第110話
翌日は昨日と同じようにローニャと共に巡視に周り、小さな魔獣を討伐したり、雑草を刈って荷車にのせて歩いた。
「これだけ雑草を刈ったら充分だよ!」
ローニャは元気一杯で畑に撒く灰の事を考えているようだ。
今日は子爵とカシュール君が昨日収穫した穀物の実を元種として持ってきていた。子爵もやはり魔法を使う事に興味を示している。
この街では単純な魔法の使い方しかしていないので、街の発展に寄与する方法を知りたいのだと言っていた。カシュール君が王都へ行くのはまだ子爵から許可が出ていないようだ。
「じゃぁ、今日もみんなお手伝いお願いするね!」
ローニャの合図で昨日と同じように雑草を灰にしていく。
昨日は畑全体に灰が撒かれた状態だったが、今回は騎士達の協力で土に灰を撒いて貰った。昨日よりも五倍近く種を撒くことが出来た。
ローニャ一人では大変なので私も一緒にサーローの魔法を使っていく。サルードの指輪は一つしかないのでローニャにお願いしたわ。
「今日も一杯収穫出来て良かった! 連作は辞めた方がいいって研究所の人が言っていたから明日は違う苗を植えてもいいかもしれないね!」
昨日と今日の穀物の収穫で騎士の食糧は確保でき、街の人達の食糧にも余裕ができたようで一安心だ。
私はサーローで畑の土質をまた改善しておいた。
明日は別の事をやりたいからだ。
「明日から別の植物をここに植えていけばいいと思います」
子爵は頷いた。子爵から街の人にこの畑に野菜を植えるように伝えるようだ。
「明日は別の事をするの?」
「えぇ、街の人達の魔力を調査しようと思っているわ」
「そっか! 二人で調べた方が早いよね! 隊長さん、誰か私達と一緒に記録してくれる人を付けて欲しいな」
「もちろん騎士を付けますので心配はいらないですよ」
ローニャはウキウキと明日の事を考えているようだ。
畑を後にして今日は子爵の邸に子爵とエサイアス様と隊長が集まって話し合いをすることになった。もちろん私もローニャも参加する。
応接室に通された私達。
この街に来た当初の予定が少し変わったため再度話し合うことになった。明日から騎士達は午前中に巡視を行う。私とローニャは参加せずに街の人達の魔力を測る。
子爵の話ではカシュール君が一番魔法を使っているので魔力は一番多いのではないかと言っていた。だが彼には妹が二人いる。二人とも魔法を使えるようで訓練次第ではカシュール君よりも魔力の量は増えるかもしれない。
カシュール君も今は封印されているがまだまだ魔力の量はまだ増えるだろう。
子供を中心に魔力を調べていった方が良いということになった。
そして大まかな人数を調べてから研究所に指輪を作ってもらう事になった。魔法の成り立ちや使い方などこの街の人達の知識は殆どない状態。
やはりグリークス神官長が魔法を使う練習をした時のように指輪から入っていったほうがいいと思う。
そして子爵に前からずっと思っていた事を聞いてみる。
「子爵、気になっていたのですが、魔法使いの子孫がいるのはこの街の人達だけなのですか?」
「この街以外にもマーダイン公爵領にあるガーナントの街も大昔は魔法使いがいたと聞いたことがあります。もしかしたらこの街のように魔力を持つ人間がいるかもしれませんね」
この街以外にも魔法使いが落ち人としていたようだ。
「それにしても、何故カシュール君は魔法が使えるのに王都には伝わってこなかったのですか? 子爵も魔法を使う事が出来ますよね?」
「あぁ、それは国が魔法使いを探しているのを知りませんでしたし、私達も火や水が少し出せる程度で魔法使いというのか? 疑問でしたからね」
確かに。
魔獣が闊歩するのに王都まで行き来することは難しい。情報が断絶していておかしくはないし、自分たちが特別だと思っていなければ名乗り出ないだろう。私達は子爵の言葉に納得するしかなかった。
「ナーニョ様、カシュールの事を助けて頂き感謝の念に堪えません」
子爵から改めてお礼をいわれた。
「カシュール君は魔法使いになりたいと言っていましたね」
「えぇ、今まではただの思いつきだと思っていましたが、ナーニョ様とローニャ様の魔法を見て強く感じているようです。
王都に行って魔法を一から学びたいと言っていた」
「そうですか。子爵はカシュール君を魔法使いにさせる気持ちはありますか?」
「王都から離れたこの地域では魔獣の襲撃もあり、子供も大人同様の働き手としてみているのも多い。
王都の学園に来年から進学予定だったのですが、そういうわけにもいかない状況でした。ナーニョ様や騎士団の巡視のおかげで街は魔獣の脅威から遠のいた。
カシュールは偉そうな事を言っていますが、幼い頃から街のために魔法を使い、人がいつでも戻ってこられるように街を取り戻せるように頑張っていたのです。
カシュールが望むのであれば親としてなんとかしてやりたい。もし、魔法使いの道を示して頂けるのなら、不躾な願いですが、カシュールをナーニョ様に預かって頂きたい思っております」
ヒェル子爵は息子の将来を憂いているのかもしれない。
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