第13話
目を覚ますと、私は柔らかな芝生の上に倒れていたようだ。
「ローニャ!!」
魔物の事を思い出し、慌てて妹を探すと、妹は隣で倒れている。
……息をしている。
良かった。怪我もないみたい。
ナーニョは気絶している妹を心配し、握っていた指輪をヒエロスの指輪に変えて指にはめた。
咄嗟の事とはいえ、やはり指輪を握ったまま魔法を使うことは危険だった。
異界の穴に落ちてしまった私達。
妹も道連れにしてしまった事を後悔した。
「……デス? ……カ?」
突然の声に驚くナーニョ。
声のする方に振り向くとかっちりとした服を着こなした人物が立っていた。
!!!!
耳が無い!
驚きを隠せないナーニョ。
焦って周りを見渡してもここがどこか分からない。
見上げると、空の高い場所に異界の穴がぽっかりと空いていた。
……これでは帰る事が出来ないわ。
きっと向こうから異界の穴はすぐに閉じられる。
もう、私達は帰る事が出来ないかもしれない。
「……デスカ?」
人間に声を掛けられてようやく自分の置かれている状況を把握出来た。
ここは人間の世界。
人間の男の人が何かカタコトで話をしている。
その後ろには不思議な制服を着た女の人も寄ってきた。
魔物から逃げ、人間界に来てしまった。
あまりの情報量の多さに私の視界は暗転した。
次に目を覚ました時はフカフカのベッドの上だった。
目を擦りながら起き上がろうとすると、背中に痛みが走る。
「お姉ちゃん! 目を覚ました? ずっと眠っていたんだよ。心配したんだからっ」
ローニャが泣きながら駆け寄ってきた。
「ローニャ、大丈夫だった? 怪我しなかった?」
「私は大丈夫。お姉ちゃんが庇ってくれたから怪我一つ無いよ」
「ここはどこかな?」
「分からない。人間の世界なのは分かったけど、カタコトしか聞き取れないの。
あ、お姉ちゃん怪我してたよね。
人間の男の人がお爺さんを連れてきてお姉ちゃんの背中に何か薬みたいなのを塗っていたわ。
その後、女の人が白い布でグルグル巻きにして服を着せて出て行ったの」
「そうなのね。ローニャはいつ目覚めたの?」
「少し前、かな。男の人に抱えられて部屋につれてこられた時に目が醒めたの。ビックリしたわ!! フサフサの耳が無いんだもの!」
どうやらローニャもここが人間の世界に来たことは理解したようだ。
「あ! お姉ちゃん、怪我してたよね。今、回復させるからね!」
ローニャはそう言うと、ネックレスから指輪を取り、指に付けてヒエロスと唱えた。
「有難う。ローニャのおかげで怪我が治ったわ」
「これくらい何でもないわ!」
ナーニョは背中の痛みも消えて妹の無事を知ると、少し余裕が出てきた。
部屋を見渡すと、とても豪華な部屋だという事に気づいた。
王族とか貴族が住むような部屋なのか?
私達が住んでいた教会の部屋は木の壁に硬いベッド、小さな机しかなかった。
ここは白い壁に花柄のカーテン、ふわふわのベッドに丸いテーブル。
とてもお金が掛っていそうだ。
――コンコンコン
ノック音がし、妹と共にそちらの方に目を向けた。入ってきたのは最初に見た男の人だった。
「……シタカ?」
どうやら私達を心配しているような感じで話をしている。
後ろから女の人がコップと水差しのような物を持っている。
どうやらそれを飲むように言っているようだ。
私は起き上がり、言われるがままコップに淹れられた水を一口飲むと、キンッと頭痛がし始め、頭を抱えた。
「お姉ちゃん!? 大丈夫!?」
「大丈夫でしょうか? マーサ、すぐ医者を!」
!!!
驚いて男の人を見上げた。
「……言葉が通じる?」
私の言葉に男の人も妹も驚いた様子。
今度は上手く妹の言葉が聞き取れない。何か水に仕掛けがしてあるのだろうか?
コップの水を不思議そうに見つめていると、妹は私のコップを取り上げ、水を口にした。
「お姉ちゃん……?」
「ローニャ!!」
「言葉が通じたわ!!」
どういうことかは全く理解が出来ないけれど、この世界の物を口にした途端に言葉が明確に聞こえるようになった。
異界の穴を通ったせいなのだろうか?
さっぱり分からない。
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