第10話
私は妹を守りたいから魔法使いになろうと決めて王都にやってきた事を話した。
すると祖母は涙を拭きながら口を開く。
「ナーニョ、貴女は魔法使いの素質は十分あるわ。私と同様かそれ以上の魔力量。きっと教会での生活がそうさせたのね。貴女の妹はどうなのかしら?」
「ローニャは私とは違い、聡明で思慮深くて研究者になれるのではないかと思うほど優秀な子です。私と同じ魔法使いを目指しているみたいです」
「ローニャにも一度会ってみたいわ。そうそう、これを渡そうと今日はここに来たの」
祖母はそう言うと、書類の束を差し出した。
……合格証!
その書類の中身は魔法使いになるための教科書や軍の服務規程、寮の手続きの仕方、出勤までのやる事や必要な事が書かれてあった。
「ありがとうございます!! 嬉しい!」
私は思わず立ち上がった。
これで妹と一緒に暮らす事が出来る。
今まで張りつめていたものが解かれた気分だ。
「ナーニョはこれから何処へ住むつもりなの?」
祖母は心配そうに聞いてきた。
「軍には家族寮があると聞きました。そこにローニャと暮らすか、街で小さな家を借りて住む予定です」
「……我が家にこない? 部屋も沢山余っているわ」
祖母は頬笑みながら言ったが、私は伯父の話を覚えていたので断ることにした。
「お、ばあさまに言ってもらえるのはとても嬉しいです。ですが、あの時、伯父さんに断られています。
きっと私達がおばあさまの好意で住んでも伯父さん達はいい思いはしないから……気持ちだけは受け取っておきますね」
「そう、分かったわ。合格が決まったのだからすぐにハナンに帰るのでしょう?」
「はい。神父様と相談して今度は妹と一緒に来る予定です。楽しみ!」
「こっちで家を借りるとしてもお金はどうするの?教会からは出ないはずだけど。それまでこの孤児院で過ごすのかしら?」
「いえ、神父様の話では村が廃村になる時に豹の軍人さんが村からお金をかき集めてくれて教会に寄付という形で渡してくれたのです。
神父さまとシスターはそのお金を大事に取ってくれていてそのお金を使いなさいと言われています」
あの時の軍人さんには感謝しかない。
会う事があればお礼を言わなければいけないと思っている。
「そうなのね。ナーニョが優しい人達に囲まれていてよかったわ。何か困った事があればすぐに私を頼りなさい」
「分かりました」
その後、街の話や軍の話を少しした後、祖母は家へと戻っていった。
執事や家紋の付いた馬車に乗っているということは祖母の家は豪商か貴族なのかもしれない。
私は片田舎の孤児だったせいかあまり貴族という物を知らない。
王都や大きな街にはそこを治める王様や貴族がいるらしいけれど、見たことがないので何処かの物語じゃないかとさえ思っている。
貴族からすれば孤児なんて引き取りたくないだろうという事も分かる。
住む世界が違うのだろうと納得するナーニョ。
祖母が帰った後、神父様に合格した事を伝え、ハナン村に戻る事を伝えた。
「ハナン村に帰る前にお土産を買っていくのがいいのぉ。パロは甘い物が好きだったから何か買っていっておくれ」
「わかりました」
私はお金を持って露店街へ繰り出した。
一人で行くのは少し不安だったが、孤児院で一番年長のノーノが買い物に付いてきてくれる事になった。
ノーノは私の二つ下でいつもはお店の手伝いをしているらしい。
孤児院で過ごしている子供たちは十歳を過ぎると店で働くための練習をするそうだ。
村の方針とは違うようだ。
露店では様々な物が売っていて驚くばかりだった。
魔法の本に武器、食べ物、野菜、果物、魚。指輪だって置いてある。
「ナーニョ、気を付けなよ? 観光客はぼったくられるからな」
「そうなの?」
「あそこの指輪屋は安いだろう? 指輪に混ぜ物がしてあって魔法が使いづらいんだってさ」
ノーノは親切に説明してくれる。
私は小さな髪飾りを一つ。
それと神父様とシスターのために王都名物のグアルロームというお菓子を買った。
穀物を卵と和えて焼いた菓子と似ているけれど、少し違うようで甘い柔らかな菓子なんだとか。
きっと神父様は喜んでくれると思う。
あと、孤児院にいる子供達へロロの実を買った。
ロロの実は小さな赤い木の実でとても甘く、子供が大好きな食べ物だ。
案内してくれるノーノはロロの実を見て飛び跳ねる様に喜んでいた。
そうして私は村に帰る準備が整った。
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