第94話

「さぁ、今日も巡視に向かいましょう。みなさんの体調を細かく見て、王宮に報告書をあげないといけないですね」

「分かりました。ほんの僅かでも魔力が自分にあると聞いて嬉しい気持ちになります。では向かいましょうか」


 私達はいつも通り騎士団と合流した後、巡視に出掛けた。


 ちょくちょく彼らの体調を確認していたが、特に変わる事はなくお昼前には魔力も無くなっていた。


 食事の効果は午前中までのようだ。


 私にはごくわずかな魔力だが、護衛騎士達にとっては違いを感じる事が出来たと言っていた。


 常に体力を使っているからごく僅かな差でも感じる事が出来たのだろうか? 


 護衛騎士達は報告書を書き上げて休憩中にまたあの食堂に行くと言っていた。


 護衛騎士は基本ローテーションで私の護衛をしてくれているので休憩時間や休日はしっかりと確保されている。


 エサイアス様達に伝えはしたけれど、確実な事はまだ分からないので数日魔獣肉を食べてみてからしっかりと報告する方がいいと話を護衛騎士達と話をしたわ。



 今日も神殿に怪我人が来ているため治療する。


 怪我人に魔獣肉の話を聞いてみたが、やはり癖が強くて好んで食べる人はいないと言っていたの。


 今日も治療を終えて部屋でくつろぐナーニョ。


 ローニャからの連絡を聞いてやっぱり自分の感じていた事は間違い無かったと思った。


 今日は朝から研究所に魔獣の干物を持ち込んだローニャは魔獣の肉に魔力を持っていることを伝えたらしい。


 半信半疑になりながら研究員達は魔獣の干し肉を口にしたらしいが、特段身体に変化は無かったようだ。


 生肉だとどうなのか? という話になり、王宮の騎士の討伐に参加し、その場で研究員が魔獣肉を譲り受けて焼いて食べたのだとローニャは言っていた。


 やはりクソ不味かったようだ。


 騎士達は魔獣肉を食べる研究員に引いていたらしい。


 元々研究員は少しイカレタやつらだったが、とうとう魔獣肉まで口にしたぞ、と。


 そして研究室に戻り、ローニャが確認したようだ。魔獣の持つ魔力を感じたようだ。


 そして今、魔獣を食べた研究員達は他の研究員に研究対象として実験に参加させられているのだとか。


 ローニャの声のトーンからしてその様子はとても面白かったようだ。


 あと、私が送った魔獣の玉。


 あれも色々な角度で調べが始まっているようだ。まだ確証は持てないらしいけれど、ローニャの魔力を玉に纏わせると色が濃くなるようだ。


 無理やり魔力を流そうとすると、自分の魔力が倍にして押し返されるような感覚になるのだとか。


 まだ玉の扱いも研究が始まったばかり。

 今後の研究に期待したい。


 私の方も護衛騎士が魔獣料理を食べた話をローニャに話したわ。


 詳しくは報告書にあげると言ったけれど、大まかに話した内容は研究員を刺激しそうだと喜んでいた。


 こうして二週間ほど滞在した頃、巡視の成果が実り、ようやく魔獣も減り始めた。


 欠損の治療を受け、回復した人も多くなってきた。


 やはり怪我の治療が出来ると聞くと近隣の村々から怪我人が集まってくる。


 商会に務めている人達はほぼ治療を終えたので怪我人の治療に切り替わった。


 怪我人の治療を続けて行っているうちにやはり街の人達は一段と明るくなったようだ。


 あれから護衛騎士から報告を受けたエサイアス様や騎士達は挙って魔獣肉を食べに食堂へと足を運んだ。


 やはり騎士達は翌朝身体の変化を実感したみたい。


 癖は強いが翌日の身体が軽くなるから魔獣肉を食べるという騎士も中にはいた。


「ナーニョ様、魔獣も落ち着いてきたようなので来週にはここを発つけれど大丈夫かな?」

「わかりました。最近は怪我人も落ち着いてきたので田畑や井戸の方へ切り替えていこうと神官と話をしていたのです。丁度いいですね。次はどこの街になるのですか?」


 エサイアスは笑顔で話をする。


「次の街はラーシュ。海辺の街だよ。温暖な地域だったはずだ」

「海を見たことがないので楽しみです!」


 私は次の街に思いを馳せた。


 どんな街だろう?


 ローニャには申し訳ないけれど、巡視に付いてきて良かったと思う。様々な街に行く事ができて、色んな人達に会う事ができた。この街もそう。


 露天商の人達をはじめ、みんなが声を掛けてくれる。最近は自分でも少し変わり始めたんじゃないかと思う。みんながこうして声を掛けてくれる。


 エサイアス様をはじめとして身近な人達が私の事を気に掛けて心配してくれる。今までもそうだったのだろうと思うけれど、どこか不安で信じ切きれなかった。


 この巡視をこのまま続けていけばもっと自分は変わる事ができるのだろうか?


 まだ答えはでないけれど、少し前向きになっている。


 そんな中、ローニャから伝言魔法が届いた。

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