第130話

「おねえちゃん、どう? ドレスがすっごく可愛いよね? お姫様みたい!」

「ローニャ、良く似合っているわ。お姫様みたいじゃなくて本当にお姫様なのよ? おしとやかにね?」

「そうだったね! 大丈夫。ちゃんと勉強して先生には合格をもらえているんだからっ」


ローニャと話をしながら結われた髪を鏡で確認する。耳を出す様にしっかりと結われている。侍女達の仕事は凄いなと感心してしまう。

いつもはしない化粧もこの日ばかりはしっかりとしてもらった。


「ナーニョ様、ローニャ様。お時間で御座います」


侍女長が私達を呼びに来た。私達は護衛と共に今日の会場へと足を運んだ。王宮のホールの袂。


「お待たせしました」


家族は先に集まっていたようだ。


「ナーニョ、ローニャ。とても美しい。さすが自慢の娘だ」

「「お父様、有難う御座います!」」


ローニャは緊張していないのか尻尾をブンブンと振って喜んでいる様子。


私はというと、袂から見える大勢の人間に緊張し、手汗が酷い。


「ナーニョ様、今日のナーニョ様は誰よりも美しく、女神が舞い降りたのかと思いました」


その声の主はエサイアス様だった。


「エサイアス様。お褒め頂き有難う御座います。エサイア様もとても素敵です。世の令嬢達はエサイアス様の姿に倒れてしまうかもしれませんね」


今日は兄の立太子の儀だが、エサイア様率いる第十二騎士団が巡視を行い、異次元の空間を閉じた事や魔力を持つ者の発見などの報告がある。


この報告のために団長のエサイアス様と隊長達が参加する事になっている。


みんな一張羅を着て緊張しているようだ。


「お時間となりました」


宰相が声をかけ、私達は兄の後を付いていく形で歩いていく。


ホールには人、人、人。視線がこちらを向いていると思うと、ガクガクブルブルと震えてしまう。


「おねぇちゃんっ。そんなに震えなくても大丈夫だよ。おねえちゃん可愛い」


ローニャは小さな声で笑っている。こんなに大勢に見つめられている中、ローニャは平然としているのを見て妹凄い! と感心してしまったわ。


「これより、第三王子であるケイルートの立太子の儀に入る」


父の宣言で公務用の司祭服をグリークス神官長が入場し、ナーヴァル兄様が神官長に王冠を返し、ケイルート兄様が王冠を受け取った。


「皆も耳にしていると思うが、この度、グレイスの父であるフォード公爵による我が娘、ローニャの誘拐未遂事件。

グレイスは公爵の命令で犯罪者に手を貸した事で北の神殿に永の預かりとなった。

ナーヴァルは何も知らなかったとはいえ、グレイスの夫である。

妻の行いを見抜けなかった責任で廃太子とする。

これにより第三王子であるケイルートが王太子となった。ナーヴァルは王子に戻り、ケイルートの補佐となる。以上だ」


私の居ない時に色々な事が王都では起こっていたのだろう。


ジョー侯爵の影響は様々な貴族に及んでいたと聞いた。あまり貴族の事件に疎い私だけれど、彼らが居なくなった事でローニャを取り巻く環境が一気に良くなって安心したわ。


貴族達は特に騒ぐことなく会場は粛々と立太子の儀は進んでいった。


「引き続き、現在、王宮騎士団、第十二騎士団の報告に入る」


宰相の言葉にエサイアス様や隊長達が入場し、父の前で跪いた。


「第十二騎士団団長、エサイアス・ローズド・シルドア、報告のためガーナントの街から急ぎ、戻りました」


父はエサイアス様達の挨拶を受けた。その後、エサイアス達は立ち上がり、国王陛下の後ろ並んだ。


「この度、ケイルートの立太子の儀に合わせて報告がある。我が国の騎士であるエサイアス・ローズルード・シルドアは皆も知っている通り、第十二騎士団の団長であり、今年の始めから各領地に巡視を行っていた。

その巡視には我が娘ナーニョも同行し、時に魔獣の討伐に参加し、時に怪我人を治療してきた。

その際に井戸の水質の改善や農地の改善も行ってきた。訪れた領地は今年豊作の兆しが出ていると報告が上がっている。

飢えの恐怖が遠のいた」


国王がそう口にすると会場が興奮しはじめているようで少しずつざわつき始めた。


「まだある。ノーヨゥルの街やガーナントの街で魔力を持つ者が見つかった。これから街の調査に入るが、将来は我が娘ナーニョやローニャだけに負担を負わせるのではなく、魔力を持つ我ら人間が怪我人を治療するようになるだろう。

そして、最後に。

この度、この世界の悲願である異次元の空間を塞ぐこと。

研究所が開発した魔法によって、ついに空間を閉じることが出来たのだ。王宮騎士団が湧き出てくる魔獣を討伐し、ナーニョが魔法で異次元の空間を塞いだ。

我々は、ついに魔獣の恐怖からも打ち勝つことが出来たのだ!」


そう言うと、一気に会場のボルテージは上がり歓声に包まれた。


「我ら全ての人の願いが、悲願がようやく達成出来た。これも偏にナーニョとローニャのおかげだ。二人がこの世界を救ってくれた。我らは感謝しなければならない」


地響きのような歓声。


人間の世界では異次元の空間を塞ぐこと、つまり魔獣の脅威が減ることだ。


これは私達が生まれた世界でも同じこと。


魔獣によって自分の大切な人が死んでいく。そんな悲しい現実がまだこの世界には沢山ある。


その辛い経験を知っているからこそ人々はこの奇跡を心から喜んでいる。


私とローニャが来たことで変わったのだ。

私は彼らの喜ぶ姿を見て涙が出てきた。


ずっと悩んできた。

私は将来何になるのか。

そのために巡視に同行した。

様々な魔獣と戦い、様々な怪我人を治療してきた。

畑や井戸にも魔法を掛けてきた。


最初は人々に願われるまましていた。けれど、怪我を治療する度、魔獣を討伐し街に戻る度に感謝される。


擦り切れていた気持ちが街の人達の温かい心で反対に癒されていたのだと思う。


こんな私でも役立っている。

本当に良かった。

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