第12話

 しばらく馬車は道を走っているとローニャが楽しそうに話し掛けてきた。


「お姉ちゃん、王都の街ってどんな所? 村とは大分違うの?」

「そうね、人が沢山いて店も多くて迷子になりそうだったわ。ローニャも気を付けないとね」

「そういえばお姉ちゃんが持って帰ってきた書類の中に魔法使いの教科書があったよね? あれって私も読んでいい?」


「いいけれど、馬車の中で読んだら酔うわ。後で見せてあげるね」

「絶対だよ! 私もお姉ちゃんと一緒に魔法使いになるって決めているの。

 毎日、神父様に言われた通り魔法を空になるまで使って一杯食べて大きくなるんだからっ」


 ローニャと他愛のない話をしながらこれからの事を考えていると、馬車は突然ガクンと止まったかと思うと馬が嘶き、急スピードで走り始めた。


 ざわつく馬車内。


「魔物だ!! みんな掴まれ!」


 誰かがそう叫んでいる。


 降り落されないように必死で馬車の椅子にしがみつく私達。


 スピードが出ているせいで衝撃が強い。


 気を抜けば降り落されそうだ。


 私は向かい側に座るローニャを見ると、ローニャも必死に椅子を掴んでいる。


 ガタガタッ、ガタン!!


 車輪は石に乗り上げたようだ。その衝撃でローニャの手が椅子から離れてしまった。


 その光景がスローモーションのように過ぎていく。


「ローニャ!!!!」


 ナーニョは馬車から放り出されるローニャの腕を掴み引き寄せる。


 二人はそのまま馬車から転がるように落ちてしまった。


 ナーニョはローニャを庇い、強く地面に身体を打ち付けてしまい、動けないでいる。


「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」


 ジッとしていれば魔物が来る、早く、逃げなくちゃ。


 ゲホゲホと息苦しく、動けない身体を無理やり起こしてローニャの手を引く。


「早く、隠れ、るのよ」


 ヨロヨロと歩きながら草むらの中に入る。


 ……隠れなければ、あの時のように。


 大丈夫、大丈夫。


 自分にそう言い聞かせて隠れる場所を探していると、隠れるのに丁度いい茂みがあった。


「ここに、隠れよう」


 ローニャは震えながらも私の指示に従う。


 自分が犠牲になってもいい、ローニャだけは守り切らないと。


 その一心で茂みに手を掛けた時、違和感に気づいた。


 ……異界の穴だ!


 なんて事だろう。こんな所に異界の穴が。


 さっきの魔物はここから出てきたの?? 


 異界の穴があると言う事はここから魔物が出てくるかもしれない。


 ……どうしよう。


 は、離れないと。


 ナーニョはローニャの手を引き、異界の穴から離れようと後ろを振り向く。


 だがそこにはグルグルと魔物がこちらの方へと向かってきていた。


「お姉ちゃん!!」


 ローニャが叫んだ時、魔物がローニャに向かって腕を振り上げた。


「ローニャ!」


 私は必死にローニャを抱きしめると同時に背中に痛みが走った。


「ローニャだけは守る」


 ネックレスに付けていた母の指輪を握りしめて魔法を唱える。


「ターフィル!」


 魔法は握りしめた指からいくつもの水刃が魔物に向かっていく。


 グォォォ!!


 魔物に的中したのは良かったが、魔法の威力が強く、ナーニョはローニャを抱えたままナーニョも吹き飛ばされ、そのまま異界の穴の中に落ちてしまった。

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