第8話 銀世家にて
俺の魔装車は4人乗り仕様だ。
そのため星とまつりがいる今回は運転席に座っていた。
星は最後まで後部座席で隣に座りたがっていたが、セキュリティの関係上魔装車は所有者ではないと運転はできず、自分の魔装車を自動運転にしてまつりだけ助手席に座らせておくのはさすがに悪いと思ったため今回は星を助手席に座らせることで我慢してもらっていた。
「銀世家に行くのはだいぶ久しぶりだな。いきなり押しかけちゃったけど都合は大丈夫だったか?」
「龍仁様がいらっしゃるのですから、明様にも文句は言わせません」
冗談に聞こえるが顔が本気だ。
星は普段はしっかりしているが俺のことが絡むと大暴走するのでしっかり確認しておきたい。
「まつり、本当に大丈夫か?」
星のボディーガード兼銀世家の執事も任されている橙気家のまつりに確認することにした。
「大丈夫だよ。大奥様も龍仁くんに会いたがってたし」
「そ、そうか」
明様が俺に会いたがってるか……。厄介ごとじゃなければいいのだが。
俺は一抹の不安を覚えながら銀世家に到着した。
銀世家に着くとすぐに執事が出迎えに来た。
「星様、おかえりなさいませ」
「挨拶はいいわ、お客様を連れてきたの。明様には連絡してあるけど、どこに行けばいいかしら?」
「ははっ、こちらです」
俺たちは執事たちに案内され銀世家で最も重要な客をもてなすときに使われる談話室へ通された。
「明様、星様とお客様をお連れいたしました」
「入って」
はっ
そういうと扉があけられる。
「私は外で待ってるね」
まつりがそう言って談話室の外で待とうとする。
「まつりさん、あなたも一緒で構わないわ」
「よろしいのですか?大奥様」
唐突にかけられた声にまつりが頭をさげ、反応する。
「ええ、構いませんよ。特に秘密のお話をするわけではないのだから」
「承知いたしました。同席させていただきます」
「もう、そんなにかしこまらなくてもいいのに」
明がまつりをからかって楽しんでいると星が「おばあ様、お客様を立たせたままは良くないんじゃありませんの?」と少し不機嫌そうに言った。
「あら星、私に意見するなんて珍しいわね。でも、その通りね。龍仁さんどうぞかけて」
ふふっと笑うと俺を手招きする。
「失礼します」
そう言って俺は明様の正面に腰を掛けた。
それに続いて星とまつりが隣に座る。
「それで、お話とは?概要は星にききましたが詳しく教えてください」
「はい。単刀直入に言わせていただきます。星の対抗戦ウォーゲームへの出場を許可していただきたく思います」
「なるほど、その件でしたか」
表情を変えずにそういうと、特に考えるそぶりも見せずすぐに答えが返って来た。
「わかったわ」
「よろしいのですか?」
俺はてっきり否定されるものと思っていたがあっさりと承諾され驚いた。
「いいでしょう、しかし1つ条件があります」
まぁそう簡単にはいかないよな、さてどんな条件を付けられるんだ。
「……なんでしょう?」
一緒に出ろと言われた場合、俺は個人戦に出られなくなってしまう。
その場合雪乃が個人戦に出ることになってしまうだろう。
雪乃の抱える問題からもそれは避けたい。
「星を守ってください」
俺の思考がマイナスなことばかりを考えていると思わぬ方向に話が傾いた。
「それは、私もウォーゲームに出て、ということでしょうか?」
「いいえ、あなたには個人戦があるのでしょう?個人戦に当代最強のあなたが出ないわけにはいかないでしょうし、影から守ってくれるだけで構いません」
今や魔法界ではあなたはスターですからね、とからかいつつ俺にそう告げる。
「もちろんまつりさんもそれで構わないわよね?」
「はっ。私に意見はございませんが1つよろしいでしょうか」
「言ってごらんなさい」
「不肖ながら私もウォーゲームに出場予定なのですが、もし星様と対戦することになった場合、どのようにすればいいでしょう?」
「星を害する気なのかしら?」
先ほどまでの穏やかな表情からは一変して、言葉も鋭くなる。
「いえ、滅相もございません。言い方を間違えました、棄権すべきかという意味でございます」
それにもひるまずまつりは簡潔に意味を述べた。
「その必要はないわ、競技の範囲で真剣に取り組みなさい」
「はっ、承知いたしました」
「今日はそれだけで来たのかしら?」
話が一区切りすると明からそう聞かれる。
「はい、さすがに明様のご了承がなければならないと私が判断いたしました」
俺がそう答える。
「星のことを気にかけてくれるのはうれしいけどこの程度のことは気にしなくてもいいわ」
俺に向けて言っているが、まつりにも言い聞かせているようだった。
「星も今後はそのつもりでいなさい」
「はい。おばあ様」
「それより龍仁さん」
空気が変わった。
何を言われるんだ。
思わず俺は身構えてしまう。
「星のこともらってくれる気になったかしら?」
「はい?」
拍子抜けな発言でおかしな声が出てしまった。
「お、おばあ様!」
星にも予想外の発言だったようで、見たことがないくらいに慌てている。
「星、いつまでも甘えてるだけじゃだめよ?意中の殿方を落とす方法は前にも教えましたよね?」
「そ、その話はまだいいのです」
「龍仁さん、いつでも待っていますよ?女性は待たせてはいけませんからね?」
どうしよう、非常に気まずい。
ここに来る前にあんなことがあった手前、その場限りのやり過ごしもしづらい。
……腹をくくるしかないか。
十色、銀世家当主の圧に負けたわけではないがこの人には独特のやりにくい雰囲気がある。
「明様、その件については様々な問題があるため、私の一存で決めるわけにはまいりません。黒命の次期当主としても、私個人としてもです」
「まあ、そうでしょうね。ですが龍仁さん?魔法使いには重婚が認められていることも忘れないように」
……これにはさすがの俺も言葉に詰まってしまった。
「これは私の意見ではありません。銀世家の意見です。」
俺の慎重な態度にそう言い切って見せた。
確かに魔法使いは数が少なく、魔法使い同士での結婚が推奨されているため重婚が認められている。
しかし最近では名ばかりのものとなり大抵は一夫一妻の家庭がほとんどだ。
「なぜ、私なのでしょうか?」
俺は意を決してそう質問する。
隣で星が悲しそうな表情をしていたがこの話は恋愛感情だけで決められるものではない。
「それはもちろん、あなたの才と家柄が抜群だからです。人柄に問題がないことも分かり切っています」
星が本気で惚れているからというのももちろんありますよ?ついでばかりにそう付け加えた。
「才能にしても家柄にしても金武や赤司、碧音でも問題ないと考えますが」
俺が明様の冗談をまったく無視してそう答えると隣からつかみかかられる。
「龍仁くん?本気で言ってるの?それ以上星を傷付ける発言はいくら龍仁くんでも許さないよ?」
まつりが本気で怒っているところは久しぶりに見た。しかも今は銀世家当主の御前だ。
確かに俺の発言は星のことは全く考えていない発言であるから、怒られても仕方がないのだが。そう思った俺はまつりに全く抵抗しなかった。
しかしそれがさらにまつりを煽ることになってしまった。
「そうなんだ、龍仁くんは星のことなんてどうでもいいんだ?やっぱり龍仁くんもみんなに思わせぶりな態度をとるだけ取って弄ぶクズなんだ」
俺は何も言い返せない。
実際やっていることはその通りだ。
夏葉にしても、星にしても、雪乃にしても、俺は明確な態度をとっていない。
夏葉とは一番仲がいいため、関わることが多いだけで周りから見たら3人の女性をキープするクズ野郎なことに間違いはないだろう。
だからこの批判は受け入れなければならないものだ。
しかし今度は反対側から抗議の声が上がる。
「まつり!それ以上はあなたでも許しません!いくら私のことを思ってとはいえ私の前で龍仁様を侮辱するなど絶対に許さない!」
「星……」
星にそう言われ少し落ち着いたのか、まつりは「ごめん龍仁くん言い過ぎた」と謝った。
「あらあら、若さを感じるわね。これが俗にいう修羅場というやつなのかしら?」
全く意に介さない様子の明がからかい気味にそう言うと部屋の入口で音がした。
その音と共に、突然扉が開き一人の女性が入って来た。
「日織さん?あなたは呼んでいませんよ?」
さっきまで星たちの争いを面白がって聞いていた明が少し嫌そうに声をかける。
「あら、お母様、娘の結婚の話に母が入っても問題ないでしょう?」
銀世日織、星の母でとんでもない策略家だ。
きっと今も会話の流れを見て入ってきてくれたんだろう。
「龍仁君お久しぶりね、会うたびに男前が上がっていくわね」
「日織さんお久しぶりです、日織さんこそいつお会いしてもおきれいです」
日織さんに会うたびにこのやり取りをしている気がする。
「あら、お上手ね。それより……結婚するのかしら?」
「それは……」
「ふふ、冗談よ。まだ15歳だもの、よく考えるといいわ」
俺は感謝を込めて頭を下げる。
「今日はもう遅いし帰りなさい。またゆっくり話しましょう?星、まつりお見送りしてらっしゃい」
「はい、お母さま」
「承知いたしました奥様」
それだけ言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
「はぁ、誰に似てあんな子になってしまったのかしら……」
明がぼやいている。
たぶんあなたです、明様。
「明様、ご許可をありがとうございました。それでは失礼いたします」
そう言って俺は談話室を後にした。
「龍仁様本日はご迷惑をおかけしました」
「龍仁君私も熱くなりすぎちゃってごめんね」
玄関まで二人に送ってもらった後、急にしおらしくなった星とまつりが謝ってくる。
「大丈夫だよ、明様のあれは昔からだしね。それにまつりの言ってたことはその通りだったし、実際ちゃんと考えなきゃと思ってたから考えを改めるいいきっかけになった。逆に感謝しているくらいさ」
俺がそう言うとさっきまでしおらしくしていた星が調子を取り戻した顔で「それは期待しても良いという意味でしょうか」と茶化してくる。
俺は反対に顔を真面目なものに戻して聞いた。
「星は俺でいいのか?」
「もちろんです。龍仁様以外考えられません」
星はそう言い切ると「お時間をありがとうございました。また学校で」と言ってきれいに腰を折った。
それに合わせてまつりも少し頭を下げ、手を振っていた。
俺も軽くそれに返すと、自分の魔装車の方へ向かった。
俺が見えなくなるまで星は俺の方へ頭を下げていた。
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