第9話
「ただいま戻りました」
孤児院に戻ってすぐ神父様に今日の報告をする。
「試験はどうだったかのぉ?」
「持てる魔力と知識を全て使いました」
「ナーニョは回復魔法が得意なのかのぉ?」
「はい。試験官にも言われたのですが、攻撃の魔法より回復魔法の方が好きです」
「そうか、そうか。パロはお前さんの回復魔法を褒めていてな、もし国王軍の試験に落ちても教会で治癒師として働いてはどうかと話をしておったんだ」
「そうなんですね」
「ナーニョは古傷も治せるのであろう?」
「はい」
「回復は初期魔法でみんなが使える。だが、深い傷を治しきるのは相当な技量がなければ無理なのだ。どれ、試しにわしに掛けてみんかのぉ?」
神父様はカカカッと笑いながら掛けろと言っている。
まだ魔力は残っているので神父様の言う通りに指輪をつけてヒエロスを唱える。
そして驚いた。
自分が思っていたよりも魔力消費が激しい。
「し、神父様、どうしてこのような怪我を?」
「おぉ、これは凄いのぉ。教会の神官といい勝負じゃなかろうか」
どうやら私が試験を受けている間に神父様は街の外に出て魔物と対峙していたようだ。
国王軍に任せればいいと思っていたのだけれど、国王軍は異界の穴を閉じる作業をするのがメインの仕事。
教会は国王軍が討伐しきれなかった魔物を見つけ次第倒していくのだとか。
これは聖騎士が担っていると言っていたが、孤児院の神父様も戦っていたのは知らなかった。
「パロ神父も戦っているのでしょうか?」
「今はどうであろうのぉ。昔はワシと二人でそこら辺をうろつく魔物を退治していったがのぉ。アイツは魔法使いだったからのぉ」
だから私やローニャに魔法の勉強を教える事が出来たのかと納得する。
すっかり魔力が空になった私は用意されてあたシスターの料理を平らげてしまった。
「ねぇちゃん、よく食うな! すげぇ!」
「ふふっ、一杯魔法を使ったからね!」
最近まで知らなかったのだが、魔力が枯渇した場合、倒れる人がいるらしい。
生命の危険があるのだとか。
これは獣人の血が多いほどその傾向は高い。
人間の血が濃い場合は枯渇しても倒れることはないが、その分お腹が減る。
減りすぎて倒れることはあるが。
成長期に枯渇するまで魔法を使っていると魔力を貯める器が足りないと感じ大きくなるのだと神父は言っていた。
私は毎日枯渇するまで使っていたので相当な魔力量なのかもしれない。
移動の疲れもあって食後はすぐにベッドで眠りについた。
翌朝、子供達が起こしにきた。
どこの孤児院でも朝の掃除やお祈り、食事の準備などやることは同じで私はシスターと共に食事の手伝いをした。
ハナン村では私達姉妹だけだったが、ここ王都の孤児院は子供だけで三十人はいるようだ。
村の子供は魔物に親が殺されて行き場がなく教会に引き取られるのだが、王都の孤児院ではそればかりが理由ではないらしい。
どの子も素直で協力し合って生きているのには違いない。
食事を終えて、街の清掃の時間になろうとした時、一台の家紋が書かれてある馬車が孤児院の前に到着した。
「ナーニョ・スロフはいるだろうか?」
先に外に出ていた子供達はナーニョを大声で呼ぶ。ナーニョが外に出てくると、そこには執事服を着た狐獣人の男が立っていた。
「……わ、私ですが」
私が恐る恐る声を出すと、馬車の中から人が出てきた。
祖母だ。
「少し話をいいかしら?」
「はい」
シスターに談話室を借りて祖母と二人で話す事になった。
もちろん祖母の後ろには執事や護衛がいる。
「突然来てしまってごめんなさいね。どうしても会いたくなって。ナーニョは今までどのような暮らしをしていたの?」
私はハナン村の暮らしを話した。
どうやら祖母は私の下に妹がいる事も知らなかったようだ。
祖父と伯父さんが母と父の結婚を大反対していたが、母は既に私を身ごもっていたらしい。
祖母が仕事で王都を離れている間に母は家から追い出されたのだとか。
帰宅してからその事を知り、探したけれど見つからなかったのだと言っていた。
そして昨日、魔法使いの試験を受けたいと希望した子を追い払おうとした所、自分の名を出した子がいると聞いてすぐに見に行く事にした。
娘に似た子が目の前に現れて驚いた。
サーシャによく似た女の子。あの子はこんなに可愛い子供を産んでいたと知った。
そして私を上回るかもしれない魔法使いの才能に驚愕したこと。
それと同時にサーシャを追い出した兄であるガロに怒り。
試験の後、すぐに家に戻り、伯父であるガロを叱ったのだと言っていた。
祖父は数年前に他界しているようだ。
私は祖母に小さな頃の話、父と母と妹との生活を細かく話をして聞かせた。
そして村に異界の穴が空いて父と母が亡くなった事も。
当時、豹の獣人さんに助けてもらい、今のハナン村の教会で妹と暮らしている事も話をした。
祖母は何も知らずにごめんなさい、と泣いていた。
過去を振り返っても戻りはしない。
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