サイドストーリー ローニャの危機3

着ているのはマダム・レミアで試着した水色のドレスのみ。あの時眠気に襲われたのはきっと睡眠薬が入った食べ物だったのね。


エリスにやられたのか。


充分に気を付けていたけれど、ドレス店もグルだったのには気づかなかった。


どれくらい寝ていたのか全く分からない。


部屋自体がどこかの地下にあって時間の感覚がわからないもの。


ただ、予想としては神殿で治療を行った時に魔力は三分の一にも満たなかった。今は三分の二といってもいい状態。半日は経過しているに違いない。


あまりゆっくりしている間はなさそう。周りを見渡しても見知った顔は居ない。


ここでジッとしていても悪い方へ向かうだけね。


男たちの話を聞いても私は今夜すぐに何処かに連れていかれるらしい。


私はグリークス神官長に連絡を取ることにした。檻を掴み、他の人達には聞こえない程の小さな声で詠唱を始める。

檻が錆びた鉄で良かった。使い難いけれど、魔力を通せる。『グリークス神官長、聞こえてるかな?』言葉を送ると、神官長から手紙が早速送られてきた。


そうだ、神官長にはこの魔法を教えていなかった。


手紙を開けると、私の無事を確認するのと、今いる場所を知りたいという手紙。『ここが何処か分からない。でも、どこかの地下にいるわ。入り口の前にシルクハットを被った案内人?のような人達とごろつきっぽい人達が三人いるわ。

彼らの話では外に用心棒のシュロ―という人がいるみたい。私を売る?のかな?そんな話をしているわ』


しばらくするとまた手紙が届いた。


地下がある場所は数が少ないらしい。上位貴族の邸か、劇場、王宮、刑場などだ。今、神官長が王宮に連絡を取り、兄様達が必死に探していると書いてある。


必ず見つけると書いてあった。


私は手紙をポケットの中へねじ込む。しばらく様子を見ていると、先ほどの男たちが時間だと部屋に入ってきた。


どうやら数人の女の子達は檻から出されて何処かに連れていかれるようだ。泣き叫び抵抗する女の子達にも彼らは容赦がない。


私もああなるのだろうか。怖くてガタガタと震える。


……どうしようも無くなったらお姉ちゃんの所へ逃げよう。


魔力はギリギリ残っている。無駄には出来ないわ。魔力を貯める事に集中していると、男達はとうとう私の檻の前までやってきた。


覚悟を決め、詠唱を男たちから分からないように下を向き、口ずさんでいく。


「おい、お前。獣のお前だ! 青馬倶楽部の貴族達がお前を今かと待っているんだ。楽しみだなぁ。安心しろ王女様を嬲り者にする趣味のいいお方ばかりだ。」

「さぁ、出ろ!!」


私は男に力ずくで引っ張られたが檻をギュッと抱きしめて抵抗する。詠唱が終わった。


「お姉ちゃんの所へ!」


そう叫んだ瞬間、身体が光を帯びて一瞬にして景色が変わった。

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