第79話【動き出す運命】
「真瀬くんの持つ、調停者スキルは星格に使ってはいけません。それは明確に一度で全てが滅びる。運命固有スキルを持つ者の死亡、消滅もまた詰みです。そうですね?
原国さんの言葉に
「その通りです。故にそれを止めに来た、というのもあります。運命固有スキルを持つ者をすべて協力者として集め、異星因子をこれに集めること。それが滅びを回避する唯一の正攻法です」
そういうと
「この石に、星格にある異星因子を集めるには、それに対応する同じ因子を持つ、運命固有スキルを持つ者の力が必要となります。真瀬敬命には『運命の輪』と『審判』、有坂琴音には『女教皇』と『正義』、武藤晴信には『太陽』と『法王』、原国左京には『死』と『吊るされた男』、武藤楓には『隠者』と『魔術師』としての正位置の力があります」
言いながら、彼はそれらを僕たちに差し出した。
受け取れば、スマホに吸い込まれるようにして消えた。
「タロットカード……。カードゲームと占いの概念か。真瀬の坊主のガチャ産アイテムがカードってのもそれに対応しているってことだな」
武藤さんの声に、
「ご明察。デッキの構築をすることで強化することもでき、切り方を誤れば負けるものです。占いもゲームも最終的な判断は人が行い、動くものです。人間がゲーム性を愛するのと同様、我々もそれを愛している。ステータスなどの表示に扱うのが主にスマホなのも、スマホは我々の知る中で最も人類の個人間通信を最適化した物でありながら、ゲームとも相性がよかったためです」
ゲーム的であるのは、人類がゲームを愛するからこそ。
娯楽、遊戯、これも人生になくてはならないものだと星格が判断したということだろうか。
「何からでも学び、変えていくことができるのは、人類の強みであり、弱みでもある。それしてそれは、我々にも言えること」
「その脆弱性は星にもある、ってことだな。因子の集め方は?」
武藤さんが何かを思いついた表情を浮かべたけれど、それには深く触れず、話を促した。
「タロットの名を持つ、大型ダンジョンの攻略。強き悪性で出来上がったそれの踏破。最終層のボスは、必ずタロットに対応する概念の因子を持っています。打ち倒し、回収をして下さい。我々七の美徳は、他の運命固有スキルを持つ人間に同様の話をし、協力を仰いだのち、人々を告解に導きます」
そういうと、
「……最初からその姿で来ればよかったんじゃねえのか?」
武藤さんがちらりと母を見る。涙は止まっているが、らしくないほど呆然としてしまっている、僕の母を。
無理もない。僕は父を覚えていないが、母には父との思い出がたくさんある。
父がこの世界の人間ではなかったことも、世界のことも、情報に頭が追いつかないだろうし、何より、消えてしまった最愛の夫が取り戻せるかもしれないのだ。
「最も攻撃を受けにくい姿を、我々はとるのです。彼女には大変なショックを与えて申し訳ない」
母は驚き、目を見開いてから、悪意があったわけではないことを理解して、ゆっくりと頷いた。
「聖女スキルはレッドゲートが出現した48時後、モンスターの開放と共に自動的に取得されます。それまでに、血の蘇生術と反魂をなるべく多く使ってください。神殿となる人間は、多い方がいい。それと、スマホに我々との通信手段を構築しました」
言われてスマホを見れば、アプリ機能に
「加護を押せば私との通話が可能です。聞きたいことがあれば、話しかけてください。それでは」
そう告げると
「何か、怒涛だな……」
武藤さんが呟く。
いろんなことが起きすぎて、それに対する情報も膨大に浴びた。考えなきゃいけないこともしなくてはいけないことも多い。
「血の蘇生術をたくさん使う、ってことはダンジョンに入らないとですね」
有坂さんが言う。
これだけいろんなことがあっても、僕の好きな女の子は、ブレない。
不安な顔ひとつせずに、やるべきことに焦点をあわせる。
僕も見習わなきゃいけない。彼女を守れるように。
「あ、それダンジョンじゃなくてもできるよ。血の紋が人に刻まれたから、紋持ちの人で協力してくれる人に頼むといい。それと私のスキルの話をしてなかったね。私のスキルはスキルコピー。スキル所持者から許諾を得たスキルを24時間だけ使えるスキルだから、琴音ちゃんの血の蘇生術あるいは反魂スキルをコピーして使えば2倍復活者を得られるよ。もう少しで使えるようになるから、待っててね」
さらりと楓さんが言う。
「何でそれもっと早くいわねえの……」
武藤さんが半目で言う。
「まずは作戦立ててからと思って。予想外の情報が出てきちゃったから今開示したの。現状で一番必要なものをコピーしないと24時間固定だし、まだ使えないし」
「納得できるようなできねえようなラインで話をするのやめてくれ」
姉貴は昔からそうだ、と武藤さんが愚痴る。
頼れる兄という感じの武藤さんにもこんな一面があるんだなと思うと、少し微笑ましい気分になる。
「これからの動きを整理しましょう。三鷹くん、武藤くんにリストを渡してください。武藤くんは直感スキルでリストの人間をチェックしながら聞いて下さい。チェック理由をあとで聞きますのでまずはチェックだけ。真瀬香澄さん」
原国さんが母の名を呼ぶ。
母は原国さんを見て、頷く。
「大丈夫です。わからないことは、後でまとめてお聞きします」
気を取り直した母は、原国さんに言い、僕に「心配かけてごめんね、もう大丈夫だから」と微笑む。
原国さんは母の言葉に頷くと、無線で血の紋を持つ人を呼んだ。
「彼は血の紋を持つ人の中で、どの周回でも誰よりも協力的でしたから」と原国さんが言い、連れてこられたのは。
夢現ダンジョンをPVPゲームの夢だと思ってPKを繰り返した、僕の友人、根岸くんだった。
「敬、無事だったんだな!」
「根岸くんも無事でよかった」
ほっとした表情を見せた彼は、軽く説明を受けると「俺に出来ることはなんでもする」と言うと左腕の袖をめくり上げて差し出した。
武藤さんはリストのチェックを、有坂さんは根岸くんの血の紋を使い血の蘇生術を使う。
「……っ」
血の紋からの蘇生には、紋を持つ人間に激痛を与えるという。それでも根岸くんは痛みを堪えて、死者の復活を見守る。
蘇生されたまだぼんやりしている人を、三鷹さんが部屋から連れ出して、部屋の外の原国さんの部下へと引き渡す。彼らは別室で説明を受けるらしい。
原国さんがこれからの動きと、わかっていること、クリアすべきことを整理して話す。
それを受けて、僕たちは、動き出した。
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