第31話 責任の重さ
家族3人で話し合ったあと、久しぶりの実家の自室で俺は最近のことを思い出していた。
まだ高等部が始まって数日だというのに何かと変化の大きい日々だった。
変化というよりかは高等部生に上がったことで社会的に責任のある大人として、見られ始めたということが大きいのだろうか。
ベッドの上で天井を見ながら、表現の難しい環境の変化を改めて客観的に見つめなおす。
星や夏葉、花凛、雪乃など俺を慕ってくれる彼女たちの気持ち。
今までだってわかっていたはずだが、結婚するというのは想像以上に難しい。
結婚どころか男女交際の経験もないほとんどない俺からすればいったいどんなものなのかという程で……地に足をつけた考え方ができているとも思えなかった。
「これは確かに、重婚が認められても実際に重婚する人が増えないわけだ」
うまくまとまらない思考の渦を振り払うようにそう呟く。
ふと、ベッドランプの下に置いた端末に目が留まる。
そういえば花凛を迎えに行ってから全く確認していなかった。
何件か届いていたメッセージに目を通していると、普段あまりメッセージを送ってこない相手からの連絡が入っていた。
「龍兄、どこかで少し時間をもらえないかな?」
夏帆からのメッセージだった。
そう言えば、お詫びで何か欲しいものがあったら連絡してくれとは言っていたが、メッセージで伝えてくるのはこれが初めてだ。
夏帆は俺のことを龍兄と呼んでくれるくらいには慕ってくれているが、個人的に何かするということは、姉や花凛に遠慮してなのか今までほとんどなかった。
今までも何度かこのお詫びという機会はあったが、その時も夏葉や花凛を通じて伝えてきたり、何かの機会で会ったときに言ってきたりというようなものでメッセージを使ってくるのは初めてだった。
「特別な用がない日ならいつでも開けるから、都合のいい日教えて」
色々疑問に思う点はあったが、今は考えず普通に返信した。
俺が送信すると返事はすぐに返って来た。
「直接会うのは色々あれだから、今通話していい?」
やはり遠慮しているのだろう。
だが本人が通話でいいと言うなら勿論構わない。
「いいよ」
そう送るとすぐに端末が振動する。
夏帆が通話をかけてきたようだ。
「もしもし龍兄?」
「夏帆、どうしたんだ?」
「今、近くに花凛いる?」
「あまり聞かれたくない感じ?」
「……うん」
それを聞いた俺は眼で花凛の様子を確認する。
さっきヒートアップしすぎて疲れたのか、久しぶりの実家で安心できたのか、今はぐっすり眠っているようだ。
「隣の部屋にいるけど、寝てるから大丈夫だよ」
「そっか、それなら大丈夫かな」
「それで内容はお詫びの件?」
俺がそう問うとなんだか申し訳なさそうな雰囲気が伝わってくる。
「そう。そのことなんだけど……」
夏帆がここまで言いよどむのは珍しい。
「……その、だ、誰にもバレないように……一日だけ龍兄の時間を……もらえないかな」
何度も噛みながらも、夏帆はそう言い切った。
正直な話、全く予想外の展開だった。
いつもなら魔法を教えてほしいとか、夏帆が考えた魔法を試してみてほしいというように魔法関係の話ばかりで今日のようにまるでデートに誘うようなことは初めてだった。
まだ確定ということではないだろうが断る理由はない。
だが――――――
「もちろん構わないんだが……」
俺は花凛と自分の眼のことを夏帆に教えることにした。
………………。
「なるほどね。それで普段から突然怒ったり、機嫌悪くなったりしてたんだ」
花凛……やっぱり乱用してるんだな……。
「それじゃあ、誰にもバレないようにっていうのは……無理かな?」
これに関しては完全に花凛の裁量にかかっているため、俺にはどうすることもできない。
「花凛にはなるべく眼を使うのは控えるように言ってるけど……」
「まあ、無理だよね。花凛だし」
スッと諦めたように言う夏帆。
「じゃあ、龍兄。さっきの話もう少し待ってもらっていい?」
「俺は構わないけど」
「私、今度花凛と直接話してみる」
「だから、待っててね龍兄。遅い時間にごめんね、おやすみ」
最初のこちらを窺うような雰囲気は見る影もなく、楽し気に言い残し、あっさり通話は終わった。
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