異界の穴から落ちてきた猫の姉妹は世界で『指輪の聖女』と呼ばれています（旧指輪の聖女）

第103話

「ナーニョ！　魔法が使えるんだろ？　俺に教えてくれよ！」

カシュールは私の使う魔法に興味があるようでナーニョと話がしたくてうずうずしている。それを護衛達が抑えた。

「それ以上、近づくな！」

先ほど魔法で攻撃してきた事もあり、護衛達はかなり警戒している。私はどうしようかと考えあぐねていると、エサイアス様達が戻ってきた。

「ナーニョ様、ご無事ですか？先ほど子爵子息に魔法をぶつけられたと聞きました」

「エサイアス様、私はこの通り無事です。この程度であれば問題ないです」

「おい！　この程度ってなんだっ！　俺はもっと強い魔法が出せるんだぞ！」

カシュール君は怒りながら口答えをしている。

彼は気の向くままに魔法を使ってきたのだろうか。

子爵は止めてこなかったのだろうか。

先ほどの態度もそうだが、自分本意で魔法を使っていると遠からず彼は死を選択する事になる。

魔法が使える事はとても素晴らしいことでこの世界で誰にでも出来る事ではないわ。その分責任も重い。

魔法使いはか弱い。

自覚しなければ魔力剥奪する事も視野に入れなければならない。護衛騎士が止めるがカシュール君は興奮して魔法を繰り出そうとしている。

「いいわ、下がって。私が相手をします」

私はそっと指輪を付けて『スールン』と呟く。すると、木のように太い蔦がヒェル子爵と夫人に纏わりついて締め上げていく。

突然の事に子爵も夫人も驚いているが、徐々に苦しそうに声を上げ始めた。

「ち、父上と母上を攻撃するなんて卑怯だぞ！」

「なら、貴方が助けなさい」

カシュール君は水の玉を出して投げつけるが蔦には効かない。何度も何度も投げつけるが蔦は伸びていくだけだ。

風魔法も出すが蔦を切る事が出来ない上、子爵たちにぶつかり、傷を負っている。

「くっそぉ！　これでどうだ！」

ハァハァと息を切らしながら大きな火の玉を作り蔦に向かって投げた。

……このままでは両親が彼の火で焼け死ぬだろう。

火の玉が大きな炎となり、蔦をパチパチと焼け始めると同時に両親の悲鳴にカシュール君はようやく我に返ったようだ。

「父上！　母上！」

彼は急いで水の玉を出そうとするが、魔力が切れたようで火を消す事が出来なかった。ナーニョはすぐに呪文を唱えて水を掛ける。

そしてすぐにヒエストロを二人に掛けた。

子爵と夫人はどういう状況かすぐに判断したようだ。ナーニョに礼を執って動かない。ナーニョはそのままカシュールの前に立ち、頬を殴った。

「いてぇ！　お前！　可愛い顔した獣だと思ってたが魔獣だ！　お前は魔獣女だ！」

彼は癇癪を起こして叫んでいる。その様子を見ていたエサイアス様が口を出す。

「カシュールと言ったか。お前は何を見ているんだ？　魔法が使える事がそんなに偉いのか？」

「俺は偉いんだ！　俺がこの街で一番強いんだぞ！」

「先ほど父親達を殺し掛けたんだぞ？　お前の短慮で、だ」

「……あれは、たまたまだ！」

エサイアス様の言葉にぐっと言葉に詰まったカシュール。一生懸命に言い訳を探そうとしている。

「お前はただの騎士だろう！」

その言葉に子爵は止めに入るがエサイアス様は子爵に手で制する。

「俺は騎士だが、王宮騎士団でずっと魔獣を討伐してきた。君よりもっと小さい頃からだ。

お前はその使える魔法で何故街を取り戻さないんだ？　現に俺達騎士団は魔法を使わずに街にいた魔獣を討伐している。

それ以上の事があるか？」

「お前だってあの魔獣女の植物と戦った事がないだろう！」

「……ならやってみよう。ナーニョ様、先ほどの魔法をシャローに掛けて下さい」

「わかりました」

エサイアス様が合図すると、シャロー隊長は一歩前に出て先ほどの子爵と同じように蔦に囚われる。

エサイアスの剣はシャロー隊長に向けている。試しに一本切るが、次々に蔦はシャロー隊長を逃がさないように生えてくる。

「では、いくぞ」

エサイアスが隊長に向けて言うと、隊長は頷いた。すると目にも止まらぬ早さで蔦を何度も斬りつけていき、蔦が伸びる勢いよりも剣の動きが早く、隊長をすぐに助けた。もちろん傷一つない。

「……カシュール子爵子息、お前は見てどう思った？　我々は常に魔獣と向き合ってきた。多くの仲間を失い、それでもこうして国や人々の命を守るために巡視をしている。

命の覚悟は皆出来ている。お前はどうだ？　癇癪で両親を殺しかけた。

魔法が使える事は素晴らしい。だがお前は尊大な態度で何の役にも立っていない。

ナーニョ様は一人女性の身でありながら巡視に同行してくれている。

何千人もの人達を癒し、私達と共に何十もの魔獣と戦っている。

ナーニョ様は落ち人でありながらこの世界を救うために尽力してくれている。魔獣女という侮辱は許さない。

それにナーニョ様は国王陛下の養女になった。王族を馬鹿にするなどもっての外。不敬罪に値する。死して償え」

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次話からサイドストーリーが入ります。

読みづらくなると思います…。

｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡