第106話
巡視は順調だ。問題になるほどのやっかいな魔獣は見当たらない。たまに熊くらいの大きさの魔獣が襲ってくるだけだ。
「ナーニョ様、カシュールをどうするつもりですか?」
歩きながらエサイアス様は私に雑談という軽い感じで聞いてきた。
「そうですね。カシュール君の封印は保って三か月程度。その間にしっかりと反省すれば封印を再度しなくても良いと思っています。それに貴重な魔法が使える人間。
なるべくなら彼は魔法使いとして活躍してほしいと思っています」
「もし、封印を解くことになったらどうやって魔法を練習させるのかな?」
「彼を研究所に預けて最初は指輪で治療から始める方がいいと思いますが、神殿の方が彼を真っすぐにしてくれるのならそちらに預かってもらっても良いのかもしれません」
「そうだね。魔法が使えてちょっと気が大きくなる年頃だから仕方がない部分もある。グリークス神官長ならしっかりと彼を導いてくれそうだよね。
ここだけの話。あの人、怖いんだよ。一度、魔獣を倒すところを見たけれど、悪魔のようだった。
躊躇いなく大斧を振り回して敵をぶった切る。聖職者とは思えなかった」
「ふふっ。そうなんですか? いつもニコニコしているグリークス神官長からは想像が出来ないです」
「だろう?」
雑談をしながら巡視は順調に進んでいく。
「本日の巡視はこれで終了だ。午後から屯所が使えるように清掃をしていく。
それまではしっかり身体を休めてくれ」
「エサイアス様、今日はこの辺で」
私は治療のために昨日の街に向かった。狼型の魔獣を討伐したせいか街にぽつぽつと人の姿がみえる。こちらの街に戻るための準備をしているのかもしれない。
「ナーニョ様! 待っていました!」
少し顔色が悪そうなカシュール君は手を振って駆け寄ってきた。
「カシュール君、顔色が悪いわ。大丈夫?」
「うん、朝よりも魔力が身体をグルグルと動いていて気持ち悪いんだ」
そうか、昨日魔法が撃てなくなるほど魔力を使ったから魔力が満杯になっていなかったのね。
「こればかりは仕方がないわ。魔力を封印しているから気持ち悪く感じるの。そういう罰だもの」
「……うん。分かっています。俺、ナーニョ様とエサイアス様に叱られて、両親にも泣かれて痛いほど実感したんだ」
「さて、治療を始めるわ。カシュール君、怪我人はいるかしら?」
「うん! こっちに! 広場に集まって貰っています」
私はカシュール君の案内で広場に向かうと、そこには街の人達が数人いた。
ベッドから起き上がる事の出来ない人はいないようだ。
もし、街が魔獣に襲われた時、街を捨ててこの村に来る事を街全体で決めていたおかげでみんな無事にこちらに逃げてこれたらしい。
魔獣によって負った怪我は回復しているけれど、後遺症が残っているのでここに来たという事だそうだ。
私は一人一人丁寧に魔法を掛けていく。時間が立っているので治しきるには魔力の消費が多くなるが、人数は少ないのでなんとかなりそうだ。
「ナーニョ様!! ありがとうございます」
みんなの治療を終えてホッと肩を回す私。街の人は涙している人もいたわ。傷跡はやはり辛かったろう。
「ナーニョ様、治療魔法って凄いですね。ナーニョ様は聖女なのですね」
カシュール君は呟くように言った。
「私は聖女ではないわ。崇高な考えを持っていないもの。むしろカシュール君が羨ましいわ。自分の目標があるんだもの」
カシュールはナーニョを見て不思議そうにしていた。
治療を終えた後、街に戻ると騎士団の駐屯所は掃除が終わり、騎士達は駐屯所に荷物を運び終えたようだ。
私はヒェル子爵の邸の客間に滞在することになった。
魔獣は食糧を求めて民家の扉を壊したりしていたようだが、子爵の邸には厨房以外荒らされていなかったようで問題なく滞在する事ができるようだ。部屋に入ってホッと息を吐く。
やはりテントより部屋の方が落ち着くわ。
人も居ないので教えてもらった井戸から水を汲んで部屋に持って入る。湯浴みは出来ないのが残念だけど、こればかりは仕方がないわ。
私は身体を拭き終わり、着替えも済ませてベッドでくつろいでいると、突然目の前に眩しい光が現れた。
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