第6話 さらば、時代よ
何も知らずにバイトくん達は仕入れたソフトを棚に並べてくれます。
パッケージが可愛らしいイラストでしたから、かえって逆目立ちします。
それもあったのでしょうか。
店の紅一点。美人女子大生のA子ちゃんも購入したのです。
FMタウンズ版とX68000版、他にはようやく256色出せるようになった後期型PC-98版の、いわば高級機でしか拝むことの出来ないエロいイラストが数十点収録されていました。
おもえば、バイトくん達はお金持ってたんですよね。さすがバブル時代。
それから暫くのちにバイトくん達が美少女CG集の話で盛り上がっていました。そこにA子ちゃんもいます。
僕は店長らしく「商売だからね」という態度を貫きましたが内心はニヤニヤ。それは「あの猫耳バニーちゃん可愛いよね」という言葉が飛び出したからです。
猫耳バニーちゃん、そんな奇妙なものを描いていたのは僕だけです。
セーラー服の上着だけを羽織り下半身はバニーガール。でも耳は猫耳。どうみてもローティーンな女の子が縄で縛られ蝋燭を垂らされ……悶絶しているカラーイラスト。そこへ驚くべき事にA子ちゃんも食いつきました。
「えっちなイラストが多いけど……でも可愛いよね。とくに猫耳バニー。どんな人が描いたんだろうね」
心の中でガッツポーズ。
美女から絶賛された。
その瞬間、僕の中の何かが壊れたのかもしれません。盛り上がるバイトくん達に「猫耳バニーはね……」
そうです。
皆に喋ってしまったのです。
最初、「店長も冗談言うんですねぇ」みたいに笑って聞いてくれたのが益々いけなかった。
イメージスキャナで取り込んで、タウンズペイントのバケツツールで色を流し込んでいき、」
詳細に説明する僕の言葉に彼らの笑顔が引き攣っていく。そこで初めて自分が「やらかした」ことを知りました。
特にA子ちゃんの「汚いモノ」を見るような目つき……それは、そうでしょう。だってSMですよ。
悶絶する女の子を嬉々として描いていたのが、自分が普段勤めていた店の店長。
しかも元自衛隊で冗談も言わない強面な(イメージを演じていただけですが)アラサー男だったなんて女子大生にとって恐怖でしかありません。
「あ、終わったな」
もっとも、終わっていたのは店の売り上げだったわけですが。
バイトくん達とはその一件以来、逆に親密になりました!
A子ちゃんも笑顔で挨拶してくれるようになりました。
ようやく本音で若い子達と打ち解けあえると思ったのですが……本社の決定で閉店となってしまいました。
ちなみに、A子ちゃんは帽子のファッション誌バイトが決まったと喜んでおりました、優秀な子だったんですよ。
社長の野望は潰えました。跡地は地下に移されたファミコンショップが2号店をリニューアルすることになりました。
ゲーム屋さん強い。
僕は本社の企画室なる部署に配置換えになりましたが、その後暫くして退職。
転職先は『霊長類最強女子』も在籍した最大手警備保障会社です。
ここでも壮大な「やらかし」をしましたが、そのお話はまたの機会に。
いらっしゃいませ、ヲ客さま! 猫海士ゲル @debianman
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