の力も含めて。



 ――――――――――――――――――


 それからも騒がしく楽しく過ごした後、ふと頭から抜け落ちていたことが浮かび上がる。

「母さん、親父は?」

「あぁ、龍正なら昨日からどうも泊まり込みみたいよ。全然連絡もよこさないし……」

 親父の話をすると珍しく母さんが全面に不機嫌さを出していた。

 それより、親父が母さんに連絡をしていないなんて……何かあったのだろうか。

 ……。

 昨晩の思考が頭をよぎる。

 ――日本未開域のコアが想定より多く、それが破壊されたのだとしたら――


 胸中に燻る厄介ごとの火種をもみ消すように思考を切り替える。

 母さんにも連絡していないということは俺が連絡しても、返ってくる可能性は低いだろう。


「まあ、あんな女の扱いがいつまでもわからない男の話はいいわ。花凛、雪乃ちゃんお風呂に行ってきなさい」

「はーい」

「私、泊まらせていただいていいのですか!?」

「ええ、もちろん。服がないなら花凛のものを着ればいいわ。サイズは……多分大丈夫でしょう」

「それでは、お言葉に甘えて。お先にお風呂いただきますね龍仁さん」

「ああ、ゆっくりしてきなよ」

「えーお兄ちゃん一緒に入らないの?」

「こら、花凛!調子に乗らないの!そういうのは二人きりの時にしてもらいなさい!」

「はぁーい」


 普段なら、俺も何か言っていただろうこの状況。

 だが、そんなやり取りも聞こえないくらいの危機感が迫っているような気がしていた。




 ――――――――――――――――――――――――————————————

 あとがき


 いつもお世話になっております。嵐山田です。

 ここまでで一章、龍仁に男としての責任を背負わせるパートは一旦終わりとなります。


 夏葉、花凛、雪乃が主となって、ファンタジー2:ラブコメ8くらいの展開で進んできた本章でしたがどうだったでしょうか?

 私としてはもう少し星を活躍させてあげたかったのですが……。

 少しでも面白かったと思っていただけていれば幸いです。


 次回からは対抗戦や未開域、魔獣やコアなどと戦闘ベースのお話になっていく予定です。(ラブコメ展開は私の性質上必ず入って来るとは思いますが……)

 

 本当にここまでお付き合いくださりありがとうございます!


 少し予告のようなことをして、あとがきを終えたいと思います。

 

 『本章最後の龍仁が感じていた危機感とは……!』

 『エレンの首下で光る怪しい光の正体は!?』

 

 ぜひ、お楽しみに!


 P.S.

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