2 パトロールへ
2
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
私たちは
バンに高級車、オフロード車にタクシーにパトカーみたいな車まで――――――何でこんな種類があるのだろう。
「いやァ、今日もいいドライブ日和だなァ!」
「どらいぶどらいぶ~」
カーオーディオからは、こぶしの効いた演歌が大音量で流れており、サングラスをかけて煙草を吸うスタイルがどう見ても堅気ではない。というか、この部署堅気じゃない人ばっか。怖い。
私はびくびくしながら、激しく揺れ動く車内で小さくなっていた。
「あ、やべェ。忘れるとこだったぜ。嬢ちゃん!
「ぇ……」
「ん? 車酔いするタイプだったかァ。そりゃ悪かったぜ」
灰狼さんは減速もせずに路肩のパーキングスペースに車を走らせ、急ブレーキで停止する。私の頭はがっくんがっくん揺れて、本当に吐きそうだ。
「レーダー起動させねえとな。しゃあねえ。
「うん」
盡くんは
『
あの
まるでプラネタリウムに来たみたい―――私の吐き気はいつの間にか消え失せ、宇宙空間に浮かんでいるかのような気分の高鳴りを覚える。
「すごい……」
「うちの車は特別製だからなァ。どの車を選んでも、
盡くんは、表示された大量の星々を指さして、数字を読み上げている。
「もし、〈3〉以上の数字が出たら、そこに急行する。あと
灰狼さんはニッと笑うと、再び急発進する。車が動くたびに星が一斉に動きはじめ、まるで映画でよく見るワープ空間に突入したみたいだった。美しいが、私たちは宇宙警察ではない。こんな危ない運転をしていれば警察に捕まるのも時間の問題だろう。パトロール中にパトロール中の警察に捕まるなんて笑えない冗談だ。
「も、もうちょっと安全運転で……」
「オラオラァ! ぶっ飛ばしていくぜェ!」
「いえーい。ぼうそうー」
「暴走じゃないよ!! 灰狼さん、盡くんが変なこと覚えてます!」
私の抗議は宇宙空間に吸い込まれて二人に届くことはなかった。こんな様子で街中を振り回されて、私の精神力が限界突破したころ様子が変わる。
「あ、〈3〉が出たよ」
「お、マジか。どのへんだ?」
「ここからもうちょっと先」
「うっし! 現場に急行だァ!」
多分、灰狼さんが一番ドライブを楽しんでいると思う。ツッコむ気力もなくなった私は、ただ流されて現場に行きついた。
「かきつばたあおい、大丈夫?」
「だ、だいじょうぶ。だいじょうぶ」
吐きそう―――この間から吐きそうになることばかりだ。車から転がり落ちるように下りた私は、近くの電柱にもたれかかった。どこからどう見ても酔っ払いと同じスタイルで、とても情けない気持ちになってしまう。
盡くんはそんな私を心配そうにちょんちょん突くので、何とか吐き気を堪えて姿勢を正す。
「嬢ちゃん。
灰狼さんに言われ、支給してもらったばかりの
今私たちの目の前にあるのは、大きな銀行だった。今日は平日の昼間で、たくさんの人が出入りしている。その奥―――銀行の中からは注意を促す黄色フォントで〈3〉の文字が表示されていた。
「
「えっと……その人は傀朧が排出されずに、脳に蓄積してて、放置すれば
「あァ。補足すると、
私たちは手分けして銀行の中に入ることになった。私は正面から入ると、窓口の前にたくさんの人が座っていた。なるべく怪しまれないようにカメラを起動させて詳しく調べるが、皆浮かんでいるのは〈1〉の数字ばかりで、対象の人は見当たらない。
『いいか、見つけたらすぐに報告しろよ。くれぐれも早まった真似だけはすんな』
『わかりました』
灰狼さんの無線の声に応え、銀行から出ていく人の傀朧深度をチェックしていく。
『ねえ。見つけたよ』
その時、
全部で六台あるATMの中、一番角にある機械の前で、そわそわと落ち着きのないおじいさんを見つける。白髪で杖を持ち、たれ目で温厚そうな雰囲気だった。その後ろでじっと待っていた盡くんは、私が来るとすぐにおじいさんを指さした。
「あの人見て。〈3〉だよ」
「ほんとだ……」
冷静に観察してみると、どうやらお金を振り込もうとしているらしい。しかし操作方法がわからず、おどおどと周囲を見渡している。
『灰狼さん。見つけました』
『ATMか』
『はい。お金を振り込もうとしているみたいなんですけど……』
その時、盡くんがおじいさんに
『
画面におじいさんの全身が映し出されると、あの声が聞こえた。
『
私はドキッとした。
『おい、ちょっと待ってな。おれが行くまで……』
すると、おじいさんが意を決したようにカバンから封筒を取り出した。
「もしかして……」
私はピンときた。おじいさんは詐欺の被害にあっているのではないか。挙動不審な点もそれで納得できる。もしそうなら、振り込む前に知らせてあげないと。
「あの! すみません」
私は気づけばおじいさんの元に向かい、話しかけていた。
おじいさんは一瞬驚いた後、スーツ姿の私を見て店員だと勘違いしたのか、すがるように私の腕を取る。
「ああ……孫が、友人に騙されて脅されとるって……わしゃどうしたらええんじゃ」
「落ち着いてください。もう大丈夫です。お話、聞きますから」
私はおじいさんを待合の椅子に誘導すると、一緒に座り、話を聞くことにした。
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