第27話 ケジメ
放課後、俺は生徒会の仕事を早々に引き上げ中等部のある第二館へ向かっていた。
「さて、どうやって花凛の機嫌を取ったものか……」
俺は移動中ずっとそのことについて考えていた。
今回はことが事だけに骨が折れそうだ。
とはいえ原因は俺なのだから、骨を折るくらいで機嫌がよくなるのなら喜んで折ってやろう。
あれやこれやと考えているうちに第二館へと到着してしまった。
とりあえず花凛に到着の連絡でもするか……。
そう思って端末を取り出そうとして、ふと外を見たときよく知った顔が二人で近づいていた。
俺は端末を取り出すのを止め、車の外に出る。
「お迎えありがとうございます。お兄様」
「龍兄久しぶり」
花凛、また視ていたな。
今日はもういいが今後はもう少し眼について詳しく話す必要がありそうだ。
「ああ、花凛待たせたな。夏帆久しぶり。昨日は迷惑をかけたようですまなかったな」
夏葉は昨日家にではなくこの夏帆に連絡をしたと言っていた。
昔から何でもそつなくこなす夏帆は今回のように時々、姉の無茶の尻拭いをさせられている。
「ほんとだよ。お姉ちゃんが突然今日帰れなくなった、なんて言ってくるんだもん」
「それはほんとに悪かったな。今度お詫びをさせてくれ」
「ほんとに大変だったんだから、お詫びには期待してるね」
これは期待に応えられるようにまた考えなくてはな。
「お兄様、また私は後回しですか?」
俺が夏帆と話していると、その横で放っておかれた花凛が朝のように魔法力を溢れさせながらそう詰めてくる。
「違うぞ花凛。こういう用事は早く済ませておくべきだろう?さぁ、立ち話もなんだし乗ってくれ。夏帆も乗っていくか?送るぞ。」
せっかく二人で待っていてくれたのだから、夏帆を置いて二人で帰るのもどうかと思いそう誘う。
また少し不服そうな表情をした花凛だったが、俺の提案に文句を言うような態度ではなかった。
「私は嬉しいけど、いいの花凛?」
夏帆は少し気まずそうに花凛に確認をする。
「私だってそこまで独占欲を発揮するつもりはないわよ。一緒に帰りましょう?」
「そっか、ありがと」
全く関係はないが姉の行動に責任を感じていたのか、そこでようやくいつもの夏帆に戻ったような気がした。
それから俺は二人を魔装車の後部座席に乗せ、まず青砥家に向かった。
花凛が隣に座りたいと言ってくるかと思ったが、先ほどの発言もあってかすんなり後部座席に座ってくれたのは予想外だった。
「龍兄、この辺でいいよ」
青砥家まであと少しといったところで夏帆がそういう。
「ん?いいのか?全然家の前まで送っていくぞ」
「そうよ夏帆、私に気を使ってくれるというならもちろん嬉しいけど大丈夫よ」
俺と花凛がそういうも夏帆は首を横に振った。
「そうじゃないの。なんとなくだけどお母さんと鉢合わせしそうだから。龍兄、今うちのお母さんと顔を合わせるの気まずいでしょ?いくら私がごまかしたとはいえ、お母さんが気が付いていないはずはないから」
夏帆が言うのならきっと本当に何かあるのだろう。さすがは気遣いの鬼夏葉の妹だ。
「そういうことか。気を遣ってもらって悪いな」
そう言って俺はちょうどいいところで車を止めた。
「じゃあな夏帆。昨日のことは本当に助かった。お詫びで何か欲しい物とかあったら連絡してくれある程度なら何でもいいぞ」
「わかった考えておくね。じゃあ龍兄、花凛ありがとうね。ごゆっくり~」
そう言い残して夏帆は家まであと少しの距離を早足で帰っていった。
いつの間にか花凛は俺の横の席に移っていた。
「花凛、いくら何でもこの距離で瞬間移動はやりすぎだろう」
俺は呆れ気味にそう言う。
夏帆を見送った後、車のドアが開いた音はしなかった。夏帆を降ろしたときは花凛はまだ後部座席にいたのだからこの現状を説明するには上位魔法、瞬間移動以外に考えられなかった。
「一瞬でも早くお兄ちゃんの横に居たかったんだもん」
失敗したら車ごと吹き飛びかねなかったんだが……まあ花凛が魔法を失敗するなんて考えられないのは確かではあるのだが。
はぁ、俺は内心でため息をつくも、兄としては妹に好かれているということにいやな気分はしない。
「さて花凛、何かしたいことはあるか?」
花凛の機嫌を取るためにいろいろと考えていた俺だが、結局本人に聞くことにした。
花凛は少し考えると表情を引き締めこう言った。
「じゃあ、家に帰りたい」
「家にか?家で何かしたいことがあるのか?」
予想外の答えに若干驚き、そう聞き返した。
「うん。でも帰るのは私たちの家じゃなくて、黒命家本邸ね」
「え、実家の方?」
「そう、実家。お兄ちゃんが結婚しそうってお母様に伝えなきゃ」
「おいおい」
思わず失笑してしまう。
「他にもやりたいことはあるしね」
「そうか。まあ花凛が行きたいなら俺は構わないさ」
そう言って俺と花凛は久しぶりに帰省することとなった。
帰省中の車内では予想に反して花凛が甘えてくることはなかった。
ついさっき瞬間移動まで使って、俺の横に来ていたから意外なだった。
いったいどうして突然帰省したいなんて言い出したのか。
俺の眼を使えばすぐにわかることだが、こういう時に眼の力に頼るほど俺は落ちぶれてはいない。眼に頼ってばかりでは何かがあって使えなくなったときに無能になりかねないからな。
花凛が構ってくることもなかったので、俺は実家までの道中花凛のやりたいこととは何なのか考えるのだった。
あれやこれやと考えて居たところふいに花凛が話しかけてくる。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「どうした妹よ」
深刻な話という雰囲気ではなかったので少しふざけて返す。
「黒命の掟・当主について」
「世代で最も強い者が次代の当主となる。だろ?それがどうしたんだ」
黒命の掟とは黒命家の初代当主であり、黒の魔法「崩壊」の創造主である黒命龍義が作った黒命に連なる者へのルールである。
煽られたら煽り返すなどと言った一見ふざけているようなものも多いが、常に最強であることを是とする黒命家としては意外と大切にされているものである。
黒命家に生まれたものは真っ先に教えられるものであり、こうして突然言われても反応できるくらいには体に染みついている。
「これからそれを決めようと思って」
突然何を言い出したかと思えば、そのことだったか。
それについては今の生活を始める前に、親父に俺を当主にすると言われていたのだが……。
しかしこの状況でそんな野暮なことを言うほど察しは悪くない。
きっとこれは花凛なりのケジメなのだろう。
「俺と戦うのか?」
俺がそう聞くと花凛は少しうつむき黙ってしまう。
少し意地悪な質問だったかなと反省した。
「正直、あまり戦いたくはないです。勝算も全くと言っていいほど立ちませんし」
俺の意地の悪い質問に花凛が少し他人行儀な話し方をする。
「それでも……」
「まぁそうだな。俺たちの将来にも関わることだし、はっきりさせておくのも大事かもな」
「……そういうことです」
「でも」
「でも?」
話し切ったという表情をしていた花凛が不思議そうに聞き返す。
「俺が勝とうが花凛が勝とうがきっと、俺たちの将来はそう変わらないさ」
これは俺の心からの本音だった。
少々クサいことを言った自覚はあったが、横目に見た花凛が嬉しそうにしていたから恰好つけた甲斐はあったようだった。
そこからは何気ない会話をしながら、俺は実家に向けて車を走らせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます