第134話

やはり翌日から騎士団と別行動になった。騎士達は街の周りを巡回して魔獣を討伐していく。私は畑や井戸に魔法を掛けていった。


「エサイアス様、ナーニョ様、本当に、本当に有難う御座いました」

「短い期間でしたが、この街も素晴らしいですね。また寄らせていただきますね」


私達は街長に感謝した後、街を出発した。


王都までは三日ほど。これから王宮へ戻り、私はどうすればいいんだろう? これからの事を不安に思いながら私達は王都へと向かった。


「ナーニョ様! エサイアス様! 十二騎士団の方々、おかえりなさい!」


大勢の街の人達が沿道から声を掛けてくる。

みな花をもって私達を迎え入れてくれた。


私は今までのことを思い出し、巡視から帰ってきたのだと実感する。今まで色んなことがあって、支えられてきたわ。


時には冷たい言葉を投げかける人もいたけれど、みんなに守られて帰ってこれた。街の人達からの『おかえりなさい』という言葉に零れる涙。


……あぁ、帰ってきてよかった。


やっと帰ってきたのだと実感して手を振り応える。騎士達の中には涙を流す人も大勢いた。長かった巡視。


最初は皆、死地に向かうように顔色が悪かったけれど、魔力持ちを見つけ、異次元の空間を閉じる事ができた頃にはみんな前を向いていた。誰一人欠ける事のなかった巡視。

とても素晴らしいことなのだと思う。


私も少しは役に立てたかな。


私達は歓声に包まれながら王宮に入っていく。そして王宮の広間に案内されると、会場からは割れんばかりの拍手が送られてきた。中央にはお父様がいる。


私達は陛下の元まで歩き、跪いた。宰相の静粛にという言葉で会場が静まり、みんなが一言を聞こうと静かに耳を傾けた。


「王宮騎士団第十二団、ただいま巡視より帰還致しました」

「ご苦労であった。一人も欠けることなく無事に戻ってきてくれたことを嬉しく思う。そして今回の巡視の成果、既に王宮に伝わってきておる。後日、褒美を取らせる」


会場がまたワッと盛り上がった。私達は歓声に包まれたまま、会場を後にした。


「エサイアス様、皆様、本当にお疲れ様でした。ゆっくりと休んで下さいね」

「ナーニョ様も長い間お疲れさまでした。二週間後には祝賀会があると言っていたし、それまではゆっくりして下さいね」


そう挨拶をした後、エサイアス様と別れ、私は王宮の自分の部屋に戻った。湯浴みをしてから部屋着を着てベッドにダイブした私。


……ようやく巡視が終わった。


自分のベッドで寝っ転がってじわじわと実感が湧いてくる。色んな事が頭を駆け巡る。


「おねえちゃん! おかえりなさい! あ、寝てた!?ごめんね」


思い返している間に少し寝ていたみたい。私としたことが。


「ううん、大丈夫よ。ローニャ、ただいま」


どうやら今日の執務などは休みだったようで私が帰ってきた知らせを聞いてすぐに部屋に来たらしい。


「お姉ちゃん、おかえりなさい。やっと巡視が終わったね! これからまた研究所で新しい魔法の研究が始まるみたいだよ。

楽しみなんだ。魔法で人の役に立ちたいって思ってたからね。そういえばお姉ちゃんは今度の祝賀会でお父様に何を願うの? 褒美が貰えるんでしょう?」


「そうなの? うーん、褒美ねぇ。考えた事がなかったから分からないわ。要らないかなぁ」

「お姉ちゃんは無欲だね。考えておく、でいいんじゃない?」

「そうね。それがいいかも」

「で、きっとエサイアス様が願うのはお姉ちゃんとの結婚でしょう?楽しみだね♪」


「それはどうか分からないわよ? 別の事を願うかもしれないじゃない。

私の事よりローニャはどうなの?好きな人はいないの?」

「うーん。好きな人というか、気になる人はいるけど、身分差で結婚出来ないかも? でも、もう少し実績を積めば出来るのかなぁ……」


ローニャは私の事を面白そうに聞いていたのに自分のこととなると途端に困ったような表情になった。


「私の知っている人なの?」

「うん! もちろん」

「誰なの?」

「えっとね……。カシュール君、なの」

「そうなの!? 何が切っ掛けだったの?」


私は妹の初ロマンスに興味津々で聞いてみる。どうやら姉にはあまり深く聞かれたくないらしい。


「カシュール君はローニャの事をどう思っているのかしら?」

「うーん。多分、好いてくれているかも? たまに街に一緒に出掛けたりするもん」


確かカシュール君の家は子爵家だったはずだ。王族の結婚なら子爵家では爵位が低いと駄目だったはずだけれど、カシュール君は魔法使い見習い。

グリークス神官長の下でしっかりと勉強しているし、魔力量の伸びも良くてこの世界初の魔法使いになる。


将来を考えれば結婚出来そうな気がするわ。


後は父達がどう思うかによる。私は素直に妹の結婚を応援したいと思う。二人が身分差で結婚出来ないのであれば私の褒美を使ってもいいと思う。でもそれをローニャの前で口にするとローニャは遠慮してしまうから後で兄様に相談しよう。


『ローニャ様、今日の仕事はもう終わったの?』


早速話をしている最中にカシュール君から伝言魔法が届いた。


『今日は休みにしたの。巡視が終わって王宮がバタバタしているからね。お姉ちゃんも帰ってきたし、後で連絡するわ』

『了解! またあとで!』


「ふふっ、仲が良さそうね。早く結婚しちゃいなさい」

「もう! 揶揄わないで。だからお姉ちゃんにいうのは嫌だったの」


ローニャの顔は真っ赤になりながらぷんぷんしている。相変わらず妹は可愛い。大きくなっても小さな頃の怒り方は変わっていないわ。


私はローニャの怒るのを笑顔で眺めていた。



王宮に戻って来てから祝賀会が開かれるまでの期間はすることが無いと思っていたのは間違いだった。


今まで以上に忙しく動いていて分刻みのスケジュールにぐったりしそうだ。神殿や研究所、医務室から声が掛かり、今までの報告書の詳しい説明や神殿で子供達の様子を見に行ったり本当に忙しかった。


そんな中、唯一良かったのは例の服。やはり王宮や街で動くのに騎士服はちょっと……。とストップがかかり、新たに作られた聖女っぽい服を着て出歩く事になった。


これなら私は楽でいいし、他から見ても私だとわかりやすいようで苦言を呈する人はいなかった。

むしろ指輪の聖女様だと道行く人達に声を掛けられてしまうのが少し気恥ずかしい。

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