第12話 あっけない結末

 予想通り、対戦はあっという間だった。


 対戦開始と同時に雪乃の紫の固有魔法「纏霊てんれい」によって3年生2人が意識を刈り取られ、星は汎用魔法のみで残りの2人をねじ伏せた。

 俺としては当然の結果だったが花園先輩は相当に驚いていたようで、「これは一体……」と言葉をなくしていた。


 終わってすぐに少し離れたところで見ていた俺の下へ星と雪乃がやって来た。

「二人ともお疲れ様、いい魔法だったね」

「いえ、私なんて龍仁さんに比べたらまだまだです」

「龍仁様に褒めていただけるなら、この戦いにも意味はありましたね」

「あはは、それにしても雪乃また腕を上げたな。二人同時にアストラル体に干渉して意識を刈り取るなんて、驚いたぞ」


 魔法を使うには精神力が重要となる。

 そして魔法を訓練している者の脳にはアストラル体と呼ばれる魔法発動専用の機能を持った機関が作られるのだ。

 このアストラル体はまだまだ謎が多いが精神の具現化であると言われており、精神体と呼ばれることもある。

 紫の固有魔法はこのアストラル体に直接干渉できる日本で確認されている限り唯一の魔法であり、対魔法使いに関しては対策をしていなければ最強であると言われている。しかしその扱いは非常に難しく、雪乃も最近までは使いこなすことができなかった。


「そんな!今日は最高な日です。魔法訓練頑張ってきてよかったです」

「雪乃は大げさだな。また一緒に訓練しようか」

「本当ですか!?ぜひ!!」

 いつになく饒舌な雪乃を傍目に銀世のお嬢様が明らかに不機嫌そうな目でこちらを見ている。


「星もよかったぞ。さすがの制御力だったな」

「龍仁様に褒めていただけるなら、私も世界を使うべきでした」

「星の魔法は特殊だからな、しかも危険が伴う。無理して使うようなことはしないでくれよ。心配だから」

「はうっ。心配ですか、そうですか、それならば仕方ありませんね」

 先ほどとは一変し嬉しい半分、恥ずかしい半分と言ったような表情をしている。

 この二人は夏葉と違って機嫌が取りやすいな。


 俺はそんなことを考えながら二人と対戦を振り返っていると先ほどまで空気となっていた花園先輩が声をかけてきた。

「はぁ、ほんとに規格外ですわね」

「でしょう?ウォーゲームも二人がいれば大丈夫でしょう」

「そうですわね、私の立場が……」

「いえ、先輩はあの状況でも三年生に流されず味方に付いてくれたではないですか。二人とも心強かったと思いますよ」

「そうかしら?」

「もちろんですよ。なぁ二人とも?」

「はい、ありがとうございました」

 星が2人を代表してお礼を言うと2人で先輩に頭を下げた。


「そんな、頭を下げてもらうようなことではありませんわ。私は当然のことをしたまでです」

 謙遜しているが先輩は嬉しそうだ。

 なんだかこの先輩、可愛らしく見えてきたな。

「龍仁さん?」

「龍仁様?」

 俺の様子から何かを察したのか、凍てつくような冷気を放ちだした2人。


「はははーどうした二人とも?」

 さてどうしたものか。

「いいところにすまないな、三人ともお疲れ様」

 俺が詰められようとしているところに、1人戦いに加わらず審判をしていた岩戸先輩が会話に加わって来た。

「いやー素晴らしい試合だったよ。三人は代表確定でいいかな?」

 こいつさっきとは全く態度を変えてやがる。


「いいんじゃないですかね。後二人をどうするかですが」

 俺も第三者として岩戸先輩に同意した。

「残り二人なぁ」

「一人は岩戸先輩でいいんじゃないですか?少なくとも実力差は見抜けるということですし」

 俺が挑発気味にそういうと空気が少し変わる。

「これは手厳しい、腕試しのようなことをさせてすまなかったね当代最強くん」

「謝るなら、俺じゃないと思いますけど、まぁいいでしょう」

 煽りには煽り返す。これは黒命の掟だ。

「ふっ、いつか君と対戦してみたいものだ」

「機会があれば俺の方はいつでも」

「それよりどうするんですか?もう一人は」

 これ以上はただの醜い言い争いになりかねないと考えた俺は代表メンバーの話に戻す。

「残りのメンバーはあの四人で話し合ってもらえばいいだろう」

「それより」 

 にやりと嫌な顔で笑う岩戸先輩。

「篠宮には気をつけろよ?いくら最強でも容易にはいかないだろう」

 先輩は去り際にそう耳打ちするとこれで解散と言って、1人で先に帰っていった。

 俺や夏葉の懸念通り、やはりあの会長には何かがあるのか。

 一度しっかり見ておく見ておく必要がありそうだな。


「龍仁様、生徒会に行きましょう!」

「星さん、あなたは生徒会役員ではないでしょう」

 二人のやり取りを見てると懸念事項も吹き飛ばされるような気持ちになるな。

「そうだな、予想以上に時間がかかった。そろそろ行かないと向こうのお姫様も機嫌を悪くしてしまう」

「また、夏葉さんとだけ親密に連絡を取り合ってらっしゃるのですか?」

「別にそういう訳じゃないさ星、今日は遅れるっていう連絡をしておいただけさ」

「では龍仁さん。どうして機嫌が悪くなるのですか?機嫌が悪くなるような話があったということでしょうか?例えばのような」

 雪乃は恐ろしく鋭い。


「いやー……それは」

「夏葉さんならやりそうなことです。そのやり取りはどうやっても私たち以上に親密ですよね?そういえば星さんとも結婚の話をされたとか」

「それは、明様がな。いつもからかってくるんだよ」

 雪乃からの追求は中々止まらない。

「龍仁様、では昨日の考えるというのはやはりその場しのぎ……」

 すると今度は星の話まで飛び火している。

「待てまて星、決してその場しのぎなんかじゃ……」

「では、結婚の話をされたというのは本当なんですね?」

「雪乃今日はとんでもなく饒舌だな」

「話をそらさないでください?龍仁さん。今は大切なお話の時間です」

 饒舌だが決して声の調子は変わらない、だが静かな圧力がある。

「あのーお三方?生徒会はよろしいのでして?」

 またも空気と化していた花園先輩に救われた。

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