最終話

「玲奈…!わかる?お母さんよ!」


 目が覚めると私は病院のベッドの上にいた。


 ゆっくりと目を開けると目の前には両親がいた。


 ああ、美澄みすみ玲奈れなに戻ったのか。


「10日間も眠っていたんだぞ。いや、やっぱりうちの娘は強い!」


 そう言って父は笑った。


「玲奈が目覚めて本当によかったわ…。」


 ゆっくりと動かした腕にはがっしりと筋肉が付いているので私は現実を受け入れる。


 この10日間、私は長い夢を見ていたような気がする。まるで、別の人の記憶を見ているかのような…。


 誰かの警護をしていたのだが、結構やっかいな人物で、まあまあイケメンだった記憶がある。しかし、名前や場所などは明確に思い出せなかった。


 忘れてはいけないことな気がするのに。


 私は思わず涙を流した。


 「玲奈…。」


 母も涙を流し、感動の再会なひとときを過ごすのであった。




 「おはよう。」


 久しぶりに学校に行くと、皆が私に駆け寄ってきた。


 「玲奈っ!心配したんだよ!」

 「大丈夫だった?」

 「元気そうでよかった!」


 心配してくれる友達がいるなんて、美澄玲奈もまだまだ捨てたもんじゃない。せっかく助かったのだからまだまだ頑張ろうと思う。


「お前、意識不明から回復って、いつから人間卒業してたんだよ?」


 幼なじみの涼太にいつも通りいじられ、私は「最初から人間じゃないし!」と冗談をとばす。


 平和な日常が戻ってきたのかと思いちょっと感服。何だかんだで幸せじゃん。


 


 いつも通り授業は爆睡して、体育の授業と休み時間は全力で過ごして、私はボーッと思い出した。


 そういえば、この世界に私を異世界に留めてくれた人がいるんだっけ。


 このタイミングで考えれば意味がわかる。私は10日間の夢を見て、10日後に目を覚ました。異世界に転送させられていたんだ。


 私のことを想っている人がいる…?


 そんなことを言われた気がするのだが、ピンとこなかった。



 学校が終わると、私は柔道の稽古があるため急いで帰宅する。


 あれこれ考えながらいつもよりのんびり歩いていたせいで、珍しく電車に乗り遅れそうだ。


 ヤバイヤバイ…!


 私は階段を駆け下りながら、ホームに入ってくる電車を追いかけた。


 その瞬間、前をフラッと飛び出した男性にぶつかった。


 「危ない!」


 私はその男性を庇うようにして階段の下に落下した。


 いや、急に飛び出してくるなよ。もちろん私も悪いが。

 自分は完璧に受け身を取ったので無傷だが、相手の男性は平気だろうか。


 というかこの光景どこかで経験したような…?


「申し訳ありません。お怪我はないでしょうか?」


 私は男性の顔を見る。


 同じ制服。見覚えのある顔…。涼太だった。


 なんだ、お前かよ!


 「ごめん。私、急いでるから!」


 電車の発車ベルが鳴ったので、私は急いで立ち上がる。絶対にこの電車に乗らないといけないの!


 その瞬間、私の腕は涼太に捕まれた。


 そして気が付く。この感触…。もしかして?


 「みーつけた。」


 この悪い笑顔に生意気な声。


 …!


 こうして、私たちの幸せな日々、私にとっては延長戦がはじまった。

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