第8話

 私は祖母と受付の人に案内されて訓練場にやってきた。


 訓練場はとても広く、訓練を受けている軍人が大勢いた。


 私達は彼らを横目に訓練場の一角で試験を受けるようだ。


 魔法使いの試験を受ける人は多いのか私を見るなり、訓練を止めてニヤニヤと笑いながらこちらを見ていたわ。


 視線が意味するものはあまり良くない感じだ。


 獣人は皆大なり小なり魔法は使えるのだから魔法使いになるような者はほんの一部なの。


 試験を受けに来た者を馬鹿にしているのだろう。


「外野が五月蠅いわね。まぁ、いいわ。ナーニョ、指輪はどれを使う?」


 祖母が出した指輪は全て攻撃魔法の描いてある指輪。


 その中で一つあった。

 ターフィルの指輪。


「ターフィルの指輪を使います。でも、私の持っている指輪を使っても宜しいでしょうか?」


 私はネックレスから母の指輪を出して嵌めた。


「……それは、サーシャの指輪ね。いいわ。許可しましょう。ではあの的に魔法を当てて頂戴」


 私はその言葉に頷き、集中力を高める。


 お母さん、私、頑張ります。


 胸に手を当ててから魔力を指輪に注ぎ込む。


「あの的に当てよ、ターフィル!」


 すると指先から数十の水刃のナイフが現れて的に刺さっていく。


 その様子を見ていた軍人たちから歓声が上がる。


 祖母も受付の人も表情は変わらないようだ。


「数を見ると中々魔力がありそうね。三本ほど的を外れたわ。もう少し鍛錬が必要ね。では次、この指輪を使って回復させなさい」


 祖母が箱の中から取り出したのはヒエストロ(範囲回復)の魔法が刻まれた指輪だった。


 範囲魔法は初めて手にする指輪。


 上手く出来るだろうか。少し不安になった。


 母の指輪をネックレスに戻し、ヒエストロの指輪を装着する。



 ここに居る人は私を含め三十人はいる。


 自分を中心として半径十メートルで足りるだろうか。効果はどれくらいを要求されているのか分からない。


 村のおじいちゃん達はいつも古傷をさすっていたわ。


 私の魔法の効果が上がり、古傷まで癒えているととても喜んでいた。


 あのおじいちゃん達のように彼らもずっと魔物と戦い続けている。


 古い傷も多いだろう。


 私はまず指輪を通して半径十メートルの中にいる人の魔法の通り具合を確認する。


 一人、二人はどうやら負傷をしながら訓練しているようだ。


 殆どの人は古傷といって良い程の傷があるのが分かった。


 全てを確認し終えた後、


「全ての者を癒したまえ、ヒエストロ!」


 呪文を唱えた。


 母の指輪よりも回復魔法の方が無駄なく魔力を使えている気がする。


 元々回復魔法が好きだという事もあるかもしれないが。


 魔法は波紋を描くように光が人々を包んでいく。


 魔力は五分の一まで減ってしまっただろうか。


「おぉぉ!!! これは凄い!!」

「すげぇよ!」


 先ほどまで馬鹿にしていた軍人達の表情は一変した。誰もが興奮状態になっている。


「見習いシスター、すげぇよ! 俺の専属にならないか?」

「いや、俺の嫁に!!」


 軍人達がワラワラと私の元へやってこようとした時、


「下がれ! 試験中だ!」


 祖母は厳しい教官さながらの声で軍人達はパタリと動くのを止めて敬礼した。


 すぐに訓練場に居たリーダーが駆けつけて試験の見学は中止となった。


「ナーニョは回復魔法が得意のようですね。では次、筆記試験に移りましょう」

 



 場所を移し、今度は会議室のような部屋に通された私は一人席に座り待っていた。


 その間も祖母は表情を変えず一言も話すことはないようだ。


「では今から筆記試験を行います。書き終わったら手を挙げて下さい」


 渡された問題は神父様から教えられたものばかりだった。


 大丈夫これなら全部解けるわ! サラサラと書いていく。


 何度か見直してしっかりと自分の名前も確認した。


 名前の書き忘れは絶対に駄目だって神父さまから口が酸っぱくなるほど聞かされているからね。


「書けました!」


 私は手を挙げて受付の人に渡す。


「試験はここまでです。結果は三日後になりますので三日後にまたここ国王軍事務所へ来てください」

「分かりました」


 そう答えて受付の人に一礼し、元来た道を戻る。


 建物を出た時にはホッとした。


 祖母が魔法使いであればもしかして私は拒否されるかもしれない。


 縁故採用なんてないわよね……。


 そもそも私達は親族に嫌われているのだと思うし。


 父の親族は遠い所に住んでいるため何処か分からない。

 何処に住んでいるのか話をしていたようだけれど、私が幼すぎて覚えていないの。


 不確かなのだが母達の話を思い出すと、母はお嬢様のような暮らしをしていて旅をしていた父と知り合い恋に落ちて結婚したと言っていた。


 今だから分かるけれど、きっとそこには身分差が存在していたのだと思う。


 それでも父と母は仲が良くてとても幸せな家庭だった。祖母と会い、少し感傷的になってしまったわ。


 私は考えを振り払うようにそのまま一直線に孤児院へと戻っていった。

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